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謁見のあと

第2章

「今日のパオロという人物は、付き合いのあるマカオ在住のポルトガル人とは同郷ではないようだな。」

 パオロ・バリバリーゴとの初めての会見が終わると、城主である義彰よしあきは、そのまま伊都を会見の間に留め、交わされた内容を整理するために、記録した会話の内容を読み上げさせていたのですが、交易品の内容や条件を一通り述べたあと、ふとそう漏らしました。

 御前様の独り言を聞き取ってはいたものの、伊都は向こうから何か問われるまでは、黙っていました。余計なことを言わないこと、それは右筆として城主に仕える者のとしてのたしなみであり、機密を扱う者の倫理でもあったのです。


 「伊都はどう思う? 気づいたことを自由に述べてよいぞ。」

 「あの方の人となり、ということでよろしいでしょうか?」

 「ああ。信頼できる人物かどうか。率直な印象を聞きたい。ポルトガル王からの推挙状を持ってきたからといって、ポルトガル人とは限らないし、南蛮、と我らはひとまとめに呼んでいるが、多くの国が存在しているし、ここで一旗揚げようとしている人間もたくさんいるはずだ。私がポルトガルという国の領主だったら、いろいろな人間を送り込んで、功績を競わすだろう。その中で、才があるとともに、誠実な者とだけ取引したい。こちらを欺そうとしたりするような商人はお断りだ。」

 「そうですね、多くの南蛮商人のように、貪欲で商売熱心で、私の目には裏表のない人物のように見てとれました。それに…。」

 「それに?」

 「はい、その、我々の文化に対して純粋な好奇心を強くもたれている様子がうかがえました。」

 「ああ、そなたの筆使いに驚いていたようだったな。文字を書いているとは思えない、と目を丸くしていたな。伊都が使っていた筆を見せてくれ、と言ってしげしげと眺めていたのは愉快だった。」

「紙にも関心を示されていらしたかと。表面を触られたりしておりました。」

 「ああ、薄いのに丈夫なのは何故か、と通辞を通して問うてきたな。銀や絹織物のほかに、向こうが欲しがる物が増えるのは良いことだ。今日はこちらが欲しい物を挙げたから、次回持ってくる品をじっくりと吟味したい引き続き彼と交渉を続ける価値はありそうだな。ところで、伊都」

 「はい」

 「遅くなった。今夜は泊まってゆけ。」

 「畏まりました。」


*****


 義彰と初めて会見した日の晩、パオロは宿にさせてもらっている木造の礼拝堂権兼宿舎で、マテオと落ち合いました。

 「そうですか、今日ついに義彰さまと謁見できたのですね。なかなか鋭い方でしょう?」

 「ええ、そうお見受けしました。すでにマカオと交易をされているだけあって、スムーズに具体的な交渉に入れそうでしたよ。」

 「私は商いの話はわかりませんが、こちらがきちんと希望の品を用意すれば、あちらもそれに見合った品を、誠意を持って用意してくださる方だと聞いています。アラン・デ・アルブルケ殿から聞いたように、今この国は群雄割拠という状態で、実質的に国を武力でひとつにまとめている人物はいないようですが、地域によっては、我々に警戒心を示す領主も存在します。義彰さまは特別にご理解のある領主のようですね。」

 「義彰さまは洗礼を受けられた、というのは本当なのですか?」

 「ええ、数年前のことのようです。我々の教えに感銘を受けたとか。もともとこの国にも信ずる神はおられたそうですが、ムスリムの神ともまた違った存在のようで。ここではすべての存在に神が宿る、という考え方だそうです。この自然の中に無数の神々が存在するのだとか。」

 「ギリシア・ローマの神々のようなことでしょうか?」

 「それが、少し難しく、人のような神ではないようです。私が今まで見知った限りでは、根本的に違うといいますか。霊的な存在といいますか。まだ私も理解できておりません。」

 「でも、義彰さまはキリストの教えに帰依されたのですよね。」

 「日本の昔からの神々は、ときに荒ぶって、怒り、災いを起こすのだそうです。正しい歩もうとする人間を教え導く存在ではないようで。我々の教えの神は、正義と愛の絶対的な存在ということをとても心を惹かれた、とおっしゃっていましたね。もう一つ、この国では古くから仏教が広がっていたようですが。」

 「仏教?」

 「ええ、インドにある国の王子、仏陀という方が開祖なのですが、その教えがこの国に広まり、多くの寺院が作られてきたそうですが、義彰さまは忌み嫌っておられましたね。時の世俗的な権力者と結びつき、領地を拡げ、あろうことか兵力まで持つようになり、特権階級となり、悩み苦しむ世の人たちの魂を救うものではない、と。」


 心の中で『ローマ・カトリック教会だって似たようなものではないか』と苦笑したパオロでしたが、それは口にも表情にも出さず、さらにマテオに義彰の経歴や興味、考え方、要するに商売に役立ちそうな情報を集めるために、その晩はずっと話を続けたのでした。


 このときのパオロは、いち早く商取引を成立させて、一日でも早くマラッカにいるお目付役のアラン・デ・アルブルケに、そしてポルトガル王に実績を上げたことを報告したいという気持ちで一杯でした。

 期待された銀はもちろん、まだあまり扱われていない、よい交易品を発掘したいと意気込んでいたので、何とか義彰に気に入られる方法はないかと、そればかり考えていたのです。


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