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第24話 懐柔

 いやー、レイルと添い寝したおかげで安心して寝ることができしてしまった。普通の熟睡だったので何も起きてはいないはずだが、クリオたちが心配だ、寝起きだがツヤツヤなレイルと共に客間に向かうと。

「落ち着け、お主が何もせぬなら我らも何もせぬ」

 起きてパニックになっているのであろうサキュバスを、クリオが遠くから宥めているところだった。

「大丈夫?」

「おお、レイジよいい所に、こやつ話が通じぬ」

 見ればわかる、仲間の猫獣人も落ち着くようになだめているが部屋の端に逃げてしまい、冷や汗をかいているサキュバス、変に刺激しない方が良さそうだが。

「えっと、まあとにかく落ち着いて、クリオが言うようにそっちが何もしないならこっちも何もしないから」

 どうにかして落ち着かせようと一歩足を出したのがまずかった。

「いや、ダメ、来ないで!」

 俺を見て涙目になっているサキュバス。

「来ないでよ!!あ、かっ…………、頭が…………」

 なんて言うのだろう、ホラー映画とかでよくある命乞いにも近い絶叫だったが、俺が折った角が痛むようで頭を抱えてそのままドサッと倒れてしまった。

「ああもう、クリオ、眠らせてあげて」

「お主、不用意に近づくでない!言われなくてもわかっておる」

 かなり痛いのだろう痙攣を起こす寸前になっていて、俺が抱き上げるとすかさずクリオが彼女の額に魔法陣を展開、数秒後には顔は穏やかになり寝息をかき始めた。

 対処療法だが、どうするんだこれ。あ、俺のせいか。

「相当お主のことを怖がっておったな」

「マスター、ブチ切れだったからな」

「トラウマというやつですかね?」

 そんなに怖かったかな?まあ、今思えば片翼をちぎって、雷を浴びせて角を折るのはやりすぎたかもしれない。いやいや、生きてるだけでもありがたいと思って欲しい。

 サキュバスはとりあえずベッドに寝かせておいてと。

 猫獣人の方に目をやると、布団で体を隠し怯えてしまった。

「大丈夫、さっきも言ったけど君たちが何もしないなら俺たちは何もしない」

 布団にくるまっている彼女が怯えるベッドに座るも、獣人はスススと距離をとられる。

「名前は?」

 沈黙が続くが急かしたりはしない。

「…………テト・ヘルマ」

 名前は言ってくれたか、ナチュラルに尋問が始まってしまったが、さて何を聞こう。

「この人との関係は?」

 仲間なのは間違いないとして。

「い、命の恩人」

「サキュバスがか?」

「ひっ……」

「クリオ、黙ってて」

「むむ」

 クリオの声に縮こまってしまうヘルマ、確かにサキュバスが人助けとかしそうなイメージは無いが、この子が言うのならそうなのだろう。どういう理由かで命を助けられ、悪事に手を染めた感じか?いや、悪事だと思っていない可能性もあるな、結構ピュアそうだし。

「ここへはどうやってきたの?」

「えっと、僕の影移動で来た、っス」

 なるほど、影移動はこの子がやっていたのか、粗方どこかしらの身体を触ったりしていると複数人でも影移動ができるのだろう。てことは、今逃げないってことは逃げる気がないということか、魔力切れか。どちらにしても影移動はかなりの脅威だ。

「誰の命令?」

「それは、言えないッス……」

 だろうね、んー、と腕を組んで唸りながら次の質問を考えていると。

「お願い!お姉ちゃん、エレノアを殺さないで、テトが、テトが何でもするッス……」

 ん?今なんでもするって?なんてこの状況で言うほど酷いやつではないし、泣き出してしまったヘルマにはとてもじゃないけど言えない。

「殺しはしないよ」

 今のところは、嘘は言っていない。今なら大丈夫かなとヘルマに近づき背中をさすってあげる。

「だからレイジよ、不用意に近づくなと」

「ごめんごめん」

「全く」

 彼女たちが心配してくれてるのはわかってるけど、俺もこの子が心配だからね。もしかしたら寝返ってくれるかもしれないし、こんな可愛い子の手を悪事に染めたくない。

 だがしかし、どうしたものか。


「お?」


 背中をさすっていたはずのヘルマが、布団を人型に残して消えていた。

 やらかした!と思ったと気には時すでに遅し、振り向くとヘルマは眠っているサキュバスを抱えていたが。

「マスターが優しくてよかったな」

「いっ…………」

 瞬きしている間、アウルが鞘から剣を抜き切る前に、ヘルマの首に刃を押し付けていた。ふぅ、まあ警戒してくれているのはわかっていたけどもう少しで逃げられるところだった、泣き真似に心を揺さぶられてどうするよ、クリオにこっぴどく怒られそう。

 の前に。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」

 涙目で許しをこうているが、ここまで来るとその涙目は本当か疑わしい。

「マスター、どうする」

 私はいつでも切れるぞと言わんばかり、まてまて、無駄な殺生は嫌なんだって、しかも子供だぞ?。だけれど抵抗しても無駄だとは思わせないと後が面倒な気がする。

「クリオ、魔力とか吸えないの」

「吸えるというか取り込むことは出来るが不味いから嫌じゃ」

 できるんだ、さすが竜族。でも魔力って味とかあるんだな、不味くて吐かれても嫌だしどうしたものか。

「お主の魔力ならいくらでも取り込んでやるぞ!」

「そういうことを言ってるんじゃないの」

「むむむ」

 こっちは真面目な話をしてるの。

 考えている間に逃げられそうだし、レイルは任せるって言いそうだし、どうしよう。

 すると、なにか急に悪寒がして周りを見渡すもレイルとクリオとアウルは何も感じていないような顔をしている、気のせいかと獣人の少女を見直すと、何やら一瞬影が揺らいだように見えた。

「危ない!!」

 咄嗟にアウルの肩を引き倒し、少女に覆い被さると、影から棘のようなものが突き出し。

「ぐふっ!」

「レイジ!」

 棘は俺の脇腹を貫通していた。

 魔法障壁の展開が間に合わなかった、腹を貫かれるのはフォレストスパイダー以来二回目だが痛いのは変わらない。苦痛で顔を歪ませていると。

「ぼ、僕じゃない僕じゃない僕じゃない僕じゃない…………」

 俺の胸の中で涙目で俺に訴える少女。

「大丈夫、わかってる」

 と、優しく言っても。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 ダメだ、混乱している。

「大丈夫!?今回復魔法をかけますから!」

 レイルが駆け寄ってくれてすぐに回復魔法で回復してくれるが、傷が深くてというか貫通しているので治癒が遅い。その間にクリオに回復薬をぶっかけられる。

「つつつ、出来れば飲みたいかな」

「悠長なことをいうでない、死ぬぞ」

 一応は心配してくれているみたいだ。

 イテテテ、少女はどうなったかなと彼女の方を見ていると、案の定アウルに胸ぐらを捕まれ宙に浮いていた。

「貴様、マスターになんてこと!!」

「僕じゃないッス、信じてください」

「一度逃げようとしたやつを信じれるか!」

 やばいやばい!少女の首に剣を刃をピタッとくっつけ今にも引き裂きそうだ。

「まって、本当のことを言っている。恐らく、影の向こうから依頼主が始末しようとしたんだろう」

 殺意がアウルじゃなくて獣人少女に向いていたしね。

「くっ、だからといってなぜマスターが……」

 そうだよね、その気持ちはありがたく受けとっておこう。

「クリオ、何とかできない?」

「まったく、妨害の魔結界を張ってみる、それで様子見じゃ」

 やれやれと言った感じで彼女は両手を地面につけると大きな魔法陣がここら辺一体を覆い、なんだかそれっぽい結界が張られたような気がした。

 多分これで影の向こう側からなにかしてかることはないと思う。

「えっと、ヘルマだっけ?大丈夫、君がやってないのはわかってるから。イテテテ」

「ごめんなさいッス……」

 君がやってないんだから謝る事ではない、しかしなぁ、雇い主に狙われるって最悪だな。

 そして、ようやく傷口が塞がり回復、痛みはきれいさっぱり消えたが服は破けてるし、大丈夫だとわかっていても影を見るとちょっと怖い。

 とにかく今後のことを考えないととベッドに座ると

 、ヘルマは何を思ったのか俺に抱きついてきた。

「ごめんなさいッス、ごめんなさい……」

 こんなに謝れると調子狂うな。過去に何かあったのか、よほど俺のことが怖いか、流石に無いとは言いきれないのがいやはや。

「よしよし」

 これといって殺意もなかったのでとりあえず頭を撫でておく。


   ※


 酷い頭痛で目が覚める。

 あの人間め、流れ弾で翼がちぎれるのはまあ再生するからいいとして、無抵抗の私の角をへし折るとか正気じゃない。

 とにかく、この頭痛をどうにかしないとと目を開けると。

 猫獣人のテトはあの人間の膝の上に座っていた。

 なんかまた頭痛が酷くなってきたつーか。

「何してんのよテト、くっ、頭が…………」

 折れた角の根元をさすっていると。

「仲直りしたッス!」

 元気に返された。

「な、仲直り?」

 なんだか人間にべったりなテト、特に洗脳とかはされて無さそうだけれど私が眠っている間に何があったって言うのよ。

「依頼主は僕らの敵ッス、レイジが助けてくれたッス!」

 本当に洗脳されてない?疑わしくなってきたが、そんな魔法が発動した痕跡はないし、テトの目は術中にあるようには感じない。

「一体どういう…………」

 色々あって頭を抱えていると誘拐対象だった人間が口を開く。

「この子が言ってることは正しいよ、証拠にほら、グサッとやられたし」

 人間が指さすのは自分の脇腹、そこの服は破れていて確かに雇い主の魔力が微かに残っていた。

「でも、なぜ」

「んー、無駄な殺し合いはしたくないし、仲直りできるならそれに越したことはないからさ」

 無駄な殺し合いはしたくない?私の翼をもぎ、電撃を浴びせ、角を折ったのに?どの口が言っているかは分からないが、あの時の冷酷な顔は正直ゾクゾクした。生きてるから言えるんだけど。

「痛めつけといた方がいいと思って色々酷いことしちゃったけど、大丈夫?」

「お主、サキュバスに謝らなくて良い、付け入る隙を与えるぞ」

「いやでもさー」

「レイジは優しいんだから仕方ないじゃないですか」

「それでこそ私のマスター」

 私を除け者にしてわちゃわちゃしている。なんでこいつはこの三人から圧倒的なまでの信頼を得ているんだ?強さ的には魔力は絶大だが戦闘経験が乏しすぎる、何があったらそうなるのか。

「翼も角も時間が経てばまた生えてくる、時間はかかるけどね」

「そう、よかった!」

 全然良くない、翼は数ヶ月だが角は年単位だ、完全に治るまで魔力の制限を受ける。まさか、この人間それをわかって無力化するためにわざわざこんなことを?いや、それをするぐらいならいくら無駄な殺生はしたくないとはいえ殺した方が早い。

 完全に懐いているテトとじゃれ合っている人間、一体全体なんなんだこいつは。

 しかしそれよりも。

「あんたは大丈夫なの?」

「へ?何が?」

 まさかもう、私の媚匂を克服したのか、流石雇い主がさらってこいと言うだけある。

「私の匂いよ、魔力の制限があってもこればっかりは私はどーしよーもできないからねー、普通の人間は秒で落ちちゃうよ」

「ああ、この甘い匂い?めちゃめちゃムラムラするよ?」

 女性三人はずっこけた。

「お主!鼻で息をするなと言っておるだろ!」

「どうする?ベッド行きます?」

「なっ!次は私だぞ!」

「『相棒』になってから言ってください!」

 なんなんだこいつら。

 はぁ、と呆れていると。

「痛い……」

 また猛烈な頭痛に見舞われる、なんでこんなに頭が痛いんだと顔を顰めながら状況を整理すると、魔力も体力もほとんど残っていなかった、そこで角も折られたんだ、回復する物をどうにか捻出しようとして頭痛に変わっていたんだな。

 ってことは、回復するには男の生気が必要なのだけれど、どう考えてもこの人間を食べさせてはくれそうにないし、無理やり食べることも今の魔力や状況では出来ない。

「大丈夫?」

 私の背中をさすってくれる人間、無防備すぎるだろ、瞳孔がハートマークに変わりかけてるぞ、そんな気合いでどうにかなるものなのか?しかしだ、この頭痛を早くどうにかしないと。


   ※


「拐おうとしといてなんなんだけど、血を吸わせてくれない?」

「へ?」

 血?俺の?

「サキュバスなのに吸血鬼?」

「違うわよ」

 どうゆうことだってばよ、彼女の背中を悶々しながらさすっていると。

「魔力切れで回復できないのー、だから人間の生気を吸えば回復できるから血を分けてって言ってるのよ、わかった?」

「あー、血でもいいんだ」

 正確には血に混じった魔力とか色々あるんだろうけど聞いてもよくわかんないしいいか。

「本当は子種の方がいいんだけどねぇー…………」

 そのワードを聞くとなんだかレイル達は彼女を睨んでいた、うん、一発やらせろとかそう言われたらさすがの俺も困ってしまう。

「まあ、血でいいなら死なない程度に吸ってどうぞ」

「ほんと!?さんきゅー!」

 カプッ。

「あっ!」

 いや、行動が早い。レイル達がなにかする前にサキュバスの彼女は俺の喉元に噛みつき。ちゅーーー!と血を結構な勢い吸っていた。なんのリアクションもとれずに甘い匂いを嗅ぎながら固まっていると、彼女が一旦顔を離す。

 終わり?と思う前に目を見ると俺より先に瞳孔がハートマークになっていた。

「なにこれ美味しぃーー!!!」

 カプッ!ちゅーーーーーーー!!ゴクゴクゴク。

 あ、これ本能的に死ぬやつってわかったね。血を飲んでる音じゃない。

 ついつい吸ってしまった彼女の匂いに本格的にやられて抵抗できないし、完全に抱きつかれてレイル達も慌てて引き剥がそうとしているが俺から離れてくれない。

 あー、なんか目がクラクラしてきたなぁ、と思った次から記憶が無い。

 

 

 

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