白夜の街 3
図書館が閉まった後も要たちは場所をファミレスに移し、課題の写しを続けていた。
合流したユキも一緒だ。
要が写す分はあと30ページほどの問題集が一冊。
なんとか今日中に終わりそうである。
意外だったのがユキで、課題を半分以上残した状態だった。
普段は真面目に宿題等をこなしているイメージなのだが。
「夏休みはギルドでミッションもあったり夏コミもあったり夏コミに出す新作の仕上げもあったりしたから・・・」
何故か後半はボソボソと言うのでよく聞き取れなかったが、なにやら忙しかったのだけはわかった。
そういえばユキは[セブンズヘブン]の中で結構な有名ギルドの一つに所属していた。
200人からなる戦闘系の大手ギルドで、その中でもユキは幹部クラスだと聞いたことがある。
「ギルドってのも大変なんだな」
「え?う・・・うん。そうなの。大変なの」
何故か微妙に挙動不審な動きをしているが、まあゲーム内といっても人が集まれば人間関係だって発生するわけで、イロイロあるのだろうか。
「必要な分は全部貸しとくから、始業式の日にでも返してくれ」
「ホント?ありがとう。すごく助かる」
「やっさしーっ、要君!」
「おまえは黙って写してろ」
なにさ、と言って頬を膨らます汐音。
それを見てクスクスと笑うユキ。
それにしても二人ともさっきから手が止まりがちだ。
疲れてもきているし、飽きてもきているのだろう。
少し休憩した方が良いか。
「なあ」
いったん休憩して何か食べるか?
そう言おうとして、
「なんだ?」
突然店内に鳴り響いたけたたましい電子音に顔を上げた。
周囲のテーブルも皆何事かと辺りを見回している。
「警報か?近くで何かあったのかな」
一人図書館で借りてきた小説を読んでいた淳が立ち上がる。
「外みたいだな。ちょっと見てくるよ」
「あぶないんじゃない?」
「大丈夫。ドアから覗くだけだから。それに俺の異能知ってるだろ?」
淳の異能はいわゆるバリア。
自身の周囲に透明の風船のような空気の膜を纏うというものだ。
さすがに弾丸や爆発を防ぐのは厳しいだろうが、以前バイクで事故って車に跳ねられても打ち身と擦り傷程度だった。
要たちが異能と呼ばれる能力を手に入れたのは5年ほど前のこと。世界中で原因不明の高熱が広まったのが始まりだ。
年齢によって発症率が異常なほどに異なるそれは、30代以下の人間、とくに20代以下の発症率が9割を超えた。
40度近い高熱が数日続き、熱が引いたらなにもなかったように元気になる。高熱が出るわりには致死率も低くほとんど死者は出なかったらしい。
世間が異変に気付いたのはそのすぐ後。
要を含む熱に倒れた人間全てがいわゆる超能力とでも言うべき力を手に入れていた。
誰に教わるでもなく呼吸をするように自然に分かり使える様々な異能の力。
今では要たちの世代なら皆当たり前に一つは持っているものだ。
淳はすたすたと歩いて行き、入口を出ていった。
女子二人は心配そうに淳が出ていったドアを見つめているが、要はあまり心配はしていない。
淳のことだから何かあっても無理はしないだろうし、だいいちこと店は一階は駐車場で店舗が駐車場のは外階段を上がった二階。
階段の上から伺うだけなら危険もないだろう。
「大丈夫だよ。そこまで近くないから」
ほら、と二人を窓側を指差す。
要たちが座っているのは店の奥まった場所で窓からは少し離れていた。
窓際に並んだテーブルの客たちは腰を浮かせて外を覗きこんでいるが、首を伸ばして少し離れた場所を伺っているようすだ。
「うん。・・・あ、戻ってきた」
安堵した汐音の声に要も入口に目を向ける。
同じように外を確認してたのだろう一人の店員と二言三言会話してこちらに戻ってくる。
「人獣系の能力者が近くで暴れてたみたいだ。けどもう警察も来てたみたいだから大丈夫。すぐ収まるよ」
ただ騒ぎが収まるまでしばらくは店にいたほうがいいだろうね、と続ける淳に、
「どのみちまだいるよう!まだ全然残ってるもん」
警報も収まって安心したのか、言ってまた机にかじりつく汐音。
「どうせおまえは今日中にはぜってー終わんねぇだろうが」
「うぅ、そうだけどー!」
「でも一人でやるより皆がいてくれた方がはかどるのは確かだから、できれば私ももう少しお願いしたいな」
「ああ、俺は全然まだ大丈夫。どうせ家に帰ってもエアコン壊れてて激暑だし」
「むむむ、なんか全然態度が違うんですけど。ってかこの暑いのにエアコン壊れてるって最悪じゃん」
「まあ、明日の午前中には修理が来るから。今夜はまた扇風機で我慢するよ」
飲んでいたコーラを飲み干しストローでからからとグラスの中の氷をかき混ぜる。
「ところで」
と要は騒ぎで中断していた提案をあらためて口にした。
「いったん休憩してなんか食べないか?」




