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 朝目が覚めると、息子に小さなプレートが付いていた。


 勿論ここで言う息子とは、一親等のことではない。男の股間にある、高らかな勲章のことである。

 儚くもどこか愛らしいその息子に、昨晩までになかった違和感を覚えた僕は、早速半裸になって下半身を観察した。


 そして目にしたのが前述したとおり、息子に付いた小さな銀色のプレートである。

 親指の爪ほどの大きさで、表面には見たこともない紋様が刻まれていた。


 剥がそうと試みるも、まるで生まれ落ちたときからそこにあったかのように、付いて離れなかった。

 どうしようかと少し考えたのち、スマートフォンで写真を撮ってみた。それを手早くSNSに上げる。

 皆に共有し、あわよくば人気者になれるかもしれないと、そう思ったからだった。僕らはそういう世代なのだ。


 しかし待てど暮らせど、バズりもカスりもしなかった。むしろフォロワーが減ったまである。

 せめてモザイクをかけるべきだったかと猛省し、次は加工した状態で、某大手掲示板に写真を上げた。


 この光当たらぬアンダーグラウンドでなら、何かしらの色いい反応を期待できると考えたからだった。

 しかし、現実は厳しかった。わずかについたレスを見る。


『短小包茎乙www』


 僕は直ぐにブラウザを閉じた。


 不愉快な気分を払拭させるため、寝起きのおかずをインターネットの海で探すことにした。

 勿論ここで言うおかずとは、食べ物のことではない。言わずもがな、分かって頂きたく思う。


 ネットは広大だわと、とある偉人が言った。その言葉は正しくて、すぐに好みのおかずは見つかった。


 本気を出せばでかいのだぞと、剥けるのだぞと、先ほどのレスを断じて気にしていないが、そう呟きながら臨戦態勢を整える。

 そして昂る気分を開放しながら服を脱ぎ生まれたときの、ありのままの姿になったとき、僕は二つ目の異変に気が付いた。


 そこに、あるべきものが、なかったのである。


 先に写真を撮ったとき、確かにあそこに存在していたラブリーキュートでチャーミングな僕の息子は、跡形もなく、あるべき場所から消え失せていた。


 まさか、僕は女になったのか。


 妙な考えが頭をよぎるが、そうでないことを察したのは直ぐだった。

 僕の息子は消えたわけではない。あそこに、付いていないだけなのである。


 高揚に応えるようスタンドアップしている感覚は間違いなくあった。ただ見えず、触れることができないだけなのだ。


 では僕の息子はどこにいったのか。思考を深める前に、僕は三つ目の異変に気が付いた。


 足元に影が増えている。ゆらゆらと、部屋の蛍光灯に照らされた、自分以外の物の影。その影は長細く、そして鋭利だった。


 一体これはなにか。正体を暴くべく、顔を上げた僕の目の前にそれはあった。


 美しい鞘に収まった剣が、一振りあったのだ。


 それは明らかに刀でない、西洋の騎士が持つような剣で、まるで水に浮かぶようにふわふわと空中を漂っている。

 鞘は瞬くような白金で、見るものすべてを浄化するお天道様のように思えた。

 僕は消えた股間もとい息子のことも忘れて、ただただそれを見つめていた。


 一体どれほどの時間、剣と鞘を眺めていたのだろう。

 それが消えるまで、僕は金縛りもしくはエレクションしたかのように固まっていた。

 我に返り、まず目を疑った。幻を見ていたのだろうか。


 消えた剣が浮いていた場所へと手を伸ばすが、虚しく空を掴む。そこにはもうなにも存在しなかった。

 なぜ見えていた時に触れ確かめなかったのかと、後悔するが先には立たない。半ば幻だったのだと決めつけ、そこでやっと家出している息子のことを思い出した。


 確認するため、視線を落とす。そして下半身を注視すると、花も恥じらう僕の息子が、股間の鞘にしっかりと収まっていた。


 散らばった思考を拾い集め、僕はベッドに寝ころび考えた。


 息子に付いているプレートは一体何か。

 どうして息子は消えたのか。そして舞い戻ったのか。

 先ほどの剣は一体何だったのだろうか。幻だったのだろうか。

 なぜ僕は未だに童貞なのだろうか。


 答えのない思考の迷路に入り込み、堂々巡りに陥るのは言わずもがなであった。

 幾ばくかの時間が過ぎ、胃が空腹の悲鳴を上げたところで時計を見やると、すでに正午を回っていた。


 朝食を取らず熟考していたことに呆れ、胃の中を埋めるため、下宿の近所にあるカフェへと足を運ぶことに決める。

 そして玄関を開き、僅かばかり寒さの残る晴天の元へと、歩みを進めた。

 尚、全裸になっていたことに気がついたのは、交番が眼前に迫った時だった。


 勿論のこと、僕は胸と股間を張って堂々と交番の前を通り過ぎる。


「お勤めご苦労さまです」


「あぁ、どうも」


 我が物顔して通り過ぎただけでは飽き足らない。僕は警官と、笑顔で挨拶さえ交わした。

 警官は今日も寒いねと言ったあと、目を丸くして僕を二度見した。


「どうかしましたか。顔に何かついていますか」


 怪訝そうな警官に臆すること無く僕は立ち止まり、なおかつ息子を上下左右に揺らしながら、彼の様子を伺った。


「ちょっと君、服はどうした!」


 警官は激怒した。必ず、かの露出狂変態を捕まえなければならぬと決意した、ような表情をした。

 刹那、言うが早いか、僕は駆け出した。


 理解していないわけでは決してなかったのだ。エデンの園では許されてもこの国では、驚くなかれ全裸は違法なのである。

 だが、法律よりも大切なことがあった。それこそ何者にも縛られない、僕のアイデンティティとリビドーであった。


 走れ、エロス。迸れ、パトス。僕はここで捕まるわけには行かぬ。やり残したことは、割とあるのだ。


 都会の雑踏と追いすがる警官たち。それらを置き去りに駆け抜け、気が付けば僕は、風そのものとなっていた。

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