58:間抜けな事件報告
数日の間、ダーククロウに関する情報を集める第六課であったが、主だった収穫はなし。しばらく内勤をしつつ、瘴気の浄化をしながらダーククロウに関する情報を集めてはいるものの、中々それっぽい情報はなし。
悶々とした日々を送りながら日常業務を行っていたが、岬さんがある時もたらした情報には聞くに値する価値があった。
「暴力団対策課から仕入れた情報なんですが、暴力団同士の取引の現場に第三者が現れ、取引のブツを盗んで逃げたとのことです。また、盗まれた側に一定の金額の支払いと引き換えにブツを返す、と逆に脅しにかかってるみたいで。ブツがブツだけに警察にも言えないので泣き寝入りして支払ったそうなんですが……これ、関係ありますかね? 」
岬さんは自信なさそうに情報提供はするものの、ピンときた、程度には引っかかる内容ではある。
「他の能力者が資金集めに走るだろう、という話としては一致するな。しかも今までとは違うかなり高額の金銭の授受がされた、と考えていい。暴力団のブツの内容については暴力団対策課の領分だからそこに手は出さないとしても、その先の金の流れについては気になる所だな。岬さんはそのままそっちの情報を集めるようにしてくれるかな。わずかな手がかりだが、たしかに面白い情報ではある。何も情報がないよりはその線を辿って行くことにしよう」
内村課長が現状の捜査方針を打ち立てる。しかし、暴力団関係者に知り合いなんていないしどういう方向性で俺は仕事をすればいいんだろうか。
「とりあえず我々の出番はもう少し後になりそうだ。情報を集めつつ、確実な証拠と居場所、それから行動範囲や目的についてもまだ不確かすぎる。特に目的だ。異能力者の集団で一体何をしようとしているのか。反乱か、それとも裏社会でののし上がりか、もっと大きな野望でもあるのか。せめてしっぽだけでも掴んでおかないとな」
ダーククロウ……一体どんな組織で何が目的で何をしようとしているのか。その一部分だけでも触れられるようになんとか情報を集めるしかないか。
◇◆◇◆◇◆◇
また数日間隔が空き、ダーククロウ対策はいつでも動けるように準備をしておく、というだけで留まるにすぎず、情報集めの日々で埋め尽くされた。日が浅くコネも情報源もない俺達は基本待機か通常業務に回されることになり、暇……というわけではないが、日常を過ごすことになった。
「平和ですねえ」
「平和だなあ。そういえばダーククロウのブツ強奪の件はどうなったんだろうな」
外回りから帰ってきた俺とフィリスが揃ってコーヒーを飲みながらリラックスしている。今のところ、瘴気異常や浄化関連の緊急出動もないので、日ごろから都内を回って怪しそうなところは浄化して回っている。また溜まったらお願いします、というところがほとんどなので平和としか言いようがない。
「それなら、無事にブツと現金の取引が終了したらしいわよ。暴力団対策課が乗り込んだ時には後の祭りだったらしいけど、ブツと現金の取引は無事に終了、ブツをかすめ取られてオマケにその回収に金を払うことになった権藤会は大痛手だったってところね。権藤会がどこにブツをかくまっているかは解らないけど、今度こそ権藤会の裏の資金洗浄ルートを洗うんだって息巻いてたわよ」
鈴木さんがコーヒー片手にデスクのほうへやってくる。鈴木さんは自分なりの情報網があるようで、そちらから入手できる情報を精査しては異能力者達の動きを察知できるよう体制を整えているらしい。
「後、犯行現場の詳細な話が入ってきたから共有しておくわね。電子マネーでの取引の後、ブツを受け取ろうとしたら空中に浮き始めて屋根の上まで運ばれた後、誰かがそれを持って逃げたらしいわ。追いかけようにも向こうは空を飛ぶようにビルの間を移動するから追跡が困難でまんまと盗まれたってことらしいわ」
「飛行能力……ではないな。紐を絡めて引っ張って持ち上げた訳でもなさそうだし……とすると、重力を操る異能力者ってところか? 」
「反重力でブツを持ち上げて……ところで、盗まれたものって結局何だったんですか? 」
さんざんブツとだけ言われておいて肝心の物がわかってなかったらしいフィリスが中身について尋ねる。
「覚せい剤だったらしいわ。現金は仮想通貨でやり取りを終えるのが最近のトレンドらしくてね。もし現金で取引してたら現金も覚せい剤も両方奪われたうえで、覚せい剤の代金を更に頂くような形になってたと思うわ」
「そんな話、何処から都合してきたんですか? 内部情報じゃないですか」
「正面から権藤会に会見申し入れをして持ってきたネタよ。私たちの仕事は表向きにはできない窃盗と脅迫だから仮に何を扱っていたとしても聞かなかったことにする、って条件付きで詳細を教えてもらったわ。このご時世にとんだ出費をしてしまったとぼやいてたわよ」
そういう裏取引を使えるのも公安の特殊事情に絡むところ……というところだろうか。暴力団対策課が聞いたら憤慨ものだろうが、そっちにはあえて知らせないことで今後も情報源としての役割を果たしてもらう代わりにこっちも事件解決を試みることができるし、異能力者の犯罪も防げる……と。必要悪ってところかな。
そうなると、実際に異能力者が集まってる場所を探してそこから犯人を見つける……というのがわかりやすい方法だろうが、そもそも普通に生活していて異能力者と一般人を区別することが難しいのだから、なにか判別方法を見つけないとダメってことか
「異能力者の集団っつったって、どう見分ければいいのか……うーん……」
「魔力測定しても、異能力者が魔力を持っている訳ではないでしょうからなにかこう、視点を変えた方法で見つけ出すぐらいしか思いつきませんね」
フィリスも判別方法についてはピンとこないらしい。異能力……魔力……異能力を使うと、魔力に対してどういう反応が起きるのか試すのも一つか。ちょっとやってみるか。
「岬さん、鈴木さん、ちょっと付き合ってもらっていいですか」
なんの異能力も持たない岬さんと、それなりの炎が出せる鈴木さんをそれぞれ対象に選び、一つ実験をしてみる。
「はい、私で良ければお付き合いしますけど、何かするんですか? 」
「逆です。何もしないでください。鈴木さんもそのままでいてくださいね」
二人に対して魔力の波動を流し込んで観察して様子を見る。ピンと来たらしいフィリスが俺の魔力の流れを読む。
しばらくすると、岬さんと鈴木さんには少しばかり違う魔力反応が返ってくることが分かった。異能力者と一般人の区別はこれでつけられるか。
「なんとか……なりそうかも? 」
「ですね。後はもう二、三人試させてもらって、本当にその通りになるのかの検証をしましょう」
「私たちに何をしたわけ? 説明はしてくれるのよね」
何をされたかわからなくて不満げの鈴木さんと岬さんに説明をする。
「闇魔法で魔力の波を読んだんです。一般人と異能力者、魔力を持っているかどうかはこの際おいといて、それ以外の部分で違和感みたいなものがあるかどうか、それを探して見たんです。鈴木さんは魔術は使えないけど異能力は使えますが、岬さんは一切使えませんよね? その差異を検出できれば、調べたい相手が異能力者か魔法を使えるものか、それとも一般人かを判別できるんじゃないかって思いつきまして。結果ですが、魔力についてはどちらもお持ちではないですが、お二人はちょっと違った反応が返ってきたもんで、それをこれからもうちょっと調べてみようかな? というところです」
「じゃあ、これで異能力者を探すのは少し楽になりそう、だということ? 」
「まだ理論だてて説明することはできませんが、ニュアンスレベルの解釈なら判別が出来るかもしれません。他の皆さんにも協力してもらってその差異が本当に異能力者のものであるかどうかを調べるのが先ですね。やることが増えてきたぞ」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




