9 break time 1-3
『かつて、この土地はハワイと呼ばれており……火山活動や地殻変動の影響で太平洋に隆起して巨大な列島になったたとされ……』
お風呂から上がって自室に戻るまでの廊下。
モモの部屋から聞こえてくるドキュメンタリーの番組の音声に足を止め、彼女の部屋のドアを開いた。
「なんの動画みてるの~?それ私も見たい。」
あれから1週間。私の新しい身分証を作っている間、私は外へは出られず拠点の教会で暮らしている。
シスナとリラとミランダは外に出かけていることが多い。
前2人はマザーを信用していないからだろう。ミランダは楽天的だから外出するのが好きなだけだ。
モモとメリッサは拠点にずっといるが、液晶画面に齧りついてばかり。
2人とも部屋がとても汚い。
メリッサは機械類のガラクタが多い。
プラモデルやフィギュア、自作PCを組んでいたり、3Dプリンターで何か作ったり、オークションで中古パーツを買ったりしている。
銃やドローンの設計・組み立て・整備。電子機器も彼女が担当してる。まだ15歳だというのに凄い。
モモに関しては本ばかり。学術から同人コミックまで幅広い。
18歳とは思えないぐらい小柄。ヒノシタ国の女の子は低身長とは聞いていたが、人形みたいだ。
だけど、とても優秀なプログラマーだ。ウェブデザインの仕事を受け持っていたり、ハッキングやらは彼女の担当。
ドローンのプログラムの基礎なんかは彼女ら2人の合作だとか。
話しかけた矢先、私はそんな2人に使い走りにされることになった。
屋外に出てるイーサネットケーブルが繋がった電柱に鳥の巣が出来てゲームの回線に悪影響だから今すぐ取り除いてこい、だとか…。
業者を呼ぶのもいいが、部外者を極力敷地の中に入れたくないらしい。私有地内の電柱だから自分の手でやるしかない。
「ごめんね~。新人だからイビりってわけじゃないのよ。」
脚立の下からマザーが頬に手を当てながら言う。
「まぁ2人とも小柄ですから。」
「男手も欲しいのだけれどね。」
「入れないんですか?」
「私は欲しいけど、シスナとリラが嫌がるのよ。トイレとか風呂もどうするんだって。」
「それは確かに言いそう。でも、無理を通さないんですね?」
「大本の教会の刃も女性の専門部隊だったわ。伝統ってヤツかしらね。男尊女卑の一面もあるから、私は何とも言い難いのだけれど。」
中世だとかは女性の地位が低かった時代だ。しかし、いつの時代にも性別に関係なく才能のある人間はいる。
腐らせない為にも、後ろ暗い仕事に就かせていた。そういうものなのだろう。
洗濯ハンガーだらけの作りかけのカラスの巣を撤去すると、マザーは続けた。
「あぁそうそう。インフラ回りで困ったことがまだあるのよ。」
「はぁ、そうなんですか……」
「回収した量子コンピューターも増えてきて、電気代がそろそろカツカツなのよね。次のお仕事になるから、ファイルに目を通してくれない?」
「判りました。」
私は用意された髪のファイルに目を通しながら、モモ達のところに戻った。
「うっへぇ電気代だけで20万円……!固定資産税とか諸々含めると凄い額…!というかちゃんと税金払ってるんだ……」
毎月50万近く飛んでいる。これほどの維持費をどこから稼いでいるやら。
「もしかして、そのパソコンの所為とか?」
「まさか。こんなん1万円にもなんないよ。」
メリッサはため息交じりに呆れて言う。
「でも滞納はしてないのよね?どうやってこんな額を?」
「銭湯とかコインランドリーとか駐車場とか。マザーはこの辺の大地主だからね。収入源多いよ~、あの人。」
「金持ちは凄いなぁ……。」
「戦前からここら辺に腰を据えてるからね。伊達に500年も生きてない。部外にも関係者が結構多い人だからね。」
「例えば?」
「来週の日曜は礼拝堂が結婚式で貸し切りにされるよ。」
「ちゃんと正しい教会として使ってるんだ。意外。」
「安めに貸し切りにしてるから、知る人ぞ知る結婚式場で引く手数多ってわけ。ブライダル関係って服とか宴会の食事とか、地元の関係会社の人が懐くのよ。」
地域を味方につけている宗教法人というのは、意外と多いものだ。異教の癖して、ヒノシタ国では西洋式の派手な結婚式を好む。
それだけ信用と収入源があるなら、お金には困ってなさそうに見える。
「祝祭日の結婚式ぐらいしか何もしてなさそうな教会の消費電力の桁が多いと怪しまれそう、ってことは……そこを小さく見せたいわけよね?」
つまり、自分で発電して賄いたい、と言うのがマザーの狙いだろう。
私は自分でボヤきながら、疑問を続けて聴いた。
「つまり、次の仕事って盗電?」
とはいえ、マザーにしてはやり方がみみっちい。
「今に判るよ…。ヤな予感するなぁ。」




