86話 「心の支え」
ホールディングスの正門で緊張が高まっていた。
ユーランシー内にいる騎士団兵全員をすぐに集め、道を作るように綺麗に並んでいる。
その列の中には聖者も守恵者も立っていた。
騎士団兵によって作られた道の真ん中を胸を張りながら険しい顔つきで歩くアダル王。
その険しさは決して憤怒している訳ではなく、別のなにか理由があるのだと分かるような雰囲気をしていた。
だからといってその場の緊張感の高さが変わる訳ではなかった。
それは普段冷静であるディシでもそうだった。
なぜいきなりユーランシーに来たのか…どういう目的で来たのか
そればかりを考えながらも目の前にアダル王が到着した際には歓迎の言葉をかける。
「お久しぶりでございます。アダル王。
突然の訪問にてこのような出迎えであることをお詫び申し上げます」
「気にするな。連絡もなくいきなり来たのは俺の方だ。」
アダル王はディシに手のひらを軽く上げながら そちらは悪くない と言わんばかりの合図を送る。
その姿勢を見たディシは先程よりも緊張と警戒を弛めた。
「ひとまず中までご案内致します。」
そう言いながらミリィノとアレルに目配せをしながら部屋の用意をするように合図する。
ディシはアダル王と会話をしながらホールディングスの中へと入っていく。
「なぜいきなり来た…そう思っているのだろ?」
「…はい。来たことに疑問は無いのですが、連絡もないとなりますとそれなりに緊急なことなのかと…」
「変な警戒をさせてしまったな。
だが、緊急ではない…という訳でもないんだ。」
「と言いますと?」
次に続く言葉にディシは耳を疑った。
いや、ディシだけではなく横並びで歩くディシとアダル王の後ろを続くミリィノとアレルも声を上げてしまう。
アダル王の口からはこう発せられた。
「オーレリア・アーケア王が何者かによって殺された」
「一体…どういうことですか?」
部屋の前に着くとミリィノとアレルが両開きのドアを開ける。
部屋の中は高級品ばかりであり、高貴な者に対しての接待室としてこの部屋は使われていた。
アダル王がソファに座るとディシもその対面に姿勢よく座る。
アレルはディシの座るソファの斜め後ろに立つ。
ディシはナルバンが逝ってからは騎士団長代理として動いていたため事実上はアレルやミリィノよりも立場は上だった。
ミリィノは飲み物を用意し始める。
「俺も詳しくは知らない。側近であるカナックによる国外の情報収集によって掴んだ情報だ。
だがこれはもう既に事実であることは確認済みだ。」
ディシの頭の中には既に犯人が思い浮かんでいた。
間違いないだろう…そう確信していた。
(天帝…クソっ、、)
「どのような状態で発見されたのですか?」
「…っ」
アダル王は言葉を詰まらせながらも淡々と話し始める。
「悲惨だった…手の指も足の指も切断され、その切られた指を口の中に詰め込まれて窒息して死んでいた。」
「っ!!」
会話上でも気持ち悪くなりそうな程に残酷でとても同じ生物がしたこととは思えなかった。
「犯人の目星は…」
「さっぱりだ。
ユーランシーに来たのはこの件について助言を求めたかったからという理由もある。」
ミリィノは二人の前に紅茶の入ったカップを置く。
アダル王はその紅茶を一口啜る。
「…美味いな」
「すみません…まだ分からないことが少々あるのですが」
「なんだ?」
「1つは、カルメラの件についての助言と仰っていましたが、アダル王自身がなぜカルメラで起きた件についての真相をつきとめたいのか。
2つ目は、結局のところのユーランシーに来た本当の目的…です。」
「カルメラの件は俺はカルメラの連中から頼まれたことだ。
国内の方は我々で探るから国外の手がかりを掴んで欲しいという願いを受けた。
俺は過去にカルメラに恩があるからそれを引き受けた。
そして、今回の件は以前お主たちが言っていたスクリムシリというものは一切として絡んでいないと俺は推測した。」
「!?…その御根拠は?」
「当然これは推察に過ぎないというのを理解した上で聞いてくれ。
お主たちほどのスクリムシリに対しての知識を持ち合わせている訳では無いからな。
現場の状況を俺はある程度聞かれた。
殺された現場はアーケア王の自室で中は大荒れだったようだ。
床にはアーケア王が使ったとされる剣が落ちており、床やら壁やらには戦闘をしたような痕跡があった。
その上で最終的にアーケア王は敗北し椅子に括り付けられて先程のように殺された。」
何となくアダル王の言いたいことが理解出来た気がした。
「つまり…アーケア王が少しの間戦闘を続けることが出来たという点から相手は人間である そう言った御考えですね?」
「そういう事だ。
アーケア王の部屋以外で誰かがいた痕跡も襲われたり目撃された情報も無かったようだ。
前に国王会議で言っていただろう?
スクリムシリは強さの段階が分かれており、強くなればなるほど知性がつく。
目撃情報などが無い場合は知性のあるスクリムシリでは無いと難しいと推察した。
だが、仮に知性のある”強め”のスクリムシリだったとしてアーケア王が少しの間戦闘を続けるというのは不可能では無いだろうか」
アダル王の意見は至極真っ当であり、俺もその考えに賛同だ。
だが、スクリムシリが違うとしたら誰になるのか…。
現場を直接見るのが1番手っ取り早いがカルメラは遠い。
やはりスタシアについでで頼むしかないのだろうか。
スタシアならば現場に残っているであろう天恵の気配も正確に探ることが出来るだろう。
(問題は外部からの情報の助言なのだが…)
「一通り考えてみましたがアーケア王程の剣を扱える御方に勝てる相手というのは目星がつきませんね。」
「俺もだ。やはりこの件は謎が多すぎるか。
…一つ思い出したのだがアーケア王が持っていた剣は剣身が溶けていたらしい。」
「溶けていた?」
(溶けていた…どういうことだ。
いや、それよりもそんな重要な情報を忘れていたというのはアダル王のような御方がするはずない。
だとしたらアダル王は俺たちを疑っている…。
いや、疑っていた か?)
「それ以外にも部屋の所々に溶けたような焦げ跡が見つかっている。
これが何なのかはよく分からないが仮にもしこれがお前たちの使っていた特殊能力かなんかなのだとしたら何か知っているのではないかと思ってな。」
恐らく特殊能力というのは 意思 のことを言っているのだろう。
だが、生憎として溶ける類の特殊能力を俺は知らなかった。
「そういえばあの小さい者は居ないのだな。」
「小さい者…あぁ、スタシアですね。
スタシアは国外に任務で出ています。
ちょうどカルメラに先程向かい始めたところです」
「そうだったか…それは謎の能力を持った剣のためか?」
「さすが、情報を掴んでいましたか。
その通りです。
その謎の剣を我々は調べる義務がありますので。」
「まぁ、それに関して深くは立ち入るつもりは無いから安心してくれ」
「感謝します。」
「それで…ここまで話して何か怪しい者などはいないか?」
「すみません…そのような者に心当たりはありません。
スクリムシリが絡んでいると言うならば話は別なのですが人間同士となるとあまり確証のあるお話は出来ないと思います。」
「そうか…恩があると言ってもやはり無理なものは無理という風に伝えるべきか。」
「…お考えのところ申し訳ありませんがもう一つのご要件というのをお聞きしても宜しいですか?」
ディシがアダル王に対してもう一つのユーランシーに来た目的について尋ねるとアダル王の雰囲気が変わった。
どこか悲しそうな心配をするような雰囲気になる。
「メアリー女王についてだ。
彼女が今、精神的な面で打ちのめされているというのは既に理解している。
その理由もだ。」
「…そうでしたか。
本当に…ザブレーサの情報収集力は恐れ多いものです。
メアリー女王は現在、自室でお休みになられております。
今日はスタシアの送り出しがあったためその際に外に出ました…他の日と比べてとても体調が優れている方ですね。」
「そうか…会うことは可能か?」
「…」
ディシ、アレル、ミリィノが一気に警戒心を高める。
たとえ他国の王だとしても弱っていたり体調が優れない時のメアリー女王に会わせることはさせない。
そういう風に守恵者内で決めていた。
警戒心を高める三人の様子を察したアダル王は言葉を続ける。
「お主達がそれを許したくないというのは重々承知の上でこの願いを聞いてくれないか…。
お主達も分かっているのだろう、
ユーランシーにはメアリー女王という優れた者の力が必要不可欠だということを。
そして今の俺もメアリー女王に力を貸してもらいたい。」
メアリー女王の頭脳は確かに必須だ。
同じくらい頭のキレるアビスが亡くなった現在、メアリー女王がユーランシーにもたらす影響力は以前までの倍近くになる。
だが、実父を失ったことによるショックは今でも癒える様子を見せない。
(それに…他の王と比べて多少仲の良い程度のアダル王が、
アビス師匠くらいの心を支えられるくらいの代わりになるとは考えずらい。
ここは断るのが賢明だ…だが、、、)
ディシは思い出していた。
国王会議や二国間会議などの際にメアリー女王とアダル王が会話をする様子を。
最低限の礼儀はあるがそれでもメアリー女王はまるで本当の友人を見つけたかのように冗談を言い合いながら曇りない笑顔を浮かべていたメアリー女王を。
(正直…俺たちではもうメアリー女王を立ち直らせることは不可能だ。
だったら賭けるしかないよな…)
「分かりました」
「「!?」」
「待て。ディシ…それは聞き逃すことの出来ない身勝手な許可だ。
たとえ相手がアダル王であってもメアリー女王が弱っている時に会わせるというのは信頼に欠ける。」
「アレルの言う通りです。
アダル王…失礼を承知で申し上げますが貴方様をここでメアリー女王に会わせるほどの信頼関係が我々には構築されていません。
申し訳ありませんが…」
「黙れ。」
ディシが一言…2人に向けて放つ。
「アダル王…ご無礼をお許しください。
メアリー女王にお伝えしてきますのでこの部屋で少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか」
「あぁ、わかった」
「来い、お前ら」
ディシは冷たい声でアレルとミリィノに言う。
三人は部屋を出てから、メアリー女王の部屋に向かって歩き始める。
先頭を歩くディシに対して二人は問い詰める。
「どういう事だ!今のメアリー女王にホールディングスの関係者以外の者を会わすというのは俺たちで決めた事を破るということだぞ?」
「ディシさんはメアリー女王に何かあった時に責任は取れるのですか!」
「メアリー女王に以前質問されたことがある。
人は信頼するために他者と話すのか…
信頼しているから他者と話すのか…
俺はその問いをずっと考えてきた。
そして俺は俺なりの答えを前にメアリー女王に伝えたんだ。
人は信頼をしたいから他者と話すんだって。
そしたらメアリー女王は 私もそう思います と同意してくれた。
人と人は支え合わなければいけない。
それを俺たち人間は本能的に理解している。
だから人は信頼したいから他者との関わりを捨てない。」
『これは…不確定なお話です。
ですからディシさんだけに伝えておきますね。
未来でいずれ、私がどうしようもなく打ちのめされてしまう出来事が起きてしまう…そんな時に私に来客が来ました。
ディシさんは来客者を私に会わせますか?』
その答えには俺は時間を有しなかった。
すぐに 会わせない と答えた。
その答えを聞いてメアリー女王はどこか悲しそうな笑顔を作りながら そうですか!良い応えが聞けて嬉しいです! と言った。
なぜあの時に聞き返さなかったのだろうか…
本当の答えはなんですか と。
きっと俺は自分で答えたものが正答であって欲しかったんだと思う。
『もしその時が来たらご自身で今出した答えを実行してくださいね!
私はディシさんの答えを尊重しますから』
『そのような事が来る場合があるのですか?』
『もしも の話ですからね!
仮にそんな時が来たら私にはきっと…』
(メアリー女王…今ならあの時のことを理解できます。
なぜ悲しそうな顔をしたのか、どのような答えが欲しかったのか。
ですが、俺にはその役目ができません。
ですからメアリー女王…俺が今まで見てきた中で貴女が二番目に心を許している御方にその役目を託します。)
メアリー女王の部屋の前に立つとドアをノックする。
「失礼します」
その一言だけを言ってドアを開ける。
『私にはきっと…一人の人間としてその態度を叱ってくれる人が必要ですから!』
「メアリー女王…あなたを叱ってくれる人をお連れ致しました。」
暗い部屋の中で死んだ上目遣いをしながらディシの方を見るメアリー女王。
以前までの様子は無いが、ディシは不思議と希望を見出していた。
読んで頂きありがとうございます!
投稿が大きく遅れてしまい申し訳ありません!
体調面で少々優れなかったため少しだけ時間を空けてしまいました。
なるべく体調を良い方向に治せるように頑張ります。




