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6日目(3) 訣別

3話目、これで完結です。

水晶の柱は中から押し開けるように広がり、心臓を包み込んで形状を変え、持ち上がり、そして、ひとつの形を成した。


ドラゴンに。


透き通るようなアクアブルーが徐々に色濃いマリンブルーに変わっていく鱗も。


牙も、角も、確かにあるけれど。その姿は恐ろしいよりも神々しく。


何より紅玉の瞳に宿る輝きが、穏やかに優しくて。


そんなドラゴンを、私は呆然と見上げていた。


「ドラゴン・・・」


後ろの誰かがつぶやくと、それが野火のように広がっていく。


「ドラゴンだ、ドラゴンが居る!」


「伝説の、悪しきドラゴンが現れたぞ!」


「衛兵っ、い、いや、騎士どもっ、ドラゴンだ、ドラゴンを討ち取れ!」


「司祭は結界をっ、司教は守りを固めよっ!」


「王を、王族を守れぇぇっ!」


そんな騒ぎの中、不思議と静かな気持ちで私はドラゴンと向き合っていた。


ドラゴンさん、よ、ね?


(ああ、そうだよ。やっと本体を取り戻せた。ありがとう、キミのおかげだ)


そう、良かったわね。これからどうするの?


(ここじゃない場所へ行く。人に見つからない、遠くへ。キミも行かないか?)


え、私?どうして?


(ここに居たらキミはドラゴンを蘇らせた大罪人として処刑されるだろう。今だって後ろで騒いでるからね、間違いない)


そ、っか。確かにそうなんだから、反論できないわ。


(そうなったら僕が僕を許せない。またあの時のように荒れ狂う事になるかも)


そっ、それはやめて。被害が想像できない!


(だからさ、僕と来てくれないか。そうしたら暴れないから)


・・・脅迫じみたこと言わないで。でもそうね。もう、この国にはいたくないし。


(そうと決まったらここに乗って。大丈夫、怖くないから)


それ、詐欺師の使う言葉よ?


目の前に降りてきた手?前足?にそっと座る。軽い浮遊感の後、ドラゴンの胸の位置に収まった。


「聖女、いや、ドラゴンを蘇らせた魔女よ!ここで成敗してくれる!降りてこい!!」


(あれで言う事聞くと思ってるんだから。やれやれ、付き合いきれないな)


本当に死んでたわね。命拾いしたわ。ありがとうね。


(あたりまえだよ。キミは恩人なんだからさ。さて、と。このまま言わせておくのもしゃくだから、一声吠えておくかな)


ちょっとちょっと、何するのよ!暴れないって言ったじゃない!


(暴れないよ。いいから見てて)


『ヒトの子よ、王国の子らよ、その愚鈍な眼を開き、聞こえぬ耳を傾けよ。これは宣言である』


その声は深く重く轟いて頭に直接入り込んできた。耳をふさいでも押さえても、変わりなく響き渡った。


『我は始祖、エンシェントドラゴンの一柱である。

はるか昔、結晶を欲して核を奪い、今まで搾取してきた王国民を我は許さぬ。

この先、我が結晶を使ったものは等しく(ちり)となり、すべて消え失せるであろう。

また、我が聖女たちを酷使し、(いたずら)に監禁して死に至らしめたこと、誠に許し難い。この地が命の消え果てた不毛の地となるまで、我の呪いを受け続けよ。永遠の地獄が汝たちに降り注がんことを!』


そう言い終わると、ドラゴンの背に翼が広がった。天井が崩れ、無残なありさまとなった教会から軽やかに舞い上がり、蒼穹を目指す。下からは絶望と悲鳴が追いかけてきた。


ねえ、最後の宣言、か~な~り~ウソが混じってない?


(あはは、わかった?)


だって、呪いなんて知らないはずでしょう。どうなるかと思ったわ。


(でもさ、結晶を使ったもの云々、てところはホントだよ。僕の力から生まれたものなんだから、それを消すことだって可能さ。あの国だけじゃなく、道具を使ってる国やら人やら、すべてに引っ掛かるんだから大騒ぎになること請け合いだね。周りじゅうから叩かれて消えるといいんだ)


あららら~、そこまで広がっちゃうのね。じゃ、『不毛の地』って言うのも・・・


(あながち間違ってないと思うよ。呪いではないけど、ああやって宣言した土地に残る人間はいないから。どれだけ保つか楽しみだ♪)


・・・お父さんやお母さんもどうするかな・・・


(・・・ごめん。そこまではどうにもできない)


ああ、責めてるわけじゃないの。王国に居る人間はみんなあなたに対して罪を負っているんだから仕方ないってわかってる。


(・・・ん・・・)


ただ、そんな中で私だけいいのかな、と思うと、ね。


(そんなことない!)


ドラゴンさん?


(キミはあんな状態で頑張ってきた。危うく死ぬ一歩手前まで行ってたんだ。誰に何を言われようと、キミだけは胸を張っていればいい!)


・・・ありがとう。そう言ってくれて、ちょっと安心したわ。


(それと・・・)


え?なあに?


(ついてきてくれてありがとう。ホントはちょっと不安だったんだ。僕はドラゴンでキミは人。だから、同族の中に残るかな、って思ってた)


・・・・・・


(だから、脅かすようなことを言っちゃったんだ。そうしないとここで・・・もうお別れかもと思うと・・・そんなの許せなくて・・・)


そう、許せないわね。


(えっ、や、やっぱり、許せないよね、僕の事・・・)


あのまま別れるなんて、絶対に許せないわ。


(そうだよな、別れる・・・なんて・・・?へ?)


そんなこと言ったら、かみついてやるから。


(は?・・・え?か、かみつく・・・?)


だから、このまま一緒に居てね、ドラゴンさん。


(・・・いて、くれるんだ。僕のところに)


ルーラ。私、ルーラと言うの。名前よ。


(名前・・・)


もう、聖女はやめて、ルーラに戻るわ。だから名前で呼んで、私のことを。


(ルーラ。ルーラ!キミはルーラだ!)


ええ。どこまでも一緒に居るわ!連れて行って!


(ああ、行こう、ルーラ!一緒に行こう!)


青い空に舞い上がった蒼いドラゴン。その姿はやがて遠く消えていった。





最後にちらっと恋愛もどきを入れてみました。


蛇足ですが、聖女の資質について補足の説明を。

  ・エルフは自分の体を使ってドラゴンとの絆を『人』の中に埋め込んだん

   ですが、それは自分と反対の性、つまり男性なら女性に、女性なら男性

   に植え付けられます。

  ・ですが、ドラゴンの封印の際に男性エルフがほぼ死んだため、必然的に

   『人』の男性側に偏って絆が多く埋め込まれました(女性しか残ってい

   なかったという意味です)。

  ・その結果、絆は血脈に受け継がれ、その因子が重なったときに発現する

   ように変化しました。

  ・しかも、重なるのは女性の中でのみとなり、そうしたことから聖女が生

   まれる要因となったわけです。


  


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