019 『特性のない男』T.S.シェリフル 改稿前
宇宙の滑走路…
他の平均的な運動生命体に対し…異様なほどの寿命と穏やかさを持つおかげで…代々シェリフル一族はこの職務を引き継いだという伝統が続いていた。
現在において…
相変わらずその末裔…T.S.シェリフルによってその任務はなされていた。
他の運動生命体に対し…どちらかといえば傾向として、植物的傾向の強い彼らの寿命は…やはり桁をひとつかふたつ増やしてやっと届くものだった。
ゼイルトラック…
宇宙の開戦前夜とよばれたそのヒリヒリとした異界は…宇宙にとても著名であるのに対し…、その規模や特徴は…非常にこじんまりとした惑星である。
規模的にはむしろ衛星や小惑星といったほうが聞こえはいいだろう。
生命体の宿るにはギリギリであろう軽い重力…
その希薄さに対し、一方この惑星を著名にしているのは…
薄い大気のため、外部よりの影響をもろに受けてしまうその過酷な環境…
そして、それに関連しているが、もうひとつ…通称宇宙の『交通の心臓』…ゼイルトラックの、その時空の捩じれと…事象平面化においての事象の異常なまでの集約性だった。
よって宇宙の銀河と錯綜する時空の切れ端によるイタズラと…銀河と存在たちの…意識とサバイバル本能と…愛欲と情報と…
そういったスペースの様々な交通と物流の象徴であり中枢が、結局はこの、惑星ゼイルトラックであり、その一任が…シェリフル一族つまりが、現・T.S.シェリフル…というわけである。
ところでその過酷さ苛烈さを宇宙の世に誇る惑星ゼイルトラックであるが、あらゆる方角より宇宙より放射状に集められた太陽の…太陽風や太陽放射などの太陽による影響と…
なぜかしらおびき寄せられた隕石の散乱と…
星間ガスに由来する土砂降りの雨にさらされている。
そしてそれは、異常に高い防御力によって弾かれている。
そして運。
通常ならば死滅の王国とさえいえるこの死の惑星も、スペースにおける『受け身』を体現し続けるこの一族にとっては逆に都合が良かった。
基本、職務におけるシンプルで頻度の僅少に過ぎないボタン操作以外には、基本的に動くことを良しとしない一族のスタイルと、その伝統にハッキリ顕われているではないか…
よって植物が太陽光をもとめ移動している距離や動力より遥かに不動であった。
それほどに、シェリフル一族と現・T.S.シェリフル
にとって、移動という手段は不要である。
それは哲学的な深い領域ですら。
そして並んで、それほどに、死と苛烈の惑星ゼイルトラックには…絶えることなく何かしらの危険物…裏を返せば栄養物が…常に降り注いだ。
さて。
宇宙には、通常のコスモスに固定された秩序にはありえないイレギュラーな事故や事件が意想外に溢れているものだ。
そしてそれは概して…まるで怪我の癖みたいに…
ほぼ一か所に向けて…
局所的に集中する場合が…意外なくらいに多々あるのだ。興味深い事実である。
このような具合で、交通と物流の象徴『交通の心臓』は…
…スペースにおける『受け身』の体現者、シェリフル一族と現・T.S.シェリフルによって維持されていることが…証明されてしまった…
逆説的であるが…しかし、宇宙の事故…つまりコスモス以外のイレギュラーな交錯などは、そう起こりうる出来事ではないというのが一番正しい。
その上で、『死滅の王国』であり、『宇宙の滑走路』である、ということを想起すればよい。
その頻度。
それが『受け身』の体現者、シェリフル一族と現・T.S.シェリフルにとって、その生涯を淀みなく遂せるまで、絶妙のバランスと共生関係を固く結んだ状態、という結論。
そう落とし込められる事が、結果的にはこのスペースの常識のもはや一面となっている。
宇宙には単純には、銀河のフィラメントとボイドがある。
宇宙の都心と過疎地である、とひとことで言い終えたとしても、それはなによりの真実である。
一方、宇宙の平和と狂騒…
これも案外二分されている。
よってその代表的一角が、『心臓』惑星ゼイルトラックであり、その『血液』を淀みなく操作する『弁』こそ、シェリフル一族と現・T.S.シェリフル。
よって、非情に興味深いことに…
宇宙にとって、最もダイナミックでスリリングな体験やアクションシーンは、かくある受け身な日常業務によって、宇宙のいたるところで掌握されており…
つまりがコントロール不能と思われがちの驚異の宇宙エネルギッシュを!
まるで赤子の手を捻ることよろしく…
たったひとつの意識者のおざなりによって…
前置きが長くなった。
しかし語り過ぎてはいないだろう…
そのドラマを担うシェリフル一族の今回の主人公・T.S.シェリフル。
シェリフル族は、文字通り樹木みたいな『なり』をしている。
平たく言えば樹木型生命体である、といえよう。
しかし植物より、条件次第では動く『ポテンシャル』を秘めているし、またしかし、それをその生涯を閉じるまでに発動する機会を得ないままであった、ということも『シェリフルあるある』としては定番であった。
というわけで…
今回の主人公は…というと…
「!!!!!」
憐れなる受難者…
T.S.シェリフルが、T.S.シェリフルとしてのその生涯の、サイゴに発したひとことである。
ああ…
伝統にならって…平穏な日常をその生涯全体を捧げて、体現する筈だった『特性のない男』T.S.シェリフルが、あろうことか…T.S.シェリフルとして…つまり。『特性のない男』T.S.シェリフルとして生涯を綴じなかった…なんてことになるなんて……!!
「!!!!!」
断末魔、叫び。
一族のポテンシャルとして設計されてはいないかの…
運動性の限界値MAXを、T.S.シェリフルは覚醒して…
しかし…そうしたところで、運命から逃げ出すことは…
出来なかった!
・・・・・・
T.S.シェリフルはすなわち星となった…
それは…
一切の怠惰の跡形や兆候などなくて、ただ真摯に誠実に遂行し続けた任務の先に脹れあがった…
いわば…
インフレーションな非日常であった。
T.S.シェリフルは呼び寄せた。
核となり…続いて…この段にてようやく…重力の鎧を纏うこととなる……
それからは…一般的宇宙の、巨星の誕生の場面と何一つ変わるところはない…
ただ、徐々にその中心へと向かって衝突や衝突を繰り返し…渦を巻き引き寄せ引き寄せることで…ついには巨大な『球体』と成り果てる…
さて、巨大な天体は。
いかにも…巨星・T.S.シェリフルと名付けられ…宇宙中の世間に…生命体の天体として…噂され…恐れられ膨れ上がって…
…やがては都市伝説として……




