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35 work 5-4

一息ついて、アタシらは休戦する。


窓から見下ろす港のコンテナ回りはシトリンが撒き散らした死体の血で溢れ返っている。

ハエが匂いを嗅ぎつけて集り始め、従業員たちは死体を抱え、組み上げた海水をばら撒いて血を洗い落とし始めていた。


(大したもんだ。ちゃんと現代戦に適応してる。)

引きずられている死体の中で、大腿の内側に銃創らしき傷もある。

治療も保護も難しい箇所だ。シトリンが乗っとることもなく、レイチェルと同調して、射撃と槍術の銃剣で近接戦闘をこなしている。

彼女が踏み台にしたであろうコンテナは、壁側に足の形がくっきり出来ているし、閉所での接近戦(CQB)では右に出る者はいないと思えるぐらいだ。


「シトリン。アンタ、頭は大丈夫そう?」

アタシが聴くと、彼女はコッチを見た。

「う、う~ん…」

未だに両目がうっすら黄色く光って残光を描いている。歯切れの悪い答えに、レイチェルらしくない口元に人差し指をあてる可愛げのある仕草。


アタシと目を合わせたシスナが彼女の前に出た。

「シトリン、28割る3は?」

「え~っと……31?」

バツが悪そうな表情で長考した後に目を逸らして答えた。


そりゃ足し算だ。アタシは目を閉じる。シスナはため息をついた。

「シトリン、アレ見て。」

「ん?」


スパァン!!!


不意を突いたシスナのビンタがレイチェルの頬を撃って小気味いい音がする。


「あらら…」

(まぁそうなるわ。)

アリノイ州立の理系大卒で、管理栄養士の資格を持ってるのがレイチェルだ。

カロリーとジュール変換の計算が出来るぐらいの彼女が、そんな簡単な暗算が出来ないわけがない。

間違いなく、シトリンの人格が強く出てしまっている。


「いっっっつぅぅぅ~~~~!!!9.333、割り切れない!」

「今回は正しい判断だったと私も認めるけど。これで分かったでしょ?人格に影響出るから、その力は軽々しく使うな。」

涙目で頬を擦りながらレイチェルは頷いた。目元の光は完全に消えている。

「ぁい…。」

「シトリンがもっと賢い奴だったら問題なかったけどね。」


アタシもレイチェル自身の判断としては、悪くないとは思った。

上陸にはどうしても隙が出来る。どんなに小規模でも揚陸作戦のセオリーだ。レイチェルもそれを分かっていて、戦力として彼女を呼び出した。

斬り込み隊長として大暴れする判断は正しいが、戦闘スタイルがどういうものかまでは、ハッキリ把握できてなかったのだろう。


シトリンは近接戦闘で、一瞬で複数の動脈や静脈を切断して致命傷を狙い、頭数を減らすことを念頭に置く。今までずっと多対1で戦ってきた弊害だ。

一瞬で2か所、3か所と大きな血管を切断されたら、どんな生物だって5分と保たず失血死する。集中治療室にいても輸血無しでは治療は不可能なレベルだ。

ナイフで首や脇を数度刺して切り刻む。彼女が生きていた中世後期、未だ剣と魔法が主流だった時代で戦っていた名残だ。


銃撃戦だったら、ある程度は腕や足に当てて、戦闘不能や撤退に追い込むことの方が多い。

数的不利だけど航空優勢が取れているアタシらの場合、本来はFECTドローンから投下される梱包爆弾や機銃掃射で堪らず逃げ帰らせるのが定石だったはずだ。

シトリンの戦闘能力は桁外れのイレギュラーと言っていい。


大勢殺すことになりはしたが、どっちにしたって戦闘は避けられなかったのだから、やり過ぎた以外は概ね正しい判断だ。


「しっかりシトリンの手綱を握んなさい。突発的な爆弾解体なんかも有り得るわ。その時はビンタなんかしてる余裕はない。アンタの方がよっぽど使い物になる。」

「りょかい…。」

レイチェルは若干しょげぎみだ。シトリンの戦い方が、自分の想像より斜め上だったのが読めなかったのだろう。


(シスナ、シトリンじゃなくてレイチェルの方に大きく期待を寄せているみたいね。)

レイチェルが内なるシトリンの戦闘能力を完全に引き出せれば、間違いなく心強い戦力になるだろう。


ただ、この間の夜の船上で先に2人きりで話しているなど、あの2人は結構距離感が近い。

(この間の結婚式、レイチェルのチーズタルト大絶賛してたからじゃね。)

レイチェルが入って来るまでは、アタシらは殆ど自炊してなかった。

アイツが作る飯はメチャクチャ美味い。世界最大とも言われるクリストフ合衆国海軍の空母の給仕兵に抜擢されるほどだ。


(アレ美味しかったしなぁ。本人は気づいてないけど昔のシスナも結構食い意地張ってた。アタシもだけど。)

(中世の食事事情はキツそう。)

(まぁね。仕事で仕方なかったとはいえ、フェクトを殺したのはマジで失敗だったな。日本育ちの現代知識持ちが公衆衛生の整備に力入れない訳ねえし。)

(ちったぁ励ましておくか。)


アタシはレイチェルに近寄って、肩を組む。

「あとでなんか奢ってやるよ。悪くねえ判断だったし。次ん生かせりゃいいさ。」

「ん……」

「そのうちシトリンの力も必要んなるこたぁ間違いねえからさ。」


絶対に死なない保証はない。それはアタシら全員が理解してる。

だから少しでも力に縋る。レイチェルの判断は、決して間違いじゃない。

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