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 「おや、どうしたんだい? 君は帰らないのかな?」


 ふ、と道化師に声をかけられて気付く。

 もう、周囲には誰も残っていなかった。


 「あ、あれ?」

 「いやー、其処まで熱中してくれたのは僕もありがたいんだけどね。さすがに何かあっちゃぁ親御さんに申し訳が立たない。そろそろ時間も遅くなるから帰ったほうがいいんじゃないかな?」

 「ち、違うよ!ちょっと考え事していただけだよ!」

 本当のことを言うのが少し気恥ずかしかったので、ついつい言い訳をしてしまった。何故か、その後にはそちらの方が正しかったような気もしてくるから不思議だ。

 「おや、失礼。少年は迷い人だった訳か」

 「迷い人?」

 「そう、迷い人。人は何か大きな迷いがあると、思考の迷宮に入ってしまって出られなくなるんだ」

 「どうやったら出られるの?」

 つい、尋ねてしまう。なぜか、この道化師は真剣に答えてくれる気がした。

 「う~ん、難しい質問だ。この迷路はなかなかに厄介でね。一度はまると抜け出すことがむずかしくなってしまうんだよ」

 「ええ!?」

 「でも、大丈夫。そういう時は一度迷路の壁に上ってみてごらん。何処にいるかが少しは解るから」

 

 「え~と、難しくてよくわかんないよ?」

 「良いんだ。今はわからなくても、そのうち解る時が来るから。どうしても解らないときは、ご両親に聞いてごらん?きっと手助けをしてくれるから」

 「そうすれば解るの?」

 「いや、言っただろう? 手助けだって。この迷路は自分にしか解けないんだ。他の誰にも覗くことができないからね。だから、脱出できたように見えても実はまだ迷路の中だった、何てこともザラにある」

 「うわ、なんか大変そうだ」

 勇樹は酷く嫌そうに顔をしかめた。子ども扱いしないでちゃんと答えてくれたのは嬉しいが、コレではこの気持ちの正体が解らない。

 自分の抱えているモヤモヤがすごく怖いものに思えてくる。小学校三年生が抱えるような問題ではない気がしてため息をついた。


 「おやおや、まだまだ若い君が、そんな疲れたようなため息を吐くものではないな」

 「誰のせいだと思ってんのさ。おっちゃんのせいじゃんか」

 ジト目でにらみ返すと、


 「くく、違いない。では、これをあげよう」


 そう言って、道化師はこちらへ手を向けてきた。

 先程の手品の続きか、もしくは飴玉でも出して気を逸らそうというのだろう。何となく少しがっかりしたが、まあいい、所詮大人はこんなもんだと、勇樹は手のひらを向けた。

 すると、道化師がニヤリと笑い

 「何、そうがっかりしたものではない。きっとコレは君の助けになるだろう。何か困った時や、心動かされた時にコレを吹いてみてごらん?」


 そうして手渡されたものは、手のひらに収まるくらいの小さな小さなトランペットだった。

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