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SPACE PEACS  作者: 夢之ゆめぜっと
ジャンガリア・ルーズ
19/42

018 ジャンガリア・ルーズは即ち旅をする 改稿前

 コネクターを外しいつも思うのはこの幻想(物質)に、いつまでも包まれていたい…

 それは伝説の旅客機アリンコパルトにだって敵わない。


 ジャンガリア・ルーズは即ち旅をする。

 その権利を得るためにすべてを捨て、星を砕き、罪を引き寄せた。

 一つは生命体たちへの別離。

 もう一つはこれまでの忍従の日々という多大なる犠牲とストレスに耐え、耐えた…その報酬としての、たったひとつずつの、名誉と権利。宇宙管理センター移動部、重要ポスト、エリートパイロットという揺るぎない職務へのあらゆる権限と、情報のアクセス権…


 それらはあの、宇宙残虐権の宇宙史上空前と成り果てた横領スキャンダルとして不名誉に結晶し、間もなくかの巨星、インハルプンの今は空しき栄光を殴り捨て…つまりが星と歴史を瞬時にして砕け散らせた。


 彼は精神と…物質の両義において、見たこともないほどの余波を宇宙へと投下し、自殺を、ある種のパフォーマンスと化して…投げ放った……


 それらの結果、宇宙史きっての大罪人となったジャンガリア・ルーズは、自らの心より望んだその「生活」を手にする。


 皆は瞠目している。

 何故、あのような、羨むべきエリート街道を捨て、ともすれば地獄、ともすれば精神病棟たる…ディメンション牢獄へと向かわねばならなかったのか…


 しかし、ジャンガリアはいう。

 自由!と。


 すべてからの解放は、すべてからの脱却および、すべてに対する(この場合とある銀河系のみに及ぶ世界範囲ではあるが)崩壊を成し遂げることが出来なければ達成できないということを、彼は身をもって実証した、それ以外に整然としたロジックは何もなかった。


 彼は、皆よりも早い…


 否。

 彼に言わせるならば、宇宙は…空虚なほど遅い…

 それが彼のすべての生き様。


 さて、彼の日常を追ってみよう。

 朝、昼、晩。

 食事とともに配られるカプセル。

 向精神剤…それを飲むことで、かれら狂人のほんらい解放しているその人格のすべてを宇宙へ散らせ、風化させ、たった一つの道筋へと押しやってしまうそれは…狂人たちの終点であると皆は知っている…


 その透明なピルを…狂人のすべてが本能的に除外して、とめどなき不自由の暴力を受けずに済ましているのに対するジャンガリアの選択は、狂っていない存在者にすら…理解不能。

 むしろ、正常とされている意識者は、宇宙の存在者が、そんな択一的暗黒世界になど住んでいないことをすべからく諒解している。


 よって、狂人を含めたすべての健全なる意識態にとって、それは廃人。

 

 廃人A。

 彼はそう呼ばれ揶揄されたし、彼はそれを気にも留めていない。

 それどころか、宇宙の奥深くを疾走しているその理想郷「廃人A」を追って追って追い続けている……

 よって彼こそ、ガチの…狂人だ……


 彼は意志が反転している。

 青年期…ある時その兆候を示す。

 そして対極する彼の天才的な情報処理能力と手腕に流れゆく止め処なき宇宙の栄光街道を突き進んでいるあのとき、彼は逃れることの出来ない悪夢に覆われたその生涯を存在の底の底から恨んで、ずっと憔悴した。

 

 かつての医者はいう。

 恐らく彼は、宇宙の対極からやってきた。

 それはすべてが反転する世界。

 意識という意識が、こちらの世界とは全く異質で、全く正反対の秩序と道理でできた世界。

 彼は恐らくそこから降ってきたのだ…と。

 

 医者は当時一笑され、結末として集団リンチによって、考えられないほどの辱めと、暴行によって息を引き取ってしまったが、しかし、なんということであろうか。


 今では定説がひっくり返ってしまって、その医者は死後ブームを生み出して、若者のファッションのロゴにまでなってしまった。


 それが、現在の宇宙の成り行きである。

 

 とはいえ…宇宙はどう転ぶかなど何一つわからない不安定で変化ばかりに漲ったただただ移ろいゆくよりどころのない世界である…

 

 突然。


 もう一度話を戻すが…ジャンガリア・ルーズは、宇宙の悪の歴史に刻まれ程なく殿堂入りした……


 ある一部のクレイジーな一帯においては、彼の生き様および思想の…ありとあらゆるパターンを記録して、教科書に掲載され…子供たちの教育と道徳の道しるべと祭り上げられたが、しかしそれは余りにも過剰である。

 でも、彼の生き様は、肯定すべき点が数多くあって、その意味では彼は結局生きた道徳なのではなかったか?


 徐々に彼の理念が宇宙を吸い上げていく……

 

 彼は生き物即ち有機物を必要としない。

 それは自らの思考の妨げになるとすら言い放って…全宇宙よりの脱却をスローガンに、呼吸する事すら止め…脈打つことすら凍結させて…とうとう形而下より消え失せてしまった。


 透明な存在となった彼は、彼の別人格へととり憑いて、それを自らの世界へと引き込もうと画策して動いていたが、それはまったくの失敗だったと知ると、もう一度リセットして、やり直そうと行動を起こした…


 何度死に…何体転生したことか…


 理想は来ない。

 それでもあきらめない。

 その諦めの悪さゆえに、いくつ宇宙は過ちを犯したことだろう。

 いくつ宇宙は死滅のサイクルを描き続けるのだろう……


 獄中に手紙があった。

 拝啓。

 私は何度も挑戦し、すべては失敗に終わり、何度も死んだ。

 毎秒毎秒が私の死。

 私が「死」と思った瞬間、私よりサキに、不思議と宇宙が先に死んでいる。

 無論、宇宙が死ねば、私も死ぬ。

 私は宇宙に寄生しているから。


 挑戦は苦しい。

 死ぬほど苦しい。

 だから死ぬのだ。

 よく死にまた死ぬのだ。


 私はこれを、いま獄中で書いている。

 ピルを飲み、ほんの少しだけ意識の霧が晴れた場合にのみ、書いている。


 私はこれを、私の子孫…すなわち宇宙の隅々に向けて、後裔すべてに向けて…書いている。

 書けているときだけ、書いているときだけ、すこしだけ、私は、生きる。


 死を…

 生きる。


 私はかつて飛行士だった。

 皆は羨望の眼差しを私に向け…その歯痒さからか私はその居住を…つまり、悪の歴史に刻まれてしまったように、ご存じのように…私は…、巨星インハルプン及び巨星インハルプンに居住する存在すべてをことごとくに…及び巨星インハルプンに居住する私を…無下に…

 抹殺した!!!!!!!!!!!!

 こころはころころかわる…

 

 私は…今も…変わっていない…


 宇宙に轟く通奏低音…


 それを、宇宙の平民たる気取りのない存在者の集まりたちは…

 「重力」。

 と呼びたがる。

 即ち認識することで安心しようとする。


 が、それは間違いだった。


 大昔に…噂を聞いたことがある。

 宇宙に、ある商人がいる。

 彼は何かしらの報酬に固執してして、それを生業にしている。

 その固執が、困ったことに宇宙を破壊へと導くのだ。

 しかしある宇宙にとって、それは処方箋であることもあるのだという。

 つまりが、相性と相性にまつわり…始まっていく、『一か、八か』なのだという。

 私はその噂を信じている。

 そして、私にとってそれが有益なのであれば…是非とも彼に遭遇し、それを確かめてみたいと思っているのだ。


 その商人は、もうひとつの噂によると…もう、すでに死んでいるらしい…


 彼は、とある惑星だか衛星だかに…見事に嵌められて…報酬の代わりに…彼は…自らの死を持たねばならなかったのだという…


 いずれにしても…宇宙のダイナミズムが…一般知識として謳われているような…そういった大々的なものではなく…もっと卑小な…例えば宇宙に散乱する…あの抜け道のない宇宙の日雇い労働者の、望まざる強制不易労働…

 あるいは、宇宙と宇宙の賭博場に起こった、悪辣なるイカサマ師…

 あるいは…産まれたときから仕込まれた…心臓に備え付けられた決して手術などでは摘出できない時限爆弾…

 あるいは…宇宙を平面と見立てて…決して逃れることの出来ない存在そのすべてを溶かす降り注ぐその酸性雨…

 あるいは…電燈に吸い寄せられたウスバカゲロウ……


 ループする。

 リセットの朝。

 わたしは気付かないふりをして…新鮮なリアクションで芝居の人生を、ここから始める…


 そうすることでしか…わたしいきることができないと…知っているから…


 そう…枕もとで…神が告げたことを…承知しているから…


 そう…芝居をしているちに…周囲に群がった共生関係は…潤っていく事を、本能的に知っているから…


 溜息…

 しかし、そうすることでしか生きられないのなら…


 だからわたしはここにすてられたのだ。


 宇宙の極地から擲げ棄てられた汚い未知の生命体の畸形な胎児だから。


 そこに…


 死を生きる、ということを投げ入れてみてはいけないだろうか?

 ゴミ袋で蠢く…不慮に混入してしまった害虫の孤独。


 そこに…


 共鳴してはみないか…


 そういうヴィジョンを…わたしは生きながらにいまもなお現前と…このうちゅうに透かしている…


 そこに発生するのは…強制か…それとも…

 …報酬への固執なのか……?

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