21 リオ様が吐きそうになった理由
まだ周囲の目があるので、私は毒婦の演技をしながら、偉そうにリオ様に手を差し出した。ドーラさんのときとは違い、リオ様はすぐに手を取ってくれる。
並んで歩きながら、私はリオ様に小声で尋ねた。
「体調は、どうですか?」
「だいぶ楽になった」
「よかった……」
私はホッと胸を撫で下ろした。
「さっきは、どうしたんですか?」
「ドーラの体臭がきつすぎて、吐きそうになってしまった」
「た、体臭……。えっと、それは、たぶん香水の香りでは?」
私でもきつい香りだと感じたので、鼻がいいリオ様は苦しくなってしまったのかもしれない。
「あれは、香水の香りだけではなかった。昔、同じ臭いを嗅いだことがある。とりあえずカルロスにも、そのことは伝えておいたが……」
リオ様の顔は険しい。
「強烈な臭いな上に、俺や周囲に向ける悪意がすごかったんだ。でも、ここでドーラを仕留めるわけにもいかず」
「仕留める……」
急に出てきた物騒な言葉に、私は思わず遠い目をしてしまう。
これまで悪意を持ってリオ様に近づいてきた女性たちは、みんな大変なことになっていた。私の異母妹マリンはリオ様に顔面をわし掴みにされたし、聖女ライラ様は、腕をしめあげられた後まるで荷物を運ぶように小脇に抱えられて、医務室まで連れていかれてしまった。
このままでは、ドーラさんもとんでもない目に遭ってしまうかもしれない。
リオ様の話は続いている。
「ドーラが俺にエスコートを求めているのは分かっていたんだ。でも、その手を取ったら、あまりの気持ち悪さに、そのままぶん投げてしまいそうで」
「そこまでだったんですか!?」
拒絶の仕方が今までより激しいのは気のせいかしら?
「ああ、そこまでだった」
「……」
どう答えていいのか少し悩んでしまった私を、リオ様が不安そうに見つめている。もしかすると、私に怒られると思っているのかもしれない。
「ようするにリオ様は、これまでの教訓をいかして、やらかすのを我慢してくださったということですね? だとすれば、いいことだと思いますよ」
もし、この場でドーラさんを仕留めたり、ぶん投げていたりしたら大変なことになっていた。
「セレナにそう言ってもらえてよかった」
それでもしょんぼりしているリオ様に、私はニッコリと微笑みかけた。
「これからドーラさんとお話ができるし、作戦は大成功ですよ。彼女がサンドラ夫人だった場合、どうしますか?」
リオ様は、気持ちを切り替えたようで、真剣な顔をしている。
「その場合は、捕らえてアイリーン嬢に引き合わせたほうがいいだろうな。禁書の解読にかかわっているのかどうかも調べなければならないし」
「そうですね」
今はサンドラ夫人を捜しているけど、私たちが本当に知りたいのは禁書の行方だった。
「まぁ、ドーラがサンドラかどうかはさておき、直接会ってみて分かったことがある」
リオ様の瞳が、遠くにいるドーラさんの背中を鋭く睨んでいる。
「さっきのあれは、演技なんかじゃなかった」
「では……」
ゆっくりとリオ様が頷く。
「おそらくドーラは、ウワサ通りの毒婦だ」




