6・会話ばっかりで討伐(皆様の想像力に期待っ)
確かに魔物多発地帯ではあるが、少なくともこの強さの個体はそう現れない。
もっとビシッとキッチリカッチリ統率力のある、騎士団が相手にするような魔物だ。
「無駄に強いよ、コレっ」
「生命力あり過ぎコレっ」
「……死ねる」
「生 き ろ」
「魔法石ばんばん消費して、治癒量いつもの2倍で頼む~っ!」
「今、使わずにいつ使うっ!」
「おいおい、コレ。位置移動してるぞ?」
「ちゃんと囲めているようで、囲めてないっぽい??」
陣営さえまともに作れない、愉快な騎士団が相手にする様な魔物ではないはずだ。
そんな無茶な対象を取り囲んでいるはずなのに、悲壮感は全くない。
「すみませ~ん。足止めが効~たら、20カウント後に一斉放射入りま~す」
そんな空気にトドメを刺す様に、魔術班長からの魔法の声が届く。
「あの人の声、いっつもやる気ねぇなぁ」
「気ぃ抜けるなぁ」
「そう言うな、実力は確かなんだ」
「むしろ全力で、一旦退避~~~っ!」
足止めは成功している。
足は止まっているが、足から上は激しく動いている。
的が動いているからか、いや、ただの鍛錬不足かもしれない。
降り注いで来る攻撃魔法が、ハチャメチャに飛び交っている。
「ま、マジで死ぬぅ」
「心を強く持て。精神力だ」
「退避終了っ。コレは弱ってるぞ、今だやれ~~~っ!」
「うお~~~わ~~……、わぁあああ???」
確かに一斉放射でダメージは受けたのだろう。
だが怒り狂って、かえって手に負えなくなっているのは気のせいだろうか……。
「あ~、もっかいですかね~?」
いかにも面倒臭いと、次の行動に移らないままっぽい魔法班長に業を煮やし、なぜか他班に細かく指示を出す武隊班。
「瞑想して、魔力回復っ」
「魔法石、舐め舐め~」
「攻撃魔法詠唱、全力でぶつけられる様に貯めてくれぇ」
「治癒隊まだいけるか? いけて下さい、お願いします!」
「待てや、こらぁあ。とにかく後衛班の方へは行かせるな~」
「やべ~、惹き付けろ~~」
「だ~れ~か~、最終奥義頼む~っ」
「一撃でど~~~んっと、殺ってくれちゃってOKっ!」
ついでに現実逃避も入ったりして。
「口動かしてないで、いつもの10倍、手を動かせっ」
「無理で~っす」
「せめて、あいつの状態になれっ」
「戦闘狂じゃないから、無理っす」
ん? あいつって私の事か?
最近はむしろ、キアテウ狂なのだが……。
「やっぱ、最終奥義でっ!」
「話が戻ったッ」
こんな状態でコレを倒した事は、奇跡といっても過言ではない、と述べておこう。
コレ倒しましたの報告と、戦利品の数々運搬責任者は……こんな愉快な団なんか嫌だ、手柄を立てて上へ登るぜ~っ! という志を持つ者に決定。
もし無事に帰って来たら、栄転出来ず残念でした会が催される事だろう。
「キアテウは立候補もしなかったな」
意気揚々旅立つ者を、しっかり見送ったキアテウに、私は尋ねた。
もちろんこの団から、キアテウが出て行ってしまうのは嫌だ。
けれど正直こんな団よりも、キッチリ統制のとれた団の方が、キアテウの肌には合っていると思う。
「……。……大きな1つを潰すより、数多くを屠りたい」
返事はすぐに返って来なくて、特に昇進を考えていないのか、それとも他に立候補者がいるのだから、その座を争うのは良しとせず譲ったとか。
そんなところだろうと思った矢先の、キアテウからの答えだった。
「それなら私はかなり役立てると思うよ、愛しい人」
キアテウの側にいられるなら、魔物を倒す為に利用されるだけだっていいのだ。
武勲を上げる我が家に対する、羨望とやっかみもあって、金の色の逸話は暗黙の了解。
たぶん、キアテウも知っているはずだ。
狂気に走られてはたまらないと、真面目なキアテウは決定的な拒絶を、口にしないのかも知れない。
そんな風に思う事もある。
旅立ちという別れの場にいたせいか、ついうっかり感傷的になってしまった。
するとキアテウに、ため息を吐かれる。
「あのなぁ、ユエマエル。いつも通り、キザったらしく、へらへらして言え。言葉と表情が合ってないだろ」
「……へらへら」
キザは認めてもいいが、いつだって真剣なのにと地味に傷付いた。
「もし、その金色がなければ、ユエマエルも上に登りたかったか? この前気付いたけど、髪だけじゃなくて目にも金が混ざってるんだな」
「え……?」
この前とは、たぶんあの噎せた時だろう。
発情期に入って華やかに色が変わる生物の様に、髪の金の色がキラキラしくなっていっている事は気付いていた。
でも目は、目もかっ!
どれだけキアテウが好きなのだ、自分。
照れながらも、どうしてキアテウが今この話題を出したのかが不思議だった。
感傷からは完全に気が逸れたから、それを狙ったのかとも思ったが、キアテウからさらっと爆弾を投下された。
「その金色、悪くないぞ。綺麗だ」
「!!」
どうもキアテウは私が金の色のせいで、昇進が望めないと、落ち込むか何かしていると捉えているらしい。
その勘違いから、この言葉になったのだろうが、もう一気に感情が好転した。
「顔付き変わり過ぎだろうっ」
「嬉しいっ、凄く嬉しいよっ! キアテウ、私もキアテウが好きだ!!」
「金色が、だ。ユエマエルが、とは言っていないッ!」
「ふふふっ」
なぜなら金の色を持って生まれさえしなければと、酷く思い悩む時期はもう過ぎてしまっている。
達観とまではいかないが、金の色を持つのが自分だと受容はしていた。
その思考はキアテウの言葉で、新たな境地に至った。
金の色イコール私自身、だとっ!
つまり……キアテウが、私を、好きだ、と言ってくれたに等しい!!
思いっ切り言葉を区切って噛み締めて、へらへら~っとなる。
これは確かに、へらへらだ。
よく見てくれているのだなと思って、自然とデレデレ~っに移行した。