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4話 アルヴェリア

 息が苦しい、足が痛い。

 もう5分ほど走ったのだろうか?

 セリスが風魔法で鋼蟻(アント)たちを払い、その前を俺が走る。

 「ソーリ、あと少しで森を抜けられる頑張って!」

 「あぁ……!」


 視界の先に、木々の切れ目が見えた。

 出口――!

 森から抜け、視界が開けた。

 その瞬間だった。


 ――カサ……


 背後の音がぴたりと止む。

 「……なんで?」

 荒い息のまま呟いた。

 「セリス待って!」

 この状況は普通なのか?

 そこには見えない透明の壁があるかのように、鋼蟻(アント)たちが森から出てくることはなかった。


 「どういうこと?」

 次々に鋼蟻(アント)たちは森へと引き返している。

 「何が起こってるんだろう……」

 「私にもわからない」

 どうやらセリスにもわからないらしい。

 本来、魔物が距離を取ったわけでもないのに離れていくことは無いのだそう。

 

 「取り敢えず、アルセナ魔学院に向かおう」

 アントたちの脅威は去り、目的通りアルセナ魔学院を再び目指すことになった。

 「もう夕方になっちゃったね。このまま魔学院に向かっても着くのは夜中になっちゃう。

  今日は一旦どこかに泊まろうか」

 「宿は近くにあるの?」


 少し考えるようにして、セリスが続ける。

 「この近くにはね、アルヴェリア家と関わりのある宿があるの」

 「関わりのある?」

 「私が生まれるずっと前から代々お世話になってるところ。今夜行ってみても融通が利くはず」

 そう言ってセリスは、フィリアの森に背を向けて歩き出した。


 フィリアの森とアルディアの間に存在する緩衝地帯を歩いているとき、目に映ったのはどこか見慣れたような夕暮れ時の景色だった。

 「うわ……凄い綺麗だな」

 「アルディアは昼夜問わず、多くの人が出入りして、活動してるからね。

  暗くなっても、街を照らす光でこんなに綺麗になるんだよ」

 

元々いた世界ほどではないが、日が落ちて暗くなった空の下、街全体を照らすその灯りはとても綺麗で、創理とセリスの心も明るく照らしているようだった。

 「やっとアルディアに入れるね。

  入ったらすぐに宿が見えてくるから、あと少し頑張ろう」





 アルディアの門をくぐった瞬間、空気が変わった。

 人の声。灯り。行き交う足音。

 さっきまでの森が噓かのようだった。


 ……なのに。

 すれ違う人々の視線がわずかにこちらへ向く。

 そして、すぐ逸らされる。

 「……ねぇ、セリス」

 「どうしたの?ソーリ」

 「なんか……変じゃなかった?」

 明らかに周りの視線や態度がおかしい。

 「……気のせいだよ」

 セリスは静かに呟き、歩き続けた。





 「ここだよ」

 セリスが指を指した先には、落ち着いた雰囲気の宿があった。

 木造の外観に暖かな灯りが漏れている。

 セリスが迷うことなく扉を開け、創理も続いて中へ入った。


 「いらっしゃ――」

 奥から顔をのぞかせた老人は、セリスの姿を見て言葉を止めた。

 「お久しぶりです、セリス様」

 セリス――様?

 「久しぶり、元気そうで何よりだわ」

 セリスが慣れたように返事をした。


 びっくりだ。もしかしてセリスって上流階級のお嬢様だったりするのか?

 融通が利くってのはこういう事だっのか。


 店主の視線が一瞬、俺に向けられた。

 その視線はあまり良いものではなかったと思う。

 「セリス様、そちらのお方は?」

 やはり警戒されているらしい。

 「こちらはソーリ、私の友達」

 「そうでしたか、セリス様のご友人とあれば、大歓迎でございます。

  本日はご宿泊をされるということでよろしいですか?」

 「そうなだけど……部屋は空いてる?」

 「ええ、こちらへどうぞ」

 そう言って、受付の奥へと案内された。





 通された部屋は、思っていたよりも広く、落ち着いた雰囲気だった。

 木の香りが漂い、短くも危険と隣り合わせだった旅の疲れを少しだけ和らげてくれる。


 「ふぅ……」

 勝手に息が漏れる。

 「ソーリお疲れ様」

 セリスが優しく微笑んでいた。


 やっぱり、セリスは美人だよな。これならどこかのお嬢様と言われてもわかる気がする。

 「セリス……なんか周りの人たちおかしくない?」

 ここへ来るまで、すれ違った町の人々の視線。店主の態度。

 やっぱり何か引っかかる。

 「気のせい、じゃないよね」

 セリスは少しだけ黙り込んだ。


 「……うん」

 「さっきはごめんね。誤魔化してた」

 「何から話せば良いのかな……」

 困ったように笑うセリスを見て、少し胸が苦しい。


 「まずは今まですれ違った町の人について話すね」

 「アルヴェリア家は……あまり良く思われてないの」

 「なんで……?」

 「この世界では、各々が”五柱の神”を信仰してるのは知ってるよね?」

 「ああ」


 火神、水神、風神、雷神、土神の五柱のいずれかを進行しているんだったよな。

 確か信仰によって、加護を授かると信じられている。

 「でもね――」

 少し気まずそうにして続けた。


 「アルヴェリア家は、五神の誰も信仰してないの」

 「……は?」

 思わず間の抜けた声が出た。 


 そんなことってあり得るのか?

 「それなのに、うちは代々風魔法を得意としてる」

 さらに意味がわからない。

 「いや、それおかしいんじゃ……」

 「うん。だからアルヴェリア家を知る人には、気味が悪いって言われてる」


 「それともう1つ……理由があるの」

 さっきまでとは違う、少し重い空気が流れる。

 「昔、アルヴェリア家の先祖が、アルディアの人々を助けたって言われてる」

 「助けたって……その何が問題なんだ?」


 むしろ良い話に聞こえる。

 神を信仰しないことも帳消しになりそうだが。

 「普通ならね」

 小さく苦笑している。

 何か問題でもあるのだろうか?

 「その”誰か”が問題だったみたい」

 「誰なの?」

 思わず聞き返した。


 「……詳しくは、私も知らない」

 「ただ、その時に助けられた一部の人たちは、今でもアルヴェリア家と繋がりがあるの」

 「繋がり?」

 セリスの表情が少し晴れたように感じる。

 「この宿も、その一つ」

 言われてさっきの店主の態度を思い出した。

 セリスに対してあまりにも丁寧な対応。

 「だからか……」

 「うん。私に良くしてくれる人もいる」


 少し安心した。セリスの立場はかなり複雑で、辛かっただろう。

 「でも――関わらない方が良いって思ってる人の方が多い……」

 「……だからソーリ、私と一緒に――」

 それ以上、セリスに言わせてはいけない気がした。

 どんな理由や過去があれど、俺の恩人であることに変わりは無いしな!

 「よくわかんないけど、面倒な家なんだな」

 「否定はしないかな」

 また困ったように笑っている。

 俺は何故か怒りのようなものを感じていた。


 「家がどうとか、昔がどうとか、俺には関係ないでしょ?」

 「俺が知ってるのは、倒れてたところを助けてくれたセリスだけだしね」

 一瞬、沈黙が生まれた。


 カッコつけすぎたか?それともまずいこと言った?

 「ソーリ、変わってるって言われない?」

 セリスの瞳には涙が浮かび、今までで一番綺麗な笑顔が見えた。



 「この話はお終い! 明日に備えて寝た方がよいよね!」

 「そうだね、今日は色々ありすぎて疲れちゃった」

 眠たそうにあくびをしている。

 「沢山のことを教えてくれてありがとな。

  おやすみなさいセリス」

 「おやすみ」





 ベッドに身体を預ける。

 柔らかい感触に、張り詰めていた力や緊張が一気に緩んだ。


 森での出来事。

 アルヴェリア家の過去。

 やっぱわけわかんねぇ。

 けど、それでも――セリスの顔を思い出すと、なんだかほっとけない。


 (……まぁ、なんとかなるか)

 意識が、ゆっくりと沈んでいく。

 ――そのまま深い眠りに落ちた。

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アルヴェリア家、なかなか深いですね……! 誰も信仰していないのに風魔法が使えるのが気になりました。どんな秘密があるのか。何者かも含め今後気になる部分です……! それにたいする創理の返し、等身大で好きで…
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