異変
メリスの案内で、燐達は久しぶりに女王の間へとやってきた。あいかわらず謎の玉が宙を浮いている。
「改めて、ご無事でなによりです。皆さんが予定を過ぎても帰ってこないので少し心配はしましたが必ず戻ってくると信じていました」
燐達はメリスと社交辞令のような挨拶を済まし、本題へ入ることにした。簡単に説明はしたけれど、掻い摘んで説明したせいで状況説明くらいにしかなってなかったからだ。
なので燐はメリスとアリアに、浮遊城であった事と結果何をしたかという説明をする。勿論、かつての魔導大国ドールタークとエルディアの事についても本人の了承を得ながら話した。
「そんな事があったなんて知りませんでした。私も長いこと女王をやっていますが、その時にはもう浮遊城は空に浮かび、それに関する書物もありませんでしたから……」
「エルディアさん……でしたっけ?他の住民や国民はやはり……?」
アリアの質問にエルディアは、既に我が身だけがドールタークの存在を証明する最後の人物となっている事を告げる。話を聞きメリスは、この事を記録に残すべきかどうか悩んでいた。
その行為はきっとエルディアのこれまでの人生を否定してしまう結果となる。それなりに全てを包み隠さずに話してくれたエルディアにメリスは心の内だけに留めると決めた。
勿論アリアも同じ気持ちで、この事は生涯誰にも話さないと誓う。
「女王様!! いらっしゃいますか!!」
扉の外から、メリスを呼ぶ声が聞こえ話を中断して、駆け込んでくる者を女王の間へと通す。
伝令の子であろうか、軽装で身軽そうな兵士が汗だくで入ってくる。
「どうかしましたか?」
「東の森周辺で火災が発生しております。住民に被害はなく既に消化にあたっています……しかし、犯人は恐らく人族の者。しかも、火の勢いからしてこれは魔法による攻撃です!!」
メリスはあり得ない事に驚愕の表情を浮かべた。何故ならば、この国はメリスの守護結界によって国全体が覆われているからだ。
その結界内では、悪意を持って行使される魔法は発動すら出来なくなる。そして、術者本人にも身体的拘束力を与えるのだ。
それなのに魔法による火災が起きるという事は考えにくい事だった。それでも起こってしまった以上メリスは、国民の安全を第一に考え防衛体制を取る様に命令する。
それを聞いた伝令の子は、来た道を早足で駆けていった。
「メリスどうなっているんだ? 君の固有魔法が失敗したとか?」
「いえ、この魔法は一度発動してしまえば私を殺しでもしない限り消えることはありません。考えにくい事ですが、国境の外から放たれた大規模魔法か何かかと」
メリスは自分に言った言葉をありえないと言った表情を浮かべ、一人で考え出していた。そんなメリスを見てセイラがやれやれといった風にしゃべりだす。
「お母様はまた一人で何もかも背負うつもりですか? ここには私もいるし、燐・アリア・キャロル・リア・エルディア……こんなに頼もしい仲間が、友人がいるじゃない。お母様一人で全てを守っていると思ったら大間違いだわ」
笑顔のセイラがメリスを見て、周りの友人達へと視線を巡らした。
セイラに言われて我に返ったメリスが「そうだったわね」っと、申し訳なさそうに笑う。その笑顔につられて、皆も笑った。
そしてもうメリスの顔には不安も動揺の影も一切なかった。外ではシャークリアの兵士達が慌しく状況の整理と対応に追われている。
そんな彼女らにメリスは姿を現し、激励の言葉を贈ると尚いっそう作業に身が入ったようだ。
「エルディアさん、ちょっとお願いがあります」
「ん?」
「俺を背に乗せて、火災の起こった現場まで飛んでくれませんか?」
燐の突然のお願いにエルディアはもとより、メリスも驚いている。何故わざわざそんな所に行きたいのかは燐にもわからない。
それでも、今起こっていることを正確に見ておかなければいけないきがした。
燐の真剣な眼差しにエルディアは快く了承してくれる。
燐とエルディアが準備を終え、現場に向かおうとしたところでメリスが声をかけてきた。
「あの!! わ、私もご一緒して宜しいでしょうか!!」
「かまわないよ、妖精の女王様。振り落とされないように、そこの男にでも抱きついていなよ?」
「……わかりました!!」
燐はわかりましたってなんだよって思ったが、つっこみはせず火災現場を目指す。あいかわらずエルディアの背中は乗り心地がよく、これがただの空の散歩ならどれだけよかっただろうかとも思った。
エルディアが羽ばたきと共に空に上がると、あっという間に火災現場の上空へと辿り着いた。今だ身を焼く熱気を放つそこで一生懸命に消化活動をしている兵士を発見する。
「あれは間違いなく魔法の炎。普通の水や低級魔法だと時間がかかってしまいます!!」
「エルディア……お願いできるか?」
「無論だ」
エルディアは冷気を纏わせた羽ばたきで炎を消していく。先程まで轟々と音を立てて燃え盛っていた森は、逆に氷の森となり先程までとは逆の光景となった。
「これで問題ないだろうか?」
「いろいろお願いしてしまって……助かったよ」
「私も女王としてお礼を言います。このお礼は必ず致しますので」
エルディアは首を捻り、燐とメリスを見て首を軽く振る。エルディアは褒賞が欲しくてやった事ではないのだから、不要だと言う。
そして、エルディアは空を悠然と飛び、メリスの城へと戻る。
ただ燐だけは腑に落ちないといった感じだった。何故ならば、これほどまでの大規模な攻撃をしかけておいて、攻め入ってくる様子どころか敵の姿さえ一切見えなかった。
人間の姿を見たという話も本当なのだろうかと思うほどである。燐の疑問を感づいてか、メリスがぼそっと言葉を発する。
「方法はともかく恐らくこれは、先日の件の報復だと思います」
「あいつらか……」
「そして姿を見たと言う事も本当でしょう……但し、わざと姿を見せたのだと思います」
メリスの考えでは、わざと派手な事をして姿を見せ、こちらから攻め入ってくるのを待っているのではないかと言う事だった。
姿を見せたといっても、この火災の犯人足りえる証拠がない以上こちらから何か事を起こせば相手の思うつぼ。
絶好の戦乱の火種として、国土獲得と妖精族の捕獲を正当な行為として行うとメリスは語った。
「確かに辻褄は合いますが……本当にそれだけなのでしょうか?」
「何か気になる事でも?」
「いえ、何かひっかかるって訳じゃなくて……そうですね、不安から考えすぎたみたいです。忘れてください」
どちらにしろ警備に人員を割かなくてはいけないので、予定より多く配置すればいいだけだとメリスは言う。
燐もそのほうがいいと考えているので、一旦はその対応で様子を見ることにした。
静かに話を聞いていたエルディアだけは、ただ冷たい寂しい目をしていた。その事に気付く者はいないはずだったが、燐だけはエルディアの方をちらっとだけ見た。
勿論、顔が見えないので燐にもわからないが、なんとなくエルディアが苦しそうだと感じていた。
燐とメリスがこれからの事を相談していると、すぐに城が見えてきたので同じ様に正面入り口に降り立ってもらう。
まずは待っていてくれた仲間に報告をするべく、3人は城の中に消えていった。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
皆様1日ぶりです。
今日はこれといって変わった事もなにもない
穏やかな1日でした。
強いて言えばエアコンってやっぱいいですね……。
来週からまた雨続きみたいですから、皆さんも
体調には気をつけてくださいね。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




