第13話 芽吹いた想いに蓋を閉じて
魔導具作りもそれなりの成果を出して、私は少しだけホッとしていた。これでダリウスの興味も私から逸れるだろ。そう安堵していた。
けれど、その頃からだろうか。
ダリウスと同じベッドで寝るようになって、彼の夢を見るようになった。正確には彼の過去だろう。魔力と共に彼の想いが夢という形で形成される。これはおそらく私が彼の周囲にある魔力を吸収し、それが蓄積したことによって投影された映像だ。
夢の──過去のダリウスは孤独だった。
その魔力の強さと体質ゆえに、理解者は少なく一族の中でも疎まれていたようだ。だからこそ幼少の頃から軍に身を置き、辺境の地で戦いに明け暮れていた。
戦場でも孤高で──たった一人で魔物の大群に突っ込んでいく。唯一乳母兄弟のカイルが後方で魔法援護を行っていることぐらいだろうか。
血生臭い生き方。
彼の人生に関われる人は少なかったのだろう。彼にとって日常は戦いと孤独。彼の弟は多少耐性があったのか、時折訪ねてきている姿を見る程度だ。
孤独の彼が少し変わったのは一冊の本。
それは孤独を紛らわせる暇潰しだったのだろうけれど、本はダリウスの孤独を少しずつ埋めていく。そうやって、季節が廻り本の数が増えていった。
そのたびに、彼の表情が少しだけ緩んでいく。その姿を見ると、少しだけ胸が温かくなる。
私をよく抱きしめるのは、現実だと実感する為なのかもしれない。初めて傍らに誰かを置くことが出来たのなら、それは奇跡だと思っただろう。
私にとって当たり前は、ダリウスにとって奇跡の連続だったとしたら、日々の態度も納得できる。けれど魔導具が完成すれば、彼の夢は叶う。そうすれば私の役割は終わりだ。きっと他に好きな人が出来る。
それでいいと思う。
朗らかに笑う女の人がいいだろう。優しくて、か弱くて、守ってあげたいと思うような──そんな人が彼には似合う。
私には優先してやることがあるのだから。気の間違いや、他に選択肢がなかったから選ばれたとして、それはずっと続くか分からない。なぜならダリウスは純粋な龍神族ではないのだから、習性から外れるだろう。
一度愛したら、生涯愛し続ける。その最期が来るまで──。
人間にとっては重い愛。
けれどそれが龍神族なのだ。
兄様とあの王女がそうだったように、思い続けるというのは難しい。大事な場所を大事にしていかなければ、その場所は音を立てて崩れていく。努力し続ける──私はまだその覚悟がつかない。
怖いのだ。
また失うのがとてつもなく怖い。
怖がっていたって何が変わるわけじゃないのに。
分かっていても、裏切られるのが怖い。優しかった人たちが、手のひらを返す。自分が助かるために、恩を仇で返す人だって大勢いた。
(私は──臆病で、怖がりだ)
だから私は、ダリウスに芽生えつつある想いを封じる。これは麻疹のようなものだと──勘違いなのだと。真に受けてはいけない。傷つくのは自分なのだから。
私は「夢の中だから」と、呟きながら彼を後ろから抱きしめる。
とても大きな背中だけれど、それが心地よくて温かい。もう、そんな行動をしている時点で、答えは出ているというのに。私はどこまでも意地を張り続ける。こんな想いはまやかしで、一時のものだ、と──。
***
城砦ガクリュウで過ごしてから一週間目の朝。
私はいつもより早く目が覚めたので、もろもろ状況整理しようと散歩することにした。この数日ほど、ほとんど寝てばかりだったのもある。体は完治までいかなくとも、歩き回れるぐらいには回復した。
(まあ、私の魔力は大して回復してないけれど。肉体の完治が先だからしょうがない)
ダリウスは隣で寝ていた。寝ている時は少し子どもっぽくって、何だか大きな犬のようにも見える。私が離れたからか、手が無意識に温もりを探していた。
「心配しなくても、約束までの時までは逃げないわよ」
逃さないという本能的なものだろうか。私は傍にあるクッションを彼に差し出すと、満足げに抱きしめて深い眠りに落ちていく。
私はガウンから、白のワンピースに着替えると、そっと部屋を出た。それにしても誰かと一緒に寝るのなんていつぶりだろうか。
(昔は兄様と、刀夜の三人で川の字で寝ていたっけ……)
私がいつも怖い夢を見るから、手を繋いで欲しいと言ったのが最初だった。父様と母様と一緒に寝るのが難しかった時、兄様や刀夜が隣にいると安心できた。
まさか家族以外で、一緒のベッドで寝るとは思わなかったけれど。まあダリウスとは添い寝だけだし、近くにいればいるだけ回復が早いのだ。完治のため──他意はないと私は言い切る。もうこの言い訳はずっと自分の中で言い聞かせるようにしていた。そうしなければダリウスの優しさに溺れてしまいそうになるからだ。
(……そう傷も癒えて、魔力も回復して、魔導具を仕上げて渡せば、この関係も終わる……わよね)
最近考えるのは、そればかりだ。
今のおかしな関係に馴染んでいる自分がいる事に驚いていた。兄様が亡くなって、母様も眠ってしまって、私と父様だけの生活が続いた。──といっても、天界では殆どのものが有事に備えて眠る場所だった。心も体もボロボロだった私達を守る為に作り出した居場所。
私たち、龍神族の生き残りたちが目覚めると同時に、父様は暫く眠ると告げた。私に何かあった時には、すぐに向かうと言ってくれたけれど、大怪我を負っても反応が無いところを見ると深い夢を見ているのか、刀夜が何かしたのかもしれない。
どちらにしても、自分でなんとかしなくてはダメだ。ダリウスは手伝ってくれると言っていたから、情報収集と、帝都までの道案内は頼むまでにしよう。けれどそれ以上は──彼を巻き込んではいけない。
(ダリウスと一緒の時間が増えれば増えるほど、後戻りできなくなりそうだもの)
面倒な婚約者候補を早々に追い出して──そうすれば婚約者ごっこも終わって、晴れて自由の身となる。





