これからの行方
「エルディア……やっぱり一緒にいこう!!」
燐の声が響き渡る。セイラもキャロルも、燐の提案に何も口を挟む様子はない。
「な、なにを言っているんだ?私がここを離れる訳にはいかない……あんたも知っているだろう?」
燐だって承知の上だ。この国を捨てるという事は、近い未来では無いにしてもいずれは誰かがやって来る。
そうなれば今までエルディアが守ってきた事が無駄になってしまう。研究資料なんて廃棄してしまえばいいと言うかもしれないが、エルディアに残された数少ない思い出の品なのだ。
絶対に守るから思い出は無くしたくないという気持ちでエルディアはこの生活を続けた来た。勿論、燐はそんな事を聞いてもいないし、聞くつもりもない。
それでも燐に研究資料の保管されている書庫に案内してくれた時のエルディアの面影は、まるで故郷を懐かしむ母のようだった。
そしてエルディアのもう一つの懸念は、この国を支えている魔法を含む現存魔法を遥かに凌駕した力。それを野心を持つものが手に入れたらどうなるか。
エルディアは2度と過去の過ちを犯す可能性のある行動をしないだろう。だから国は捨てられないし、燐に着いて行きたいという気持ちを言葉にも感情にも出すことはなかった。
「エルディアさん、俺も何も考えずにこんな事を言ってるわけじゃないんですよ。ただその場合はこの国が跡形もなく消失してしまいますが……」
「あんたまさか……この国を暴走爆破しようなんて考えていないだろうな!?それがどういう事なのかわかっているのか!!海上でやったとしてもそれは、大津波となり国々を洗い流すだろう……」
燐はエルディアの反応にも目を背けず、首を左右に振った。そんな事はしない、けれど嘘をついている目ではない。
だからと言って燐がその他大勢の犠牲を最小限に抑えて、エルディアを救おうとも思っていなかった。
燐がしようとしていた事、それは人口ブラックホールの生成による発生源の完全消滅。
これは人工的に作るブラックホールだが、その概念は燐の世界の物とはまるで違う。一番大きな点は、重力を操作出来るか出来ないかだ。
本来はブラックホールとは凄まじい重力を持った天体で、光さえも捻じ曲げてしまう力はどうする事も出来ない事だ。
勿論同じ物を作り出そうとしている燐にも不安はある。そんな事が可能であったとしても、どこで行うかも問題だし、被害が無いという事はないだろう。
「エルディアさんはブラックホール……で伝わるのかな、はご存知ですか?」
「それは、遥か彼方に存在し星々を喰らうあれの事か?」
「さすがです。俺はあれを再現しようと思っています……この国の完全重力制御魔法を使えば可能ではないかと」
燐はわざと失敗する事は伝えなかったが、エルディアもそんな都合のいい事が無い事はわかっているようだ。それでも両者ともその事に関しては口を出さない。
やがて、ゆっくりとエルディアは考えるのを止め燐に向き直り強い眼差しで聞いてきた。
「成功する可能性はあるのか?」
「それは分かりません。なぜならば、俺の国でも全てが解明されていない事なので……」
燐をじっと見つめていたエルディアは優しく微笑み、質問を続ける。
「その提案を呑んだとして、失敗すればどうなる?もし多くの人が犠牲になる可能性が少しでもあるのならば……その提案は受けられない。諦めて地上に降りてくれ」
笑顔の裏には強い決意の顔が見え隠れする。燐の提案は嬉しい……けれど、犠牲の上で得る生活など受け入れられないという気持ちとが混ざり合い、笑顔で送り出そうとした事がエルディアにとっての精一杯の感謝の気持ちの表れだった。
それでも燐は、成功する可能性がある事と被害は少ないが自然形態を変えるほどの事は起こると伝える。
「それでも俺達がこの国から離れる事を考えると、海上のど真ん中というのは考えにくいです」
「それだけならば問題はない。私はドラゴンになれるのだぞ?背に乗ればいい」
燐はエルディアの事を失念していたので、素直に成程と思った。
脱出には支障はないにしても、やはり問題は後始末だろう。上手くいく見込みはある……ただ、失敗した時のリスクがエルディアの気持ちをこの国に縫いつける。
燐はその気持ちを変える決定打を持っていなかった。少しでも問題がある以上、エルディアの心は動かない。
この国とエルディアを繋ぐ、頑丈な楔は呪いと言ってもいいものだ。世界を救う為に全てを捨てたエルディアを納得させる欠片がどうしても見つからない。
「さて、もうそろそろいいかな?私はこれから海でも見に行こうと思う。今は一人になって、短い間だったが楽しい時間をくれた君達の事を思いながら自分を見つめ直したい」
「海に……?」
エルディアのふとした言葉に燐はひっかかりを覚えた。よく思い出そうと燐は、エルディアの言った事を反復する。
そして燐は一つの勘違いに気が付いた。何故今まで気が付かなかったのだろうと、燐は肩を落とす。
「エルディアさん。一つ確認したい事があるんですが、いいですか?」
「ん?今更なにを?」
「この国って、エルディアさんの自由に動かせるんですか?」
「当たり前じゃないか」
確信を得た。燐は今までメリスの言葉の通り、この国は風か何かに流されつつゆっくりと移動しているものだと思っていたのだ。
普通に考えればおかしな話である。風に流されるにしても、一定期間毎に停滞・移動をするなんてありえない。
それもそのはずだ。この国はエルディアが自分の意思で動かしていたのだから。
「エルディアさんは、この空のずっと上には何があるか知っていますか?」
「宇宙空間の事か?私もどこまで飛んでいけるのか試そうと思ったのだが、途中までしかいけなくてね」
燐は更なる確信を得る。エルディアも勘違いしているみたいだが、自分の翼で飛んでいけないから先にはいけない……だからこの国も宇宙空間に昇ることは出来ないとそう思っていた。
だがそうじゃない。宇宙空間に空気がない事は燐にとっては当たり前の事でも、この世界ではそうじゃなかった。
さすがに宇宙空間に行けた生物はこの世界にはいないようなので、そういう概念も存在しないのかもしれない。
翼を持つ生物は、揚力を得て空を自由に飛ぶ。ただそれは、翼の生む揚力だけではなく前に進む力や風の力を借りて初めて空を自由に飛びまわれるのだ。
普通ならば垂直に飛ぶ事は不可能に近い行動なのだが、それを可能とする生物も確かにいる。どういう事にしろ空を飛ぶ為にいくつもの条件が必要なのだ。
その中で風の力というのは大変なファクターなのだが、それも空気という存在があってこそ起こり得る自然現象。
だから宇宙空間で生きる事で出来たとしても、羽ばたく事は出来ないという事だ。
「わかりました。いろいろと納得した事もあります。どうやら、手はあるみたいです」
「それは本当なのか?」
「はい!!エルディアさんに確認はしないとダメな事はありますが、問題はないはずです」
燐は力強く拳を握った。その姿からは先程まで砂の城を作っていたような弱気な心は感じさせない。今はただ、エルディアの為に考え得る努力をしようとしている燐の姿だけだった。
「どうやら地上に降りるのは、もう少し後になりそうですね。とりあえず……聞きたいことがあります」
「わかった。城の中へ行こう」
燐とエルディアは城に向かい、キャロルとセイラも後を着いて行く。
世界の歯車は確実にこの世界を別の方向へと導こうとしている。その未来が破滅であったとしても、もうその流れは変えられない。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
おはようございます。
今日も朝投稿となってしまいました。
やっと本編に戻りますので、宜しくお願いしまう
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




