ドールタークの最後
ドールターク城内。燐を始めエルディア・セイラ・キャロルの4人が食堂に集まっていた。
予定では、既に地上へ向けて飛び立っていたはずなのだが、まだ当の3人はこの浮遊城に滞在している。
「それでは、話を聞かせて欲しいんですが。この浮遊城はエルディアさんの意思で自由に移動可能……間違いありませんか?」
「あぁ、その通りだ」
燐が推測した通り、この浮遊城は操作可能である確認は済んだ。あとは、その移動範囲についてが重要な事なのだ。
「ここからが大事な事なんですが、今の場所よりもっと上に飛べますか?」
「それも問題ない。私がこの高度を保っているのは、これ以上の高度になると植物は育たないし、なにより凄く寒いんだ」
燐は納得顔で話を続ける。議論を続けた結果、移動範囲に制限はない事は間違いないようだ。
あとはブラックホールの生成に関しては、エルディアも少々頭を捻っていたが、なんとか伝える事が出来た。
ただ机上の理論となりえる可能性もある。全てが紙とペンで解決するのであれば、失敗なんて結果は起こらない。
何が起こるかわからないこそ、失敗を重ね技術は進歩していくのだから。それを踏まえた上で心配している事は、起こりえる可能性のある不確定要素についてだ。
世の中には‘可能’と‘不可能’と言う言葉がある。特に技術の進歩において、切り離せない言葉のひとつだ。
可能と不可能と不確定要素……それは、もう何が起こるかわからない。しかも今回扱う力は魔力という、不可思議を可能とする力。
それだけ不確定要素も増え、物理法則をも軽く突破してしまう現象がそこにある。
燐の頭の中で考えられる最悪のシナリオ……それは、ブラックホールの生成には成功するも連鎖反応を起こし、この世界を飲み込んでしまう事だ。
勿論それは、ブラックホールが異常重力の天体という前提の上ではありえないと考えている。いくら強大な魔力を有しているといっても、その魔力を使い切ってしまえば自然消滅するのが道理だろう。
何よりサイズが、天体と比べたら小石のような大きさなのだと高を括るしかない。
「俺は成功する可能性の方が高いと思います。あとはエルディアさんの意思……だけです」
「ふふっ。君は酷い人だなぁ……最後の最後で私に選択権を放り投げてくるんだから。戦うも逃げるもあなた次第って事か……」
食堂に気まずい空気が流れる。それは一瞬が永遠とも思われる様な時間の繰り返しのようだった。
セイラもキャロルも一切言葉を発しない。燐は二人にこの話を予めしておいたのだ。だから後は見守っていて欲しいと燐は約束を交わしている。
燐は伝えることは伝えたと、エルディアの一挙一動を静かに見守った。エルディアも心の整理をつけているのだろう、自問自答を繰り返しどうするべきかを見定めている。
「わかった……。私は君を信じてみようと思う。永遠に守り続けるっていうのも大概、無理な話だからな。ここまで……守り続けてきたのは、君を待っていたのかもしれない。暴走した力を難無く扱い、高い知性と前に進む勇気を兼ね備えた君を」
燐は別に、何でも出来るヒーローなんかじゃない。けれど今はエルディアの為にヒーローの真似事をしてみようと思う。
まずは、準備が必要だ。操作が出来ると言っても成層圏以上の高さまで上がり、そこからゆっくりと重力方向を浮遊城へと向ける様に仕向けないといけない。
そうすれば、浮遊城はスピードを維持したままゆっくりと宇宙空間へと飛び出す。その後は魔力暴走による異常重力によって重力崩壊を起こす為、連鎖反応していくだろう。
そして、その無限にも思える溜め込んだ莫大な魔力によって連鎖反応は留まる事を知らず……ブラックホールと化す。ただそれも、溜め込んだ魔力が尽きるまでの事だと燐は考えている。
「こんな感じで自動操縦と自動制御を行いますが、何か気になる事はありますか?」
「いや……ない。むしろ、私程度では何が起こるか想像が難しい……」
そう言うエルディアからは、役に立てなくてすまないという感情が燐へと伝わった。燐はそんなエルディアの為に、万全の準備を進める。
それから3日かけて、身辺整理と消滅準備を進めた。城の中には現代魔法を遥かに上回る技術研究もされており、完成しているものやほぼほぼ結論がでている物もあった。
エルディアは燐の為に、全てを譲ると言ってくれたのだが、研究資料に軽く目を通した燐はそれをエルディアに返す。
「俺はこんな物いらないし、使おうとも思わない。遠い未来、同じ様な物が考えられたとしても今は……知るべきではない事だよ」
「そうか……」
エルディアは燐に笑顔を向け、その資料を書庫に戻した。勿論その中から燐はいくつかの物を譲ってもらってはいるのだが。
城の中を調べて行くと、当時戦争で使ったのであろう魔道兵器も多く残っていた。それは、どこかの風刺小説で出てくる空飛ぶ島と同じ運命を辿ったようである。
ただここに残された魔道兵器は使い物にはならないが、研究資料に似た説明が載っていた。その力は町を灰燼と化し、生物は全て蒸発すると。
ただその前の資料には人々の為に考えられた技術だと言う事が書かれていた。そんな優しい人達から、この様な無慈悲な兵器を作らせてしまった事が残念でしかたがない。
「エルディアさん、だいたい確認は終わりましたね。準備も問題ないみたいです……本当に心残りはないですか?」
「あぁ、問題ない。むしろ、感謝しているよ」
エルディアは決意を胸に制御室へと向った。
準備が完全に終わると、浮遊城は上昇を始める。どんどんと辺りが暗くなり、気温も下がっていく。ありかじめセイラとキャロルには防寒着を手渡している。
燐もだんだんと体が冷えてきたので、防寒着を着込み準備する。
「エルディアさんは平気なんですか?」
「ん?いやぁ……寒いことは寒いんだが、耐性が強くてね。それに君にもらったものを守護龍の姿に戻った時に破いてしまうのもね」
燐は、初めてエルディアと会った時の事を思い出したがドラゴンから人の姿になった時は服を着ていた気がすると不思議そうな顔をする。
きっと、何かしらの理由があるのだろうと燐は雑念を捨て、今は計画に専念した。
気付けば周りは夕闇を思わせる景色に変わり、外に出てみると息が凍る。燐は改めて肉体強化の万能性に賞賛を送りつつ、セイラとキャロルの待つミニログハウスへと向かった。
「準備出来たけど……大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ!?あなたちょっとって言ったわよね!!凍え死んじゃうわよ!!」
「……」
「それだけ元気なら大丈夫だよ」
セイラは元気そうだし、キャロルも問題は無さそうではある。ただ、体を縮こませて丸まって微動だにしないが。
それでも2人が寒いというのも当然ではある。恐らく気温はマイナス20度程なのだから。燐だって寒いことは寒いのだが、痩せ我慢と言うか男の意地みたいなもので持ちこたえていた。
そんな中エルディアだけは、3人に比べるとだいぶ薄着で精神的に凍えそうではある。
「またせたな。自動運転・制御は問題ない。あとは私達がここを、後にするだけだ」
「わかりました。それではお願いします」
燐達は、ドラゴンの姿になったエルディアの背に乗り下降を始める。凍える風や薄い空気で体力をだいぶ奪われていた燐達はしっかりとエルディアの背にしがみつく事だけで専念した。
ゆっくりと浮遊城が遠くになるにつれ、恐ろしい魔力の膨張をも確認している。これがまだ全魔力の半分にも満たないと思うと、心底ぞっとする。
燐は制御室を見たとき安定的に運用されている重力魔法と底が見えない魔力の塊を確認はしていたが……それは異常な魔力量としか捕らえることが出来なかった。
しかし安定的に供給されていた魔力のストッパーを外し、目に見えて膨れあがっていく魔力を見て初めて、その異常さに気付かされる。
「確かに……これをこのまま開放していたら、目に見える大陸は形も残さないでしょうね」
「君は今頃気付いたのかい?そうさ、これが数千年溜め込んだ魔力の量さ。まさか無限に溜め込める魔力タンクがこんな末路を辿るとは誰も思わないさ」
更に浮遊城との距離は離れ、だんだんと太陽の暖かさが気持ちよくなってきた。辺りもよく見る風景に戻り、あと地上まで数キロといういった所だろう。
時間にすると結構な時間飛んでいるので、浮遊城も宇宙空間に出ているだろう。小さくなった浮遊城は、誰の目にも映ることはなかった。
しかし、異常な魔力の流れを感じる事が出来るので、確実にそこにあるのはわかっている。
そんな魔力の流れが急に加速したかと思うと、その溢れた力が体にビシビシと伝わった。
「始まったみたいですね。まさか、先に魔力の奔流を受けるとは思いもしませんでしたけど……」
「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの!?なんか私……こわい」
「大丈夫だ、絶対上手くいく!!」
「うん!!」
キャロルの声がエルディアの背に響く。しかし、燐は上手くいくという言葉とは裏腹に心配しかなかった。
セイラに到っては、種族差なのか異常魔力の影響で体がガタガタと震えている。いつもの憎まれ口を言う余裕も無さそうだった。
そんなセイラの精神状態など知ったものかと言わんばかりに、ブラックホールらしき物が形成され始めた。どうやら超新星爆発のようなものは起こらず、魔力の衝撃波だけで済んだみたいだ。
とはいえ無理矢理に起こしている重力崩壊なので、ある意味最高の結果だと燐の顔に笑顔が浮かぶ。
各々が思いを巡らせている中でも、着々とブラックホールはその大きさを広げていく。どうやら膨張し始めたらしい。
「お兄ちゃん見て!!空が!!」
「空って?」
燐はブラックホールだけに目がいっていたせいか、周りをちゃんと確認できていなかったので状況についていけず、気の抜けた返事を返した。
「空が歪んで……いる?」
よく見なくてもブラックホールを中心に空が歪んでいるのがわかる。まるで飴細工のように周囲がどろりと溶けたような感じだ。
周りの天体も光も吸い込んでいる様は正直、世界の終わりを感じさせ燐でも身震いしてしまうほどだ。
その時、遠くで光るものが見える。どうやら、軌道を曲げられた小惑星帯の一部が流星となって降り注いでいるようだった。
その時、流星の一つが地表に落下した。白煙を纏い隕石となったそれは、落下地点で強烈な光を放ちクレーターを残しす。
「エルディアさん!!あんなのにあたったらひとたまりもありません!!十分注意してください!!」
「あぁ……わかっている。私もあんなものに当たりたくはないよ」
幸いなのは、場所を山中に移動していた事だ。山脈の形は変わってしまうかもしれないが、誰かが死ぬことは恐らく無い。
流星の雨を紙一重で回避しながら、エルディアは地表に向かっていく。勿論こんな状態で、降り立つのは危険なので飛び続けなければいけない。
そして、何時間たっただろうか。気付けばブラックホールの大きさが数分前に見たより小さくなったように思えた。
どうやら魔力がつきかけているみたいだ。それを確認が出来ると見る見るうちにブラックホールが消滅していく。
そして完全にその形を留めるか留めないかという時、残った魔力が急激に膨張を始めた。ブラックホールでも魔力自体を吸い込むことができなかったのであろう。
「ここは危険です!!エルディアさん、はやく遠くへ!!」
エルディアがその場を出来るだけ離れようと、残り少ない力を振り絞って飛び出したその時。
凄まじい轟音を響かせ、魔力による純粋な爆発が起こる。その力は、魔力の流れを辿るかのように昇って行った順路そのままに、その力が叩きつけられる。
地表に落ちたそれは、森を土砂ごと空中に巻き上げ、山を抉りとり大地を赤黒く染め上げた。
その衝撃波にエルディアも吹き飛ばされ、燐・セイラ・キャロルを胸にしっかりと抱き大地を削りながら落下してしまう。
4人はそこで意識を失い、目が覚めたとき見た風景は美しい自然や雄雄しき山脈は姿を変え死の大地へと変貌してしまっていたのだった。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
今回のお話はここまでです。
いかがだったでしょうか?
実は燐の建てた家をマインクラフトで
作ってみようという計画があるのですが
実際作りこむと時間はかかるし
あんまり簡単に作ってしまうと寂しいですよね?
そんな予定がありますよって作者からの報告でした。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




