家族
※改稿作業中
朝早く目を覚ました燐は1階へ向った。軽く眠気覚ましを兼ねて川へ水汲みと顔を洗いに出かけた。彼誰時という感じでまだまだ薄暗く、何か出てきそうだなと燐は少しだけ体を震わせていた。そんな事を考えながら水汲み等を済ませ小屋へと戻った。
まだ2人とも眠っているみたいで、燐は朝食の準備に取り掛かった。シフォンケーキもいいと考えたが朝食で簡単おいしいといえばズバリ、パンケーキだろう。
昨晩、台所で調理した時にある材料は把握していたからこその思い付きだ。さっそく調理準備に取り掛かる燐、作り方は簡単なのですぐに焼く準備まで整った。
さっそくフライパンを熱し焼き始めた燐。その匂いに誘われるようにキャロルが2階から顔を覗かせていた。
キャロルがゆっくりと燐の背後に近づきフライパンの中を覗こうとするが身長が若干足りない。燐はキャロルが背後にいることに全く気づいていなかったので、振り向き様キャロルとぶつかってしまった。
居るはずもない存在に燐はびっくりしたようだったが、倒れこんだキャロルを見て急いで抱き起こした。
「ごめん!! まさか、いるとは思わなくて……」
「大丈夫。……それ、なに?」
「あぁ、これは。何ていえばいいのかなぁ~。そう、甘いパンだ!!」
「???」
キャロルはイマイチわかっていないようで、砂糖を振り掛けたパンを想像した。燐はそっとキャロルを食卓に座らせて先程焼きあがったパンケーキを皿に盛り、シロップをたっぷりとかけてやった。ジャムもいいがやっぱり甘いシロップに限る。
キャロルがきょとんとした顔で燐を見つめていたが、その甘い香りにパンケーキに目線が移った。パンケーキを手に燐が食卓に戻ってきて、キャロルの目の前にそっと皿を置いた。もちろんナイフとフォークを添えて。
キャロルは眼前で甘い香りをさせながら、白い湯気を立てる丸いそれに完全に目が覚めたようだ。そっとナイフで切り分けフォークを刺すと、それを口に運んだ。ふわふわであまあまな茶色い悪魔にキャロルが眩しい笑顔を燐に向けた。
よほど気に入ったのか一気に平らげ口の周りはシロップでベトベトだ。そっと口を拭いてやると、皿を差し出すのでおかわりを所望らしい。燐は優しく微笑むと次のパンケーキを焼きだした。するとアリアも目が覚めたらしく2階から燐に声をかけた。
「燐さん、私の分もお願いしますね」
「わかりました。すぐ焼きますね」
「お母さん、私の方が先だよ?」
「はぃはぃ。わかってますよ」
そんなキャロルが愛おしくて堪らないのだろう、アリアもそっと微笑むを浮かべた。燐はパンケーキをどんどんと焼いていき出来立てのそれをキャロルの前に差し出した。
その時にはアリアも席についていたのだが、昨晩は薄暗かったので気にはならなかったアリアの寝巻き姿は純白のネグリジュそのもので肩から胸元にかけて大きく素肌を露出していた。
燐はアリアを見て、顔を蒸気させたのをごまかすために急いで調理に戻った。
どうやら燐の目線でアリアも気づいたらしく、苦笑しつつそっと身嗜みを整えた。そうこうしている内にアリアの分のパンケーキも出来上がったのでそっとアリアの目の前にセッティングした。
「本当においしそうね。これからは燐さんが毎日食事を作ってくれると私もうれしいわ。ねえ、キャロルもそう思うでしょ?」
「お兄ちゃんの作るのがいい」
「一応聞きますけど。拒否権はありますか?」
「この子が燐さんの料理じゃなくていいっていうなら私はそれでもかまいませんよ」
「キャロルちゃ『お兄ちゃんのがいい。私も手伝う』」
「わかりました……。これからも作らせていただきます」
断れない性格ではないのだが、燐はキャロルに勝てる気がしなかった。それに、笑顔を守ると決めたんだこれくらいの事進んでやった方がいいかもしれないと思っている。
食事を済ませキャロルとアリアは川に向うようだ。初めてアリアの固有魔法を見たが、確かに光が収束して足の代わりをしている。夜に出会ったら幽霊と見間違いしそうだなと燐はよくわからない事を考えていた。
そして2人が帰って来るまでにすることがある。とりあえずは店の商品の在庫確保だ。今回は食器の他に魔法玉もいくつか作って置いた。燐も自分自身の魔法を使いこなせてきたようで、イメージを形にするのが随分と上手くなった。
ただ、新商品がないのもつまらないので一応ナイフやダガーと言った武器も揃えておいた。強度には自信があるが、やはり素人作品であるため切れ味や出来栄えは二の次だ。
そんな素人作品であると言っても燐の作った物には違いないので燐マークを彫っておく。他にもいろいろと売れそうな物を作成しておき、魔法庫へと収納しておく。
漸く日が辺りを照らし始め、暖かな日の光が小屋の中へとさしてくる。燐は外に出て、その恵みを全身に受けてゆっくりと伸びをする。すると、遠くにアリアとキャロルの姿が木々の間から見え隠れする。その姿はどこにでもあるような一風景なのだが、まるで森の精霊の親子のようだった。
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
「お兄ちゃん、ただいま!! フルーツいっぱいとってきたよ!!!」
そう言うキャロルのバスケットには大小様々なフルーツが入っていた。どれもこれもよく熟れているが食べ頃は2・3日後だろう。
帰ってきたばかりだったが、燐は言わなくてはならない事があった。なし崩し的になりそうだったので、改めてここで住む事への確認とお世話になるという挨拶だ。アリアは何を今更みたいな顔をしていたが、キャロルが心配そうな目をしていたのでアリアはきちんと言葉で‘こちらこそ宜しくお願いします’と言ってくれた。
3人は午前中はゆっくりとしながら庭にでて、お茶を飲んでいた。燐が大量に抱えている木材で即席のテーブルと丸イスを作ったからだ。途中セイラとリアが尋ねてきたので、キャロルを加えて3人で遊び始めた。かくれんぼや花の冠を作ったりしている。どこの世界でもやることは一緒なんだなと燐は思った。
そんな楽しそうな3人を見つめつつアリアが燐にそっと尋ねてきた。
「燐さんは、何かしたいことがありますか?」
「したいことですか?」
「ええ、そうです。ここは街からは少し離れていて迷い込んだとしても誰かが来るなんて心配はありません。燐さんはお店をやっていると言う事を聞いてますけど、それ以外はご予定とかないのでしょうか?」
「んー。やりたいこと……」
確かにやりたい事はいくつかあるのだが、すぐに実行出来る事と実行出来ないものが燐の中にはあった。その中でも許可さえ貰えれば、実践してみたい事があるのでセイラを呼んだ。
「ちょっと聞きたいんだけど、この辺りの土地って他に誰か使ってるのかな?」
「ここ? ここは女王の土地だから他に使っている人も入ってくる人もいないはずよ? それがどうかしたの?」
「いや、出来なかったらいいんだけどさ。この辺りの土地を使っていいかな?」
「何をするつもりか知らないけど。変な事じゃなければいいわよ?」
案外すんなりと許可が下りてしまった事に燐は考えていた言い訳は無駄になった。言いくるめる手間が省けたので、燐は魔法庫から子袋を取り出しセイラに手渡した。セイラは小袋の中身を見て少し訝しげな顔を燐に向ける。まるでバカを見るような目つきに燐が苦笑する。
一言で言えば袋の中身は稲だ。しかし、この世界の稲は小振りで甘みも弾力もない味のしない穀物な上、結構いい値がする。重宝されているわけではなく手間が掛かるのだ。豊かな水と栄養のある土がないと食べようにも食べれない代物が育つのだ。
なので時間と手間と最高の立地を使ってまで育てて売れもしない物を作る物好きはいない。はっきりいって大損どころか丸損だからだ。そんな物を育てようという者がいるならば、それは馬鹿か世間知らずだという事だ。
勿論そのどちらにも燐は当てはまらない。稲の存在を知ったのはラグーラ・モアの店主カナタとの世間話の中でだった。燐はふと米が無性に食べたくなりカナタへとそういうものは無いかと聞いたところ、あることはあるけど食べれた物じゃないと聞いていた。
無理を言って少しだけ、カナタのツテから買い付け炊いてもらったのだが、べちゃっとしていて味が全くしなかった。塩や香辛料を使ってみたり、雑炊なんかにしてみたが味も馴染まず離乳食としか思えなかった。
燐も空き時間に試行錯誤した上で半ば諦めていたのだが、ある奇跡が起こっていた。適当に入れていたクリュの実とどうしようもないこの稲とが交配したのだ。
同じ穀物ではあるのだが、燐としても思わぬことで品種改良が成功していたのだ。といっても数を増やすまでが大変だった。燐の固有魔法を使ってもいっぺんに育てることが難しかったのだ。
無機物であれば、粘土の如く好き勝手にできたのだが植物となるとそうはいかず少しづつその数を増やしていった。その結果がこの小袋なのである。
燐の作り出した品種改良品はちゃんと甘みもあり、その粒もそれなりに大きい。欲をいうならば少し餅米に近い物になってしまった事が残念だった。その辺りはもっちりとしたクリュの実の特性が受け継がれたのだろう。
元々は菱形をしていた稲は、ドラゴンの鱗なんかと呼ばれていた。その所以は調理する際そのままだと刃を通さないし、炙ってもなかなか火が通らず水につけても一向に柔らかくならない、数日水を吸わせて炊き上げてもどろっとした何かになる。
要は見た目の形と手のつけられない物って意味合いからドラゴンの鱗と呼ばれているのだ。
「これは大丈夫だから……」
「まぁ、今更あなたが何をしても驚かないわ。魔法の上達速度は早いし、あんなガラス細工を瞬時に作り出すし。それに聞いてるわよ?一部で流通している魔法玉ってあなたが作った物らしいじゃない?」
「よくご存知で」
「月のでない夜には気をつける事ね」
どっかの暗殺者のような事をいうセイラは茶化し半分、本気半分といった所だ。深くは追求せず燐は話を元に戻した。簡単に結論だけいうと畑を作ろうが家を作ろうが何をしてもいいという事だった。
なので、燐は辺りを散策して地形を確認してみることにした。小屋の周りはちょっとした広場みたいな感じだったが、そこを離れれば普通の森だ。何本もの木々が聳え立ち川が流れスライムが歩いて……。
「……スライム?」
燐は一応用心深く近づいていった。どうやら土を食べはじめたみたいで、すの動きを止めた。観察してみた感じ、そこまで危険性はなさそうだったが試しに小さな石を投げてみた。
スライムだと思われる生き物は驚いたのか、逃げようとしているがそこまで速くなく見失う事はなかった。燐は意を決して近づいていくと、スライムのような生き物は体を波打たせ威嚇らしき事をしてくる。
さすがに軽率だったかなっと思った燐だったが、どうせ動きは遅いし余裕だろうと高をくくっていた。少しづつ距離をとろうとしたが、そいつは体をへこませバネのように燐へと飛び掛った。咄嗟に目を瞑ったが、燐の体に衝撃はなかった。
ゆっくりと目を明けるとそこにはキャロルが間に立っていて。先程までいたスライムだと思われる生き物は四散していた。それでもまだ、動いているので死んではいないのだろう。それも少ししたら動きを止め地面へと吸い込まれていった。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「あぁ……助かったよ。ところであれはなに?」
「ケプル」
「け、けぷる? それがさっきのやつの名前?」
「そう。水のケプル」
「他にもいるの!? っていうかケプルって何?」
「ケプルっていうのは魔物の事だよ? 見たことない?」
どうやらこの世界にも例に漏れず魔物はいるらしい。後からセイラ達に聞いた話だと魔物とは魔力が意思を持った生き物らしい。
魔物のにもいくつかの種類があるようで、自然の魔力が何かしらの力を得て生まれてくるタイプ。自然の魔力が固まり魔石となり、それに意思が宿り形を成したタイプ。人為的に魔力を使って形を固定させる、所謂召還や使い魔と呼ばれるタイプ。高位の術者や魔人がその力を分けた、所謂分身体タイプなど様々だそうだ。
散策を終えた燐は説明を受けて、なんとなくだが理解した。機会があれば自分自身でもやってみようと思っていたのだが、セイラに見透かされ失敗したら逆に殺されたり制御出来なかったりしたら大惨事になると釘をさされた。
地形を把握した燐は、とりあえず店を開くといい商業区へと出かけていった。商業区に着き、前と同じ場所が空いていたので店を開く準備をしようとしていると、くいくいっと袖を引かれた。
振り返るとそこには、いつから付いてきていたのかキャロルの姿がそこにあった。今は最初にあった時の用にフードを深くかぶっており、一瞬誰か分からなかった。
「ついてきたの?」
「……うん。お兄ちゃんのお店見たかった。居ていい?」
「アリアさんに怒られるかな……」
「……」
「居ていいよ。怒られた時は一緒に怒られよう」
「うん!!!」
本日も燐の魔法道具屋は盛況だった。補充した商品をほとんどが売れ燐も満足顔だ。店を仕舞いアリア達の待つ小屋にキャロルと手を繋いで帰路に着く。
帰り道、お兄ちゃんすごいっ!!という目線を向けられ燐は少しこそばゆい物を感じていた。家に帰ると扉の前であからさまに怒っているセイラと笑顔の裏に般若を貼り付けたアリアがそこにいた。その雰囲気を瞬時に察したキャロルは燐の後ろにひょいっと隠れ服を鷲掴みにしている。
アリアが手招きして家に入るので燐とキャロルも黄泉比良坂に向かう亡者の如く歩きだした。室内に入ると早速二人とも床に正座させられ、頭を垂れていた。
「キャロル、私達がどれだけ心配したと思ってるの?一緒に行くなら行くでちゃんと言ってくれないと。それに私達は逃げて来たって事はわかるでしょ?もし見つかりでもしたら……」
「ごめんなさい……」
キャロルは小さくなり謝罪を口にした。燐も一緒に2人に謝った。アリアも、ほっと胸を撫で下ろしたがすぐに厳しい顔つきに戻った。
「キャロル、それでも私はあなたを叱らないといけません」
「はい……」
「セイラ、私はどうすればいいと思います?」
「……アリー、お仕置きと言えばあれじゃない?」
「そうね。やっぱりあれね」
2人の間では既に何をするか決まっているようだった。アリアは正座したままのキャロルを呼びつけ、ゆっくりとアリアの前に立ったキャロルを抱きかかえ徐にロングコートのようなフードを捲り、下に履いているズボンを勢いよくずり下ろした。何をされるか理解したキャロルは尻尾を丸め手は祈るように握り締められていた。
「キャロル、尻尾で隠すのはやめなさい!!」
アリアに尻尾をどけるように言われたキャロルは震える尻尾をどけた。アリアの手が高く上げられ、今まさに振り下ろされる手前で停止している。いつくるかわからない痛みにキャロルは目を固く瞑りその時を待っていた。
「いーっち!!!」
「いひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!?!?」
バシンっという音と共にキャロルは悲鳴を上げ、その体を跳ねさせる。その目には涙が浮かび固く瞑られた目は大きく見開かれた。
「にぃー! さぁーん! しぃー!!」
「ひゃぁん!? ひゃぁ!?」
アリアのカウント共に可愛い声で叫ぶキャロルはいつ終わるのかとその痛みに耐えていた。カウント10でお仕置きは終わり、終わったと確信したキャロルは燐の胸の中へと飛び込んだ。燐は優しくその頭を撫でてやり、スンスンと鼻をならすキャロルを優しく抱きしめてやった。
「さて、次は燐さんの番ですよ」
「お、俺もですか!?」
「だって、キャロルと約束したんじゃないんですか? 一緒に怒られてやるって」
「なんでそれを……。あっ、さっき記憶を……」
全てを理解した燐にアリアはふふっと怪しい笑みを浮かべた。そしてキャロルにそのまま燐を捕まえておくように言い、咄嗟に逃げようとした燐だったがキャロルの力は想像以上に凄く逃げられそうにない。
内容が内容だけに覚悟を決めかねていた燐だったが、アリアはゆっくりと近づき燐のズボンを一気に下ろした。
「そこまでしますか!? 汗かいてますし、汚いですから!!」
「私は気にしませんよ。もう私達家族みたいなものじゃないですか」
そのセリフを最後にアリアの手はまた高く挙げられ、振り下ろされたのだ。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
いつも読んで下さり有難うございます。
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では次回更新でお会いしましょう。




