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第12話 婚約者ごっこ 後編

「それで、話の続きは?」

「ああ……。先に言っておくが、前帝は十年前の一件で皇帝の座に上りつめたとはいえ、お前の言うトーヤという人物ではないだろう」

「やけに断言するわね。なにか根拠でもあるの?」

「まあ、幼い頃から知っている数十年の付き合いだ。トーヤという人物像にも合わない──ある意味、戦闘狂だから除外していいだろう」


 前帝と顔見知り。それだけでダリウスが、皇族または貴族でも身分が高いことがわかる。それにしても魔物を一掃する相手か。強いだろうか。

 もし私よりも強かったら──。

 自然と胸の鼓動が高鳴った。


「なんだ? 戦闘狂の前帝にでも興味あるのか?」

「まあ、強いのならいつか手合わせしたいわね」

「なんでまた」


 私を殺せるほど強いのか試したい──。

 そう口に仕掛けて言葉を飲み込んだ。ダリウスに戦っている姿は見せていないし、女が戦うことを快く思わない者もいる。なにより龍神族は高い戦闘力を持っているのだから、奇異な目で見られることもままあった。

 そんなことをダリウスが気にするとも思えなかったが、私は誤魔化すことにした。一つでも話してしまったら、何もかも話しそうになる。だから私は唇をキュッと閉じて話を逸らすのだ。


「……それより、残り二人は?」

「ふむ。お前が前帝に興味を持ってくれたなら、見込みがあると思ったんだがな」

「え?」

「いや、何でもない。二人目だが、当時はただの文官だった。魔物の出現の折いくつもの奇策によって帝都を守り抜いた知略の天才で、現在は宰相の地位にいる。名はギルバート=ウォーカー」

「宰相。策を巡らせるのが得意な刀夜なら、宰相ぐらいにはなれるとは思うわ」

「最後は魔術技術の名門であるオズワルド家当主、ソロモン=オズワルド。ちなみに今回の婚約者候補筆頭がその一族の令嬢だ」


 とてつもなく嫌そうに令嬢の事を語った。心から好きじゃないというのが分かる。何だろう苦虫を嚙み潰した時だって、もう少しマシな顔をしていそうなのに。


「そんなに、その令嬢が嫌なの?」

「ああ。生理的にああいった人種は好まない。他の者から見れば薔薇のような美しさがあるというらしいのだが、どうにも俺としては毒草そのものにしか見えん」

(一体この人の中で、異性は何に見えているのかしら?)


 今の話から察して人間として見られていない。もしかしたら私を膝の上に乗せているのも、愛玩動物的な何かに見えているのだろうか。


「……一応聞いておくのだけれど、私はどういうふうに見えているの?」

「天女、いや戦乙女か」

(真顔で返された!?)

「お前は俺が出会った中で、最も美しい女だと思っている」

「なっ……」


 ダリウスは私を優しく抱きしめる。抱き枕やクッションになったつもりはないのだけれど、そう指摘すると今度はキスの雨が降るので黙る事を学習した。


(くっ、お茶を飲み終わった途端に……。今日は諦めたのかと思ったわ)

「ユヅキは抱き心地がいい。触れていると温かいし、柔らかい。なにより落ち着く」

「私は全然落ち着かないわ。暑い、苦しい」

「それはすまない」


 抱きしめる力を緩めてくれたが、手放す気はないのだろう。「恋人というよりは、愛玩動物として見ているんじゃないの?」と、口にしたかったが「そうだ」と言われれば、それなりに傷つくし、「違う」と言われれば彼の恋心に火をつけそうだった。


 結局、ダリウスの思惑通りになる。釈然としないが、婚約者ごっこは一時的なもので、体が弱っているから心も弱っているのだと自分に言い聞かせた。


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