111話 「復讐」
「空虚を殺すことです。」
ヨーセルのその言葉に、改めて最後の天帝の存在を認識する。
ユーランシーにとって何年も、何十年も、何百年も…
下手すれば何千年も因縁のある相手。
全ての災いには必ず空虚が絡んできた。
「ヨーセル。空虚を殺せばスクリムシリは消えるのか?」
「…消えないと思います。
ですが、私には考えがあります。」
「考え?」
「はい。ですがそれを今話すことは出来ません」
「なぜ?」
「必ず否定されるからです。
そもそも今の私では空虚に勝てるかどうか分かりません。」
「倒す目星はあるのか?」
「…無いです。そもそも空虚の意思の情報が私達には少なすぎます。
唯一分かる空虚の能力がサイナスのみ。
そしてそのサイナスすらも恐らくもう使えることが出来ない。」
「なぜそう言い切れる?」
「アダル王…あなたはご趣味などはありますか?」
「運動で言うならば剣術に関して、一日も鍛錬を欠かしたことは無いが」
「それでしたらある日突然、誰にも負けないくらいの剣の才能を手に入れられるってなった場合、
即決で受け入れますか?」
「いや、、そんな怪しすぎるものに即決などは出来ないな」
「そういうことです。
強大すぎる力には何かしらの代償が必要なのです。
オロビアヌスで空虚はサイナスを使い、ナルバン団長を抵抗させる間もなく殺した。
サイナスの効果は恐らく範囲内にいる生命体の死。
これ程強力な力が何度も使えるわけが無いんです。
一度きりのみ、もしくは次使えるまでに莫大な時間を有する。
だから空虚はもうサイナスを使ってくることは無い。」
「話は分かった。
空虚の能力に関しても不確定なのは承知だが、何も
策が無いわけじゃないんだろう?」
「はい。ディシさん、、この戦い、私と一緒に戦ってくれませんか?」
ヨーセルは深く頭を下げる。
それに対してディシは驚いた顔をする。
「何言ってるんだヨーセル。」
「す、すみません、やっぱり…」
「俺が戦いに参加しないつもりだったのか?」
「え?」
「もしかして一人で戦わなければいけないと思っていたのか?」
「だ、だってっ!、…空虚との戦いは、重症なんかでは済まない…死ぬかもしれないんです。
そんな戦いに着いてきてって言うのは、死ぬ覚悟をしてって言ってるようなもので…」
「だからどうしたんだよ。
俺は騎士団であり守恵者だ。死ぬ覚悟なんてとっくの昔からしている。
それに俺は死ぬつもりなんて無い…まだまだやり残したことがあるからな。
必ず勝つぞ」
「っ!、はいっ!」
ディシは久しく見ていなかったヨーセルの喜ぶ顔に笑みをこぼす。
「二人ならば勝てる見込みは全然あります!
問題は…」
「いつ攻めてくるか…ですよね?」
「その通りです、メアリー女王。
空虚が今、この瞬間に攻めてくる可能性だってあります。
それがとても危うい…」
「安心しろ」
会議室の中央、中心が穴の空いている机のちょうど真ん中に黒い髪、赤い毛先を靡かせる少女が立っていた。
その少女が現れた瞬間、ディシ、レイ、メアリー女王、アダル王は全く動けなくなる。
汗が止まらず、本能的に動いたら殺されることを悟っている。
少女は手刀を作り出しメアリー女王の心臓目掛けて突き刺そうとする。
だがヨーセルが少女の腕を切り落とす。
少女は即座に後ろに下がり、切られた腕を見つめながら不気味に笑う。
傷口から亀裂が入っていき、破裂する。
だがそれもすぐに治癒を終える。
「流石だ、ヨーセル。お姉様。」
空虚の発言に全員が思考が止まる。
「誰のことを言っている。」
「貴女だよ、ヨーセル。あなたは私のお姉様なの」
「違う、デタラメこくな。お前みたいな化け物が妹を名乗るな」
「ふふっ、化け物はどっちかな、お姉様。
先程の攻撃、亀裂が広がっている最中に治癒を始めておかなければ致命傷になっていた。
そのような攻撃ができる貴女こそ化け物じゃないか?」
「一緒にするなよ。ここで攻めてきた事を後悔させてやる」
「まぁ、待て。
私がここに現れたのはヨーセル、貴女に会いに来たからだよ」
セルシャの顔には普段の何も興味が無い目ではなく、
子供のように…母を見る赤子のような輝いた目があった。
「私の目的はお姉様に会うことだ。
お姉様がこの世界でまた自由に生きられるためにずっとずっと人を殺してお姉様の器を探し続けてきた。
そして今、やっと目的が達成出来た。」
「…何が目的だ?」
「簡単な事だよ。ヨーセル、、私と来て。私とずっと…一生そばにいて。
それだけで良いの。」
「断る」
「そんなに照れなくても良いの。
私はお姉様を愛しているし、お姉様も私を愛しているのは知っている!
だから、私に身を委ねて」
「話が通じないな。
私はお前のことを殺したいくらいに憎んでいる。
大切なモノをことごとく奪っていったお前を私は許すことは無い」
「…なら約束しよう。
ヨーセル…三日後にこの国からユーランシー方向に五キロ離れた地点に来て。
もし来てくれるならばこれ以上人を殺さないと約束しよう。」
「誰がそんなことを信じれと?」
「そう…信じられないんだ。なら、」
セルシャは上半身の服を全て脱ぎ捨てたあと、自身の手を心臓部分に突き刺し、引っこ抜く。
その手には心臓があり、脈打っている。
「な、何故引っこ抜かれた心臓が動いて…」
セルシャは自らの心臓に天恵による制約を課す。
「これで嘘はつけないだろう?
もしヨーセルが来てさえすれば私はもう人間に手出しが出来ないんだ。
簡単な話だよ」
「無理だ。お前を信用などしていない。
その文字を心臓に刻んだからなんだと言うんだ」
「いえ…ヨーセルさん、、あれは本当に嘘がつくことができないです…。
天恵を使用した際の制約は本来、体に刻むことがほとんどです。
ですが心臓に刻むことによって命を懸けた縛りへと変わります。
そしてあの制約は紛れもない本物です…」
「アシュリエル・メアリー、お前はどうしようもなく何も出来ないゴミかと思っていたが知識だけはあるみたいだな。
その点は評価してやる。」
ディシが短剣を生成する。
「ディシさん、落ち着いてください…私は大丈夫ですから、ここは冷静に。」
「…分かった。三日後、、お前を殺してやる」
「ふふっ」
セルシャの体はみるみると薄くなっていき、最終的に霧のように消えていく。
「っ!はぁっ、はぁっ、、、なんなんだ…あいつは、」
「アダル王…大丈夫ですか…?
あれが空虚の意思です。
そして全ての元凶です」
「あの幼女が…?どういうことなんだ、、」
「メアリー女王、ひとまず今は解散にしましょう。
皆さん…予想以上に精神的負荷がかかっている可能性があります。
明日、また改めて話ましょう。」
「そうですね、私はアダル王を支えます。
レイさん、お手伝いしてもらってもよろしいですか?」
「は、はいっ、」
メアリー女王はアダル王に肩を貸し、レイはその二人を誘導する。
ヨーセルとディシは部屋に取り残された。
「ヨーセル…お姉様とはどういうことだ?」
「分かりません、、私は空虚を見たのすらも初めてです。
それに…空虚は私の攻撃をわざと喰らって喜んでいるように見えました。」
「わざと…?」
「はい、、ひとまず、私は三日後に奴と会います。
そして殺します。
ディシさん…一緒に来てくれます…か?」
「当たり前だ。ヨーセルを一人で行かせるつもりなんてない。」
「そ、うですか…あ、ありがとうございます…」
ヨーセルはディシから顔を背けながら言う。
その顔は少し火照っていた。
「それとヨーセル…頼みがある。」
「なんでしょうか?」
「一度…手合わせをしてくれないか?」
「手合わせ…ですか?」
「ヨーセルと空虚の戦いは恐らく…今までの意思者の戦いの中でも最高峰の戦いだ。
それを俺も事前に感じておきたい。
ダメか?」
「…わかりました。けど寸止めでもよろしいですか?
私の攻撃は先駆の意思によって意図せずに致命傷となる攻撃です。
下手すれば死にます」
「分かった。構わない。」
「それと、手合わせの前にメアリー女王と共に見送るべき人達がいます」
「そうだな。」
ヨーセルとディシは部屋を出て、メアリー女王の元に行く。
ちょうどメアリー女王がアダル王の部屋から出てきたところだった。
「メアリー女王」
ディシが声をかけるとビクッと驚きながら何か慌てて、
「違うんです!やましい気持ちなんて!」
と言いながら両手のひらを振る。
「やましい気持ちですか?」
「え、あ!いえ!気にしないでください!」
「?…アダル王は問題ありませんか?」
「はい、精神的な負担が多かったせいか今は眠っております。
レイさんが側で見守っていてくれるみたいです」
「そうですか。メアリー女王。
着いてきてもらいたい場所があります。」
不穏な空気を察したのだろう。
メアリー女王の表情が一気に固くなる。
三人は医務室に入る。
そしてメアリー女王は三つのベッドの前で足を止めて無言になる。
「最後まで…勇敢でした。
俺とヨーセルでできる限り腐敗を止めたため、綺麗に保てています。
共に…見送りませんか。」
「そうですね。
このような場ですが…」
そして、三人は静かに目を閉じる。
そして数分間停止する。
一切動かず、三人はそれぞれの思いの中でユーランシーのために命を懸けて戦った三人を見送る。
「あ、あぁあ、、ごめ、んなさい。
まだ…途中なのにっ、、」
メアリー女王は立ったまま涙を流し、辛く苦しく泣く。
溢れる涙を必死に両手で拭うが止まらない。
そんなメアリー女王をヨーセルは優しく抱きしめる。
メアリー女王はそんなヨーセルに顔を埋め、泣き叫ぶ。
ヨーセルとディシは泣かなかった。
ヨーセルは泣くことが出来ず、ディシは今はまだ泣くべきときでは無いと分かっていたからだ。
空虚を殺し、スクリムシリが全て居なくなるまではもう泣かないと決めた。
スタシアの時にもう涙は出し切った。
ならば、今は敵を殺すのみ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二人はザブレーサ騎士団の練習場兼闘技場に来ていた。
ディシの両手にはそれぞれ短剣があり、ヨーセルは普通の直剣を作り出していた。
「ルールは首に寸止め、武器の破壊、背後を取られる…この三つのどれかをした方の勝ち。
能力はサイナスと意志を使用禁止。
お互い意思のみだ。」
「分かりました。
メアリー女王、合図をお願い致します。」
「分かりました」
メアリー女王が片手を上げ、「始め!」と言うと同時に片手を振り下ろす。
その瞬間、ディシは意思を使い身体能力の底上げをする。
結命の意思は自身と対象の身体能力の掛け合わせ。
相手が強ければ強いほど自身の身体能力が格段に上がる。
だが、天帝や守恵者の強さになると掛け合わせたところで相手は簡単にその動きに適応をしてくる。
そのため意思の中ではそこまで強いとは言えない。
だが、
(ヨーセルは先駆の意思を宿っているっ、
これまでとは比較にならないほど、身体能力が…)
ディシはそこで改めて気づいた。
先駆の意思の脅威を。
(身体能力が掛け合わされていない…?
なぜ?どういうことだ?
…まさか!?)
天命の意思…それは意思の中でも次元の違う性能をしている意思を指す。
これまでに空虚や事象、信愛などと頭がいくつも飛び抜けてる性能をしている三つがあった。
それにディシは慣れたつもりだった。
信愛や事象と同じ尺度で先駆を測っていた。
だがそれこそが間違いだった。
結命の意思は先駆の意思を宿る相手から身体能力を掛け合わせようとした。
だが、先駆がそんなことを許すはずもなかった。
結命は本能的に意思を解除した。
言うならば
『先駆の意思は全ての意思の頂点』
であるがために天命の意思以外からの攻撃はほぼ無効化する。
(くそっ、立て直すか?いや、無理だ、、そんな時間無い。
身体強化でっ、)
ディシは止まることなく身体強化をしながらヨーセルに短剣を振るう。
だがヨーセルはディシのそれぞれの短剣の側面に右拳を軽くぶつける。
その瞬間ぶつけられた箇所から亀裂が広がっていき、
粉々に壊れる。
「っ!!」
決着は直ぐに着いた。
ヨーセルの剣はディシの首元で寸止めされていた。
「…参った。」
「ありがとうございました。」
ヨーセルは剣を消す。
「…強くなった。ヨーセル。
今、身体強化も何もしてなかっただろう?」
「、、はい。」
「恐らくその状態で既に本気のミリィノよりも速い。
本当に…ヨーセルの成長は怖いよ。」
「ディシさんもさらにキレが増していました。
さすがです」
「やめてくれ。慰めなんていらないさ。
ひとまず、今の俺とヨーセルの実力差は理解出来たよ。
ヨーセル…俺は空虚との戦いで足でまといになる可能性が高い。
それでも本当に参加しても良いか?」
「はい、ディシさんと私なら空虚とも対等に戦えます。」
「そうか…。勝とうな。」
「はい。」
読んで頂きありがとうございます!
5章はこれで終わりです!
6章で最終章になります!
他の章と比べて話数が減りますのでご了承ください!




