商売への第一歩
※改稿作業中
魔法水晶もどきを作り始めて3日。作成速度はグンっとよくなり、初めこそ1個1時間以上かかっていた工程が、今では15分程で作る事ができるようになっていた。
作業スピードが向上したという事で様々な魔法水晶を作っていた燐だったが、使い勝手が良さそうな火・水・光の3種類を重点的に量産している。
気づけば小さな子袋にはたくさんの魔法水晶もどきが出来上がっており、今日はこれを魔法屋に持っていって使えるかどうかを鑑定してもらう予定だ。
アルメンティア50キロが7500F。そこから15個程の魔力水晶もどきを作れるので、一つあたり500F以上の値が付けば一応元は取れる計算である。
そんな皮算用をしつつ商業区の魔法屋までやってきた燐は扉を軽く叩いた。
コンコン コンコン
「こんにちは~」
「どなたかな? あぁー、この前ロンドの親父と一緒に来てくれた……燐さんだったかのぉ?」
「はい、そうです。今日はちょっと見てもらいたい物がありまして」
「持ち込みかい。それじゃぁこっちにおいで」
ローブを着たおじいさんがカウンターの奥で手招きをしている。燐はゆっくりとカウンターまでやって来ると、備え付けのイスに腰掛け持ってきた袋をカウンターの上に置いた。
「それでこれなんですが、使えますかね?」
どれどれといいながら袋の中から魔力水晶モドキを一つ掴み出し鑑定を始める。一瞬ただの工芸品かと思っていたおじいさんだったが、鑑定していく内に目を白黒させ始めた。
次々と子袋の中から魔法水晶もどきを取り出しては置きを繰り返している。ただその手つきは貴重品でも扱うほど丁寧なものだった。
結局袋に入っていた15個全部を鑑定し終え、魔法水晶もどきを1つ掴んだおじいさんは凄い形相で燐に顔を近づける。
「こんな物どこで見つけてきたんだい!? しかもこんなに大量に……。それに綺麗に磨き上げられているが、これは君が加工したのか? まさか、どこかから盗んできたんじゃないだろうな?」
「盗んだなんてそんな!! これは俺がイチから作った物です!!!」
「イチから作った? これを!?」
燐の返答におじいさんは年齢不相応な激しい身振りをとり、大興奮しては鼻息を荒らげていた。まさかカウンターを乗り越えて燐に掴みかかり、今はすごいすごいと言いながら店内を不思議な踊りをしながら練り歩くほどまでいくと流石の燐も引いてしまう。
そのあまりの変貌ぶりに燐は唖然としたまま動くことができない。声をかけるべきかかけざるべきか悩んでいたら、さっきまで不思議な踊りをしていたおじいさんが燐に再度詰め寄り開口一番「売ってくれ!!」と言ったのだ。
未だ状況が掴めていない燐はどうしたものかと困り果ててしまう。
「売るかどうかは置いといて、これは利用価値があるってことでいいんですよね?」
「ももも、勿論じゃ!! 確かにこの前持って来たものに比べたらかなり差はあるが、あれは王族御用達の魔法水晶じゃ。あんなもの普通はわしらの所なんかに流れてこんわい」
関心しながら話を聞いていた燐だったが、売れるとすればいくらで売れるのか気になった。元手が500F程度なので加工代諸々込みで1個3000F~5000F位かなと思っていた。
「因みに、これ売ったらいくらで買い取ってくれます?」
「それは……さすがにこれだけ全部買取となると……。1個3万F……いや、2万5千Fでお願いできないじゃろか?」
想像していた買取額より5倍以上の値が付いた事に今度は燐が目を白黒させる。1個2万5千Fという事は全部買取で37万5千Fにもなってしまう。
『売った!!』と口が動きそうになるが、その言葉を燐はなんとか一旦飲み込む事が出来た。動揺しつつも、これにどれくらいの価値があるのかを詳しく聞く事が先決だと分かっているからだ。
構造的には魔法水晶と原理は一緒で発動条件を定義した魔法陣さえあれば、それに応じた魔法が発動する。この世界には電気・ガス・水道その他諸々がないのでもし普及すれば更にこの町も発展することだろう。
ただ問題は価格帯である。おやっさんの持っていた物はクルナンを焼くためだけにしか使用しておらず約15年程使い続けられたと言っていた。価格も定価で500万F程だろうと魔法屋のおじいさんは言う。
半値で買ったというので250万F位だろうか、確かにおかしい価格設定だがお買い得ではある。燐が作ったアルメンティア製の魔法水晶は1個で約1ヶ月程度使用することが出来る見込みだ。
確かに買取金額としては妥当ではあるが買う人がいるのだろうかと燐は疑問に思う。
勿論職種によって差はあるが、このあたりの平均収入が10万~12万Fと言った所である。それを月々2万5千F……いや、これは買取価格なのだから3万F以上の価格設定になるだろう。
それを収入の4分の1を削ってまで需要があるかどうかは怪しい所だ。確かに買取額は魅力的だが燐はとある提案をした。
「買取なんですけど、1個1万Fでお譲りしてもいいですよ?」
「それは本当か!?そうしてくれると確かに助かるんじゃが……本当にいいのか?もっと値をつけても罰はあたらんぞ?」
「勿論構いません。但し条件があります。この国の住民に限り1万5千F以上で売らないことが条件です」
店主は燐の言っていることがわからず少し考えた後、理由を聞いた。
「どういうことじゃ?」
「そのままの意味です。この国の住民に限り提示金額以上で売買する事を禁止する。ただそれだけです。勿論、ここに行商に来ている者に関してはあなたの好きな価格設定で構いません。5万Fだろうが10万Fだろうがお好きに決めてください」
「そんな事で良いのか?」
燐は軽く頷いてみせ、お主がそれで良いならと15万Fと引き換えに魔法水晶もどきを手渡した。魔法屋のおじいさん曰く、明日からでも店頭に並べるそうだ。
商品名は『魔法玉』となんともストレートなネーミングセンスだ。
魔法屋を後にした燐は、先程のお金を持って道具屋なんかでいろいろと仕入れた。燐は密かに画策しているのだ、自分の店を持つことを。
燐は店を持つにはどうしたら良いかわからないので、役所に行ってみることにした。役所で聞いてみたところ出店方法には2種類あり、1つは当日もしくは短期間だけの出店。もうひとつは年間契約での出店である。
燐はどちらが良いかと考えていた。短期間だと1日あたり5000Fの出店料と売り上げの10%を支払うことが義務付けられている。それに対し年間契約は年間費用が10万Fのみで保険のような物や様々な特典が受けられるという。
まだ方向性が完全に決まった訳ではないが、金銭面で余裕がある燐は年間契約を結ぶことにした。
30分程で営業許可書を発行してもらい、燐はおやっさんの店に向った。あいかわらず繁盛しているみたいで、にこにこと接客しているおやっさんが遠目にも見て取れる。
ついでに燐も買おうかと思ったのだが、気づけば時間が時間なだけに売り切れてしまった。
別にクルナンを食べに来たわけではないので、それはそれでかまわないと燐は諦める。燐は店じまいを始めたおやっさんに近づくと、おやっさんも気づいたみたいで声をかけてきた。
「おーい、燐。今日も遊びにきてたのかぁー?」
「ええ、まぁ。ちょっと用事があって」
「ふーん。で、俺に何か用か?」
「これをおやっさんに渡そうと思いまして。どうぞ」
燐は袋から3つの魔法玉を出しおやっさんに手渡した。水の魔法玉2つと光の魔法玉1つである。勿論お礼の意味もあるが、営業みたいなものだ。人気店であるおやっさんの店で使って貰ったらそれだけで宣伝効果があると踏んだのだ。
「その青っぽいやつが水を出せて、その黄色っぽい方が光を発生させます。だいたい1個で1ヶ月位使えるそうなのでよかったらどうぞ」
「へーこんな高そうな物本当にいいのかい?」
「どうぞどうぞ。俺が作ったものなんで気にしないでください」
なんとなく反応はわかっていたがおやっさんの顔は驚きの表情を浮かべる。燐も少し調子に乗ってきたのかわざと言っている節がある。魔法玉を見つめながらおやっさんは成程なぁ~っとぶつぶつ言っている。どうやらおやっさんの魔法水晶を使えるようにした事と関連付けて結論を導き出したようだ。
ある意味本題なのだが、燐はおやっさんに自分の店を持つことを報告した。店を持つことを聞いたおやっさんは満面の笑みで燐の髪の毛をわしゃわしゃと乱暴にかき乱した。手櫛で身嗜みを直していると、「がんばれよ!!」とだけ言ってくれた。もっといろいろと言われると思っていた燐だったが、そっちの方がおやっさんらしい。
「はい。頑張ります!!」
「それじゃぁ、これからは商売敵だな。お手柔らかにっ!!」
「大丈夫ですよ。おやっさんとは業種かぶりませんから」
お互いに笑い合い、握手を交わした。燐はこの世界でひとつ生きがいを見つけたのかもしれない。
いつも読んで下さり有難うございます。
気づけば燐が商人への道を歩みだしました。
適応が早いにも程があるやろ!!って感じですね(笑)
異世界に来ても驚かないし魔法は使えるし商売も始めるし。
作者がもし異世界にいっていたら何するでしょうか。
やっぱ冒険者ですね。荒くれ者犇くバーで頑固なマスターと酒を交わす。
クエスト稼ぎの放浪旅……。
今は平和ボケしそうな感じですが燐にも旅に出て欲しいですね。
次回更新は明日の予定でしたが間に合わないかもしれません……。




