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高盛と左近景永

第23章

 「ご多忙のお体にもかかわらず、早々にお会いする機会をいただき、恐縮至極に存じます。左近殿」

 「いや、高盛殿も、義彰殿亡き後、お忙しいことであろう。いろいろ沙汰しなければならないことが山積みであろうとお察しする。」

 「いえ、私など家臣団に一人に過ぎませぬ。」

 「ご謙遜を。昌義殿も優秀な家臣がいて、さぞや心強いことであろう。」

 「まあ、上様が領地を安堵してくださって、一安心というのが、家臣団の本音ではございますが。」

 「上様も、あんな無理筋な戦の撤退の殿しんがりに義彰殿を指名されるとは、さすがにあまりに損な役回りを受けてしまったと同情いたしました。案の定、敵方の追走をまともに受けることになってしまって、まるで捨て駒のような扱いを。上様も非情なことをなさる。ここだけの話、上様のバテレン嫌いも行き過ぎなのでは、と。そうそう、それで言えば、高盛殿」

 「何でございましょう。」

 「先日、御領地内の宣教師たちを追放されたそうですね。」

 「さすが、お耳が早い」

 「いやいや、さすがに噂になっておりますよ。昌義殿が当主になられてから、上様に恭順の意を表さないといけないとはいえ、さすがに動きが早いと。宣教師らだけでなく、領内のキリシタン たちも。あの義彰殿の右筆だった女性まで追放されたとか。」

 「よくご存じで。左近殿は、伊都にご興味がおありのようですね。」

 「いや、あの戦略会議でお見かけして、義彰殿がまるで右腕のように接している様子をお見かけして、優秀なかたなのだと印象に残りましたのでね。それに彼女の中座を私が咎めたことが尾を引いてしまったようで…」

 「彼女から少し聞き及んでおりますが、職を失ったことを気に掛けてくださったようで。」

 「右筆にとって利き手を失うということは、武士にとって刀を握れなくなったと同じこと。さぞやお困りなのではないかと。」

 「ふふ、雇ってくださるとまでおっしゃってくださったこと。聞いております。彼女は断ったと申しておりましたが、左近殿のお言葉に感謝しておりました。我々としても彼女の今までの貢献に報いたいとは思っていたのですが…」

 「ではなぜ宣教師らとともに追放されたのですか」

 「彼女は領民のキリシタンたちにも慕われておりましたし、その象徴のような存在でしたから、これもまつりごと。もちろん、生活に困らぬように、ある程度の金銭的援助はいたしました。」

 「なるほど、上様の手前、下手な同情は命取りになりますからな。」

 「左近殿、今日お話したかったのは、伊都のことではなく、蔵奉行として、これからの南蛮交易について意見を取り交わしたかったのでございます。」

 「承知しておりますよ。では本題に入りましょう。」

 「上様は、宣教師は追放ですが、商人とは今後も取引を続けると明言でされておりますが、左近殿は、このご発言、そのままとって良いとお考えでしょうか。」

 「そこは疑っておりませんな。義彰殿は積極的にポルトガルと取引をされておりましたが、布教と商売を切り分けられるのであれば問題はないのでは。」

 「ただ、今回の宣教師追放で、ポルトガル側がどう出てくるか読めないところがございまして、我々も別の国と取引をした方がよいかと悩んでおります。確か左近殿は別に国からきた来た商人とお話をされたとか。」

 「ああ、エスパニアから独立したとかいう新しい国の商人たちと会って話しをした。驚いたことに、その国に国王がいるわけではないようだ。商人たちでまとまって、国を動かしているといて、驚いた。もちろん宣教師は同行していない。」

 「なんと、それは理想的な取引相手ではございませんか。」

 「いや、彼らは鉄砲は扱わないのだそうだ。そこはポルトガル商人の独占状態なのだろう。上様はじめ、我々が今一番欲しているのは鉄砲だろう。新しい国と取引するとしても、今のところ魅力的な物産が見当たらない、といったところだ。」

 「左様でしたか、左近殿、貴重なお話を大変ありがたく存じます。」

 「いや、もともと義彰殿とは、ともに力を合わせれば南蛮との交易において、お互い利することがあるのではないと考えておりました。よろしければ今後もこういった意見交換する機会を持ちたいものですな。」


*****


 左近景永との腹の探り合いのような密談で、影永は高盛の想定の範囲内発言しかないことはわかっていました。高盛はその発言の裏を読んで、景永が今何を知っているのか、何を知らないのかを確認したかったのです。


 そして高盛としては、もし伊都が産んだ子が女児だった場合、その子と影永の子に嫁がせて姻戚関係を結ぶ可能性があるのか、を探りたかったのでした。しかし景永のほうから伊都の話題が出て、高盛は、景永の本心が見えず、逆に警戒して話題を変えました。

 景永が高盛側の意図を知ってか知らずか、本意を隠し、うまく追求をかわされたような形になり、高盛にとって確かなことがほとんど分からない、不本意な結果となってしまったのです。


 ただ、ひとつだけはっきりと分かったのは、『景永を敵に回してはいけない』という事でした。


 『パオロ殿が戻ってきて、上様とマスケット銃の取引を終わらせ、我々の鉄砲を購入させることが出来てから、伊都の出産までの間に、生き残るための次の一手を用意しなければ。』


 高盛はつねに慎重にあらゆる可能性を検討して、その対策を客観的に冷静に検討しておくということが出来る人物でした。


 しかし、その高盛でも想定し得ない事態が起こってしまったのです。

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