61:対決、ダーククロウ
「じゃあ、誰が相手するの? あたし? フィリス? それとも勇者? 」
真剣なやり取りの中で間の抜けたカルミナの声が響く。
「私は怪我をした方を治しにまいりますのでお譲りします。敵とはいえ、手錠をかけられたらただの民間人。放っておくと大事になるかもしれませんので」
「じゃあ俺もパスで。要するにカルミナが遊び足りないだけなんだろう? 俺はスーツの男のほうを相手させてもらおうかな」
カルミナと重力使いの戦いということになった。カルミナは本性を現し、小さな羽根と尻尾を隠すこともなく出し始めた。
「じゃあ、真面目に行かせてもらうわね。精々楽しませてもらえると助かるわ」
「人間ですらないのか……第六課はどんな化け物を抱えているんだ」
黒スーツの男がカルミナの様子が変わったのを見て少したじろぐ。重力使いの女もそれに従って、早速カルミナを重力で押し潰そうと天井の明かりや地面の装飾品をいじり倒しては引っ張ったり反したりして、うまくカルミナにぶつけようと試みている。
「中々考えてはいるけど、無駄ね。その程度では私の進路は……っと、止められないわ! 」
入り乱れる障害物の隙間をすり抜けてカルミナが重力使いに飛んでとびかかっていく。重力使いもカルミナの進む先を遮るようにものを動かして応戦するが、カルミナは飛来物をかたっぱしから蹴り飛ばしながら近づく。
「この程度なら勇者の足元にも及ばないわね。もっと持ち球はないの? 」
挑発するカルミナに怒りを覚えたのか、重力使いが自分の周り全体に重力をかけ始め、急激に体が重くなった俺達だが、俺とカルミナ以外に関してはフィリスが簡易結界を張って守っているためあちらに被害はないらしい。守りに関しては一安心だな。
「さて、俺達も始めるか? それとも二人の決着が着くまで一杯やりながら過ごすか? 」
「相当な自信があるみたいだが……一人で戦えると? 」
ダーククロウの幹部らしき男が俺にようやく警戒し始める。
「カルミナが負けるようなら怪しいが、あの調子なら大丈夫だろう。それよりも、二人の戦闘の余波で割れてしまう酒が勿体ない。高い酒もそれなりにあるんだろう? せっかく稼いだ金をこんな所で無駄に使いたくないだろうしな」
「余裕があるのか余裕がないのか。これから組織を大きくして行こうって時に踏み込んでくるとはタイミングとしては悪くなかったとは思うが、いくらなんでも俺を舐めすぎてないか? こっちはいくつ異能力を持ってると思ってるんだ」
どうやら隠し玉には色々あるらしい。そして、その中から自分の能力を分け与えることができるようだ。
「マジックのコツは手数の多さじゃない、どれだけ観客を沸かせられるかだ。一つしか持ち球がなくてもそれで喜んでもらえるならそれ以上のことはないんだぞ」
「お前もその持ち球の一つになってもらうことにするか。どうやら相当の自信があるようだしな」
「まあ、自信というか実体験が元だからな。お前がどのくらい持ち球を隠してるかは知らないが、正面からのストレートを投げさせてもらうことにするよ。それで打ち取ればゲームセットだ」
「フン……精々頑張ってみることだなあ! 」
そういうとスーツの男は念道力で周りの割れたガラスの破片やテーブルや椅子をこちらに向けて高速で射出してくる。そう来るとは思っていたが思ったよりは威力のある攻撃にはなりそうだな。
こっちも魔法で簡易結界を作ってその中に紛れる。全部喰らったふりをして、結界の内側には何一つとして通してきていない。まあ、一見さんならこれで「やったか! 」と思わせることはできる程度の魔法だ。
「その様子だと何のダメージにもなってないようだな」
スーツの男は見破っているようだった。ちょっとだけ俺の中でこいつの評価が上がった。がれきの山から無傷の自分を見せて、さっきの攻撃は一ミリもかすりすらしなかったぞというところを見せておく。
「名前も聞いてない相手にやられるほど弱くはないつもりなんでね。名前を教えてくれ、でないと黒スーツピアスマンってのが俺の中でのお前の名前になってしまう」
挑発を込めて見たまんまのことをそのまま伝える。
「松平、松平健三郎だ」
「お、意外と古風な名前だな」
「親父が暴れん坊将軍のファンだったらしくてな。俺の息子が将軍に近い、と喜んでいたが、学校ではよくいじられてたな」
少し悲しい事実を知ってしまって、俺の中で好感度がさらに上がった。
「異能力は何処で手に入れた? 生まれ持って目覚めた訳ではないだろう」
「その辺はトップシークレットだな。俺を倒して捕まえて、それから頑張って吐かせてみることだなっ!」
健三郎さんが念道力以外の力を使いだしたらしく、戦闘速度がぐんと上がる。どうやら、従業員に身体強化を施していたのも彼の仕業らしい。他にどんな飛び道具が飛んでくるやら。
そしてどうやら、ダーククロウは何処かの組織の更に下部組織である可能性が出てきたな。こいつが主犯ではない場合、必ずさらに裏の組織がある……というのはよくある話。
「じゃあ、こっちも名乗ろうかな。進藤智明、訳あって実名だ。元、勇者」
「勇者と来たか。異世界でも救って帰ってきたのか? 」
「ご明察。警察の御厄介になってるのもその縁でな。本当なら静かに争いのないところで暮らしたいところだったんだが、何の因果かマッポの手先。もしかしたら俺がそっち側に居た可能性すらあったな」
「それはスカウトがサボりすぎたな。そっちのスキルは異世界産ってところか」
「ま、そんなもんだ。さて、元勇者とまともにぶつかり合ってまともでいられる保証はないぞ。降参して素直にお縄につくつもりは? 」
「あったら既にそうしてるとも! 」
こっちに全力で駆け出し……いや、違うな。俺が引っ張られてるのか。おそらく重力使いの彼女に分け与えた力を使って距離が一気に詰められ、顎に向かっていい一撃を入れようとしてくる。が、その前に自前の結界が作動して相手の攻撃をずらす。
「中々お堅いようだな! 」
「お堅い職業なもんで仕方なくな! 」
彼の念動力による攻撃とそれを弾き飛ばす俺とで派手に力同士がぶつかり合う。流石に俺に念動力はないので、念動力で飛んできたものを逆に蹴り返して向こうへ飛ばしたり、割れて飛んできたガラスを熱で溶かして尖った部分を直していったりと安全に配慮しつつ、相手の次の手を待っている。俺のほうから蹴り飛ばした家具は、霧化した健三郎君によって避けられた。やはり、能力の譲渡が出来るのは彼で間違いないらしい。
「貴様……やる気があるのか」
健三郎さんはとうとうキレはじめた。その気になればビルごと吹き飛ばせるとはいえ、そんな大事故を起こしてしまうのは避けたいからな。出来るだけ最小手数最小手段最小の威力で無力化したいが、そのチャンスは来そうにないな。仕方ない、終わらせに行くか。
「じゃあ、行くけど、ごめんね」
瞬時に足に身体強化をかけて相手の後ろに回り込む。そしてこっちを振り向く前に後ろから前に向けて顎を一発殴る。脳を揺らすような一撃を狙ってのことだ。
「な……」
そのまま健三郎さんは倒れ込み、膝が上がらない状態になった。そこで手錠を取り出しはめる。何個必要になるかは解らないが、一応の確保だ。
「えーと、午後十時二十八分、現行犯逮捕ね。罪状は……内村課長、罪状これ何になります? 」
「うーん……器物破損は自分の持ち物だろうから当たらないし、暴行罪かな。軽い刑になっちゃうけどとりあえず拘留は出来るからその間にカルミナ君に除去のお願いをすることになるかな」
「よし、勝った! 」
どうやらあっちも決着が着いたらしく、カルミナがフードをかぶっていた女性を足の下に敷いてVサインをしている。とりあえずこれで一区切りは付いたな。
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