67:霧の能力者の目的
霧の能力者がこちらを振り返り、そのまま霧を出し続ける。より密度が濃くなっていき、ガスマスクでも防ぎきれないほどの濃度になりつつある。
近藤さんがガスマスクの上からでも霧が入り込み始めたのか、苦しそうにしている。
「近藤さん、鈴木さん、下がっていてください。これ以上は厳しいはずです」
「いや、しかし……犯人を確保しないと」
「それはこっちでやります。このままだと同士討ちです。そうなる前に撤退を」
「わかった……わか……」
どうやら一歩遅かったらしい。近藤さんが喉を掻きむしり始め、ガスマスクを外して呼吸をなんとかしようともがき始めた。
そのまま一旦倒れる近藤さん、すぐに近寄るが、近寄って結界内に保護する前に近藤さんが起き上がり、こちらに向けて拳を振りかぶりながら襲い掛かり始めた。なるほど、こうやって暴徒は量産されていたのか。
近藤さんの腰の入ってないパンチが俺の顔に当たる。まだ痛くない。そのままパンチを受け取りながら、近藤さんの動きを羽交い絞めにして取り押さえる。その間に結界の範囲を展開して、吸い込んでしまった霧をどうやって吸い上げることができるのか少し考える。
「頑張ってねー、おまわりさん」
その間に霧を発生させていた女性は走って逃げていく。
「カルミナ、後を追跡しておいてくれ」
「解ったわ、その間に近藤の処置は頼んだわよ」
カルミナを追跡に行かせて、さてどうすれば元に戻ってくれるのかな、と思案する。呼吸で霧を吸い込んで狂暴化したなら、霧以外の空気を一定量吸わせれば元に戻るんだろうか。
とりあえず近藤さんの腹を強めに押し、肺の中に入っているであろう空気を一時的に外へ出させ、結界内の霧の含まれていない綺麗な空気を吸わせる。しばらくハァハアと呼吸していた近藤さんは、正気に戻ったようで俺に尋ねてくる。
「もしかして、霧にやられてたか」
「はい、ガスマスクはこちらに。今カルミナが気配を追ってるはずなので、近藤さんも今のうちに霧の範囲外に退避してください」
「言われた通りにしたほうが良さそうだな。後は任せる」
近藤さんは再びガスマスクをつけ、来た方向へ戻っていった。鈴木さんも肩を貸し、二人で霧の中から脱出する。
「トモアキ様、成分解析が済みました。どうやら追跡対象の体液のような成分を混ぜ込まれているようです。霧にそれを混ぜ込むことによりある程度指向性を持たせて吸い込んだ者の思考を操ることができる、といった具合のようです」
「ってことはこれはお姉さんの汗が混ぜ込まれているのか、あんまりいい気分じゃないな」
「あと、結界で完全に除去が可能ということも解りましたので今から街中を歩き回りながら最大限結界を強く張りながら移動します。それで薄めの霧を吸い込んだ人たちは元に戻すことが可能になると思います」
あっちの世界の結界は随分万能らしい。つまり俺の結界術でも範囲を広げれば霧を薄く、そして効力を弱めることができるってことか。早速やっていこう。
結界魔法を行使してそのまま視界が開けるような指向性を持たせて、進行方向に集中して結界を張りながら移動する。カルミナに追いつければいいんだが、どこまで深追いしているのやら。
「こちら進藤、カルミナの追跡を始める。カルミナは何処にいるんだ? 」
「こちらカルミナ、地下に入られて見失っちゃった。どうやら地下では地上ほど霧の効果が出ないらしいわ。多分空気の流入とかそのせいだと思うけど」
見失ったか。まあ仕方ない、犯人が女性であることと能力の詳細がわかっただけでもここはよしとしておこう。何故渋谷で事件を起こすのかと、目的が何であるかはまだ不明だが、現状わかったことを報告するだけでも少しばかり事件の進展はみられるはずだ。
カルミナに追いつき、渋谷駅地下街の入り口で合流する。
「ごめん勇者、地下に入られたらわからなくなっちゃった」
「向こうは走って逃げていたし、もともと予定通りの行動だったのかもしれんな。相手が女性であることと能力の傾向がわかっただけでも出動しただけの成果はあったと見るべきだろうな」
「うん……」
珍しく失敗して落ち込んでいるカルミナを宥めつつ、地下街では霧が発生していないことを見る限り、地下に入った時点で霧の能力を使うことはやめたんだろう。上手い紛れ方だとは思える。おそらくなに知らぬ顔で自分の自宅なり隠れ場所なりに向かってどっかの路線に乗っている途中なんだろうな。
「とりあえず、本体が霧の発生を止めた以上、徐々に霧の濃さも薄れていくはずだ。巻き込まれた人たちがちゃんと暴れてないかどうか確かめに行くぞ。アフターケアも大事だからな」
「暴れてるのが居たら殴って昏倒させればいいの? 」
「それは……ちょっとお勧めしないな。肺から空気を排出させれば霧の洗脳からは逃れられるらしいし、ちょっと苦しいかもしれないが一時的にそういう風域操作が出来ればいいんだが……お前風魔法はそんなに得意じゃなかったよな」
「使えない訳ではないけど、精密な動作が要求されるのは難しいわね。肺ごと切り裂いてしまってもいいならそうするけど」
「よし、わかった。お前は鈴木さん達と合流してくれ。周辺の空気清浄は俺とフィリスでやる」
カルミナに精密な動作を要求させるのは水と氷と闇魔法ぐらいにしておこう。結界で霧を晴らせるならフィリスに範囲を広げて空気を薄くさせつつ風を巻き起こさせることで一気に霧を何処かへやってしまうことができるはずだ。
フィリスと合流し、フィリスの薄く広い結界の範囲に風魔法を混ぜ込み、空気をかき乱していく。結界内の霧をこれで拡販させて空気と混ぜ込み、普通に活動できるような濃度にまで周辺の霧の濃度を下げていく。
霧が晴れたことで、何が起こっていたんだと外に出てくる一般人も現れ始めた。そろそろ撤収する準備を始めるべきだろうな。
「そろそろ撤収ですかね」
近藤さんに確認を取る。近藤さんは鈴木さんと顔を見合わせて頷くと、フィリスとカルミナを呼びよせてバンの中に入り込み、警視庁へ戻る。
「今回は何も役に立てなかったな。それどころか手間をかけて申し訳ない」
「ガスマスクでは近寄れないということがわかっただけでも収穫でしょう。次回はフィリスと俺とカルミナで確実に捕まえるようにしないといけませんね」
近藤さんの謝罪に対し、気にするなと伝えておく。元々こうなるのも織り込み済みだしな。
「今回は一般人保護ばっかりでしたね……次回も渋谷に現れるんでしょうか」
「フィリスはちゃんと仕事をしていたのだから気にする必要がないさ。次回は……どうなんだろうな。渋谷に現れる理由が何かあるんだろうか」
「そこも含めてまだ解らないな。目的も解らない。思ったより早く俺達が来たせいで目的を達成する前に逃げた可能性もある。泳がせて捕まえる、というのが最も楽なんだが、このままだと扇動ぐらいでしか捕まえられないのも問題だな。手段が手段だから現行法に照らし合わせて捕まえる理由がない。しいて言うなら傷害罪か」
「これだけ大規模に騒がせて傷害罪ってのもイマイチ規模感が大きく見えませんね」
これだけやって傷害罪か。なんかしょぼいな。内乱罪とか計画してても良いような気はするが、そこまで発展するには相手が何を目的に事件を発生させてるかを調べないといけないんだろう。
「明日のニュースには異臭、ガス、煙騒ぎ。近くの店舗で大規模な煙が確認された、とでもニュースにされるんだろうか」
「まあ、そんな所でしょうね。さあ、帰って報告しましょ。ガスマスクで防げるレベルに近寄るには異能力の力を借りなきゃいけないってこともわかったことだし、あなたたちに頼ることになりそうだわ」
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