033 大時計 改稿前
ここは大気の薄いとある小惑星…
それでも、彼らは何かを装着するでなく、生きていられる。
空を見上げれば、澄明な輪郭が視界に収まって、美しい。
漆黒に混じる光の細粒…
ふかいあじわいの闇の黒へと染まった背景に浮かんだ天体の球がとてもグラフィカルである。
素材の感触が存在感を物語る。
彼らは磨き上げた光沢する球体を色とりどりに持ち合わせ、それを上空へと放り投げる…
その手に収まるほどの小さなボール大であることもあるが、体ほどもある巨大な球であることも多い。
それらの球体は決まって、天頂へと放たれるとき、その遠近感とは反比例して距離を稼げば稼ぐほどに大きくなっていく。
たとえばそれが手のひらほどのボール大に始まったとき、空へと到達した頃には大きな雲ほどにも成長してしまっている……
そして、ある一点を過ぎれば、その遠近感と反比例との比率が中立となって、天高く離れればななれていくほどに、ますます面積を…印象を変えることはない……
つまり、それは宇宙の果てまでも遠くはなれたとして、ずっと、同じ面積で視界を遮り続けるのであった。
彼らは、よほどのことがない限りたったふたりで交代で任務を遂行していく。
そのひとりは、ティサ。
肉食獣をルーツに持つ美しい女性である。
もうひとりは、バランゴ。
石仮面を着けている。
彼らが何をなしているのか?
その星には、大きな時計の針が地面を占領している。
その場所は誰もいかない荒涼とした場所であるから別に邪魔だとも思われていないのだ。
彼と彼女は交替勤務で、その長い方の針を動かす役目をする。
そしてただのそれだけである。
その星の一日は、16時間だといわれている。
その星にとっての16時間であるが。
休みなくきっちりとふたりは交代の勤務を行っているけれども、その、16時間という時間に対して、快適に過ごせるレベルの平均的な睡眠時間とされるのが、たったの4時間であるのだ。
つまり、四分の一、疲労回復に割り当てさえすれば、残る時間は活発に行動できる。
彼と彼女は、そういったことから、連日の勤務をやりくりすることで可能なものにしていた。
勤務時間中、定刻、つまり一分刻みで針を回し続けなければならなくて、それは完全に彼ら任せなのである。
仮に、彼らの調子が今一つで、一分が経つのに異常に時間を要してしまうことだってあるだろう。
そして逆のことだってあるのだ。
つまりここにおいて、時間は、彼らが絶対であって、そのほかの現象とその時間とのギャップは、相対と呼ばれ恣意的であると認識されてしまう。
なんだか本末転倒のようでもあるが、それが事実であることには変わりなかった。
しかしながら、その長い針を動かすだけというのに、これほどに調子の善し悪しが影響してしまうのであろうか…
実を言うと、その時計が占領する地域は、ある、街の一区画まで広がっているくらいの、本当におおきなものであるからだ。
つまり、たった一分進んだだけでも、その6度を稼ぐためには結構な距離を歩かなければならないのである。
長い針自体、さほど重いものではないということだが、しかし、針の先端ほどにいなければ、やはり回転させていくには無理があるのだった。
これほど、大変さもある仕事ではあるが、8時間勤務のそのふたりだけの事業は、何を隠そう宇宙において、誰ひとりとして知っているものはいない。
その星には街があるけれども、実を言うと彼と彼女以外には誰もいなかった。
よって、この時計は、宇宙のどの領域にも影響を与えないのである。




