26 work 4-3
硝煙の匂いが染みつく船長室で、全てが静かになった。
気づけば弾丸がなくなったライフルのトリガーを握り込んでいる。
「シスナ……」
ミランダは怯えた様に、壁を背にして私を見ていた。
父親の背中はズタズタに血みどろになり、うなじのすぐ下の背中には穴が開いていた。
「……スーッ…」
私は大きく息を吸い込んだ。
「…はーっ……。」
血と硝煙の匂いを肺一杯に吸い込み、思いに耽る。
(復讐を果たしたにしては……いつも通りの殺し合いの匂いだ。)
私の人生に、明確に区切りは着いた。
でも、満足出来たわけじゃない。マイナスがゼロになっただけだ。
放っておけば、コイツはまた無関係の人間を攫い、戦争の捨て石の食い物にする。
私はそれを止めただけ。クソ塗れの下水道へのダイビングとか、ゴミ収集の仕事みたいに、誰もが嫌がる様な仕事をしただけだ。
家族の思い出は、もうない。いや、この下衆野郎が父親であった時点から、最初から嘘でしかなかった。
省みるだけ、虚しいだけだ。
リラの言ったことが今なら少し理解出来る。
アゾフカや昼間のクリスタルドラゴンの方がよっぽど恐ろしい相手だった。
信頼できる戦友と、強敵を倒して死地を切り抜けた時の結束感と高揚感。
『背中を預け、これからも生きるという希望の輝きが見える、震える手でのフィスト・バンプ。』
羽虫を1匹潰した程度の復讐など、アレに比べればなんとちっぽけで達成感のないものか。
「……もう用済みよ。残りの仕事をさっさと終わらせるわ。」
私は父親の頭を蹴り飛ばして、千切り飛ばす。
「……。」
絶句したミランダが私を恐怖の目で見ていた。
「ルチレート1-1、アゲートより。大将首を獲った。」
私達は上階へと上がって合流を目指す。
《アメス了解。こっちも制圧は済んでる。ひでーもんだ。女子供まで攫ってやがらぁ。》
「上階に上がって合流するわ。状態は?」
《体液塗れって言えば判る?口に出したかないね。イカくせえ。空気感染で性病になりそうだ。ならねーけど。》
やはり、あの男は殺して正解だったと思わされる。
「……クレア、何とか出来ない?」
《了解。特殊部隊とレスキューに要請を出しておきます。》
「助かるわ。船員用の船倉にまだ生きてるヤツが2人。敵かどうかわからないから手足をブチ抜いてある。」
《了解。伝えておきます。15分後に通報します。なるべく急いでください。マザーも車でそっちに向かってます。》
リラとレイチェルが倒した敵兵は全員死んでいる様だ。
レイチェルの戦闘能力は目を見張るものがある。
《シトリンからアゲートへ。船が傾斜し始めてる。》
「あーごめん。私が船倉の窓をぶち破って死体撃ちしまくった。浸水してる。分かった。攫われた人員だけ回収する。」
最上階の奥の客室に辿り着き、リラ達と合流した。
「船倉のヤツは?生きてるんでしょ?水没するんじゃ。」
「さぁね。運がよけりゃ生き残れるんじゃない?」
毛布を被せ、まだ15ぐらいの子供たちを船から降ろす。その数は11人。
なるべく地面の死体を見せない様に。
船から降りて、堤防を歩く。
「私達はここまでだから。あとは、レスキューと特殊部隊の人が来てくれる。それまで、この旗を振ってて。」
レイチェルがまだ立てそうな、中学生ぐらいの男の子に、船からもぎ取った旗を持たせた。
「私達は先に行くところがあるから。」
「じゃあな少年。悪い奴らは、アタシらがぶっ殺しといたからよ!」
装備品を堤防の海に放り捨てて私達は撤退した。
マガジンポーチやプレートキャリアの装具以外は、現地で購入したものだ。
金額的に少々勿体ないが、この戦闘は誰も知らない。命令外の戦犯行為。
装備を持った状態で警察に捕まったら言い逃れ出来ない。足早に去る必要がある。
ヒノシタに帰れれば、いくらだってまた装備は作れる。
一般人に擬態して私達は港湾を後にした。
パトカーとすれ違い、軍用のヘリコプターが頭上を通る。
そして、後ろから来た車にクラクションを鳴らされる。
「みんな、乗りなさい。」
リーシャが車で迎えに来てくれた。
「助かるぅー!」
「ありがとうマザー。」
「怖かったぁ~!」
リラ達は一目散にバンに乗りシートに座ってリラックスして水分を取り始めた。
「シスナ、早く乗りなさい。」
「…。」
振り返ると、黒煙を上げた貨客船が、半分沈没して尻を上げた状態で堤防に座礁していた。




