07 コニーとアレッタと私
リオ様は、私の専属騎士に「コニーがふさわしいと思う」と言ってくれた。
そのことを伝えると、コニーからは満面の笑みが返ってきた。
「やった!」
「すごいわ、コニー!」
「嬉しいです!」
ぴょんぴょんと跳ねているコニーと、私は手を取り合って喜んだ。
「これで騎士試験に合格したら、バルゴアの騎士になるという夢が叶うわね」
その夢を叶えるために、コニーがずっと頑張っていたことを知っている。それなのにコニーは「違いますよ」と明るく否定した。
「えっ、違うの?」
コニーはコクリと頷く。
「あたしの夢は、大好きなセレナお嬢様とずっと一緒にいることです。お嬢様のそばにいるために、バルゴアの騎士になる必要があったから目指したんです。それに……」
少し俯いたコニーは、悔しそうに歯をかみしめている。
「王都でお嬢様がクズ家族に苦しめられているとき、あたしでは助けることができなかった……。もうあんな思いをするのは絶対に嫌なんです。お嬢様を守れるくらい強くなって、ずっとそばでお仕えする。それがあたしの本当の夢です!」
「コニー……ありがとう」
胸が熱くなって、思わず涙が滲んでしまう。
「泣かないで、お嬢様」
そう言ったコニーの瞳にも涙が浮かんでいる。
「コニーがいてくれたから今の私があるのよ」
「それはあたしのセリフですよ!」
そう言ってくれたコニーの声が元気いっぱいだったので、私の口からフフッと笑いが漏れた。
「私たちが、こんなに幸せになれるなんて、王都で暮らしていたときは想像もできなかったわね」
「そうですね! あーあ、今の私だったらお嬢様を苦しめたやつらに、もっと仕返しできたのに」
「えっと、料理長の髭をむしったんだもの。十分仕返しになっていたわよ」
「そうかなぁ?」
二人で思い出話をしながら笑い合う。そんな穏やかでとても温かい時間を過ごした。
*
それから数日後。
今は、私の前に3人の女性騎士が整列している。リオ様が彼女たちを、私とコニーに紹介してくれた。
「これからセレナの護衛にあたってもらう騎士たちだ」
一歩前に出た赤髪の女性騎士が、代表して挨拶をした。
「セレナ様にご挨拶を申し上げます。我らが交代で護衛に当たらせていただきます」
「よろしくお願いします」
私が微笑みを浮かべると、礼儀正しいお辞儀が返ってくる。
リオ様は、続けてコニーを彼女たちに紹介した。
「コニーはエディの弟子でまだ見習い騎士だが、セレナの性格や行動をよく知っている。俺にとってのエディみたいなものだ」
その言葉に、女性騎士たちは納得したように小さく頷いた。
「コニーに護衛の仕方を指導してやってくれ」
コニーは、「よろしくお願いします!」と勢いよく頭を下げた。
「あたしは、まだ弱いです! でも、セレナお嬢様を守るために死ぬ気で努力します! どうか、あたしを強くしてください!」
それまでキリッとしていた女性騎士たちの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
「エディ様の弟子なら、腕はたしかでしょう」
「いい護衛騎士になりそうです」
「逆にセレナ様のことを、私たちに教えてほしいくらいですよ」
そんな声が聞こえてくる。コニーのことを好意的に受け入れてもらえたようで、私はホッと胸を撫で下ろした。
しばらくすると、休憩をとっていた専属メイドのアレッタが部屋に戻ってきた。いつもニコニコしているのに、今はどこかうわの空だ。
私が「どうかしたの?」と声をかけると、アレッタはハッと我に返ったようなそぶりをした。
「あっ、ぼんやりしてしまい申し訳ありません」
「疲れているのなら休んでね」
私の言葉にアレッタは、慌てて首を左右に振る。
「いいえ! 実は、先ほどモーリスさんに会いまして」
アレッタの言葉で、タゼア家のネックレスに反応したメガネの青年が私の頭をよぎった。
「何か問題があったの?」
「いえ、その……」
こんなに歯切れが悪いアレッタは初めて見た。
「もし彼のことで困っているのなら、私が対応を――」
「ち、違います! その、私と一緒だなって思ってしまって」
「一緒?」
アレッタの言葉の続きを待っていると、言いにくそうにポツリポツリと話してくれた。
「モーリスさん、どこかに仕送りをしようとしていたみたいなんです」
そういうアレッタは、故郷の男爵領にいまだに仕送りをし続けている。
リオ様が援助してくださったので、もう仕送りは必要ないのに「こんなにたくさんお給料をいただいたら、どう使っていいのかわかりません」なんて言いながら、せっせと両親に送っているのだ。
アレッタは、少し俯いた。
「そのときモーリスさんの服の袖が見えたんですけど、黒ずんで布が擦り切れていたんです。私もセレナお嬢様にお仕えする前は、私服を買い替える余裕がなくてそうだったから、つい気になってしまって……」
「そうだったのね」
「はい、決して嫌なことをされたわけではありません」
これまでのアレッタは、男性に意識を向けることが一度もなかった。王都にいるときは、お金を稼ぐことに必死で恋愛なんてする余裕がなかったそうだ。
そんなアレッタが、モーリスさんのことを自分と一緒だと感じたことは、実はすごい進展ではないかしら?
でもまだ本人は意識していないようだから、今はそっとしておきましょう。
それに、悪意はなくてもモーリスさんは、何か隠し事をしている。その隠し事がアレッタを傷つけるようなものの可能性もあった。
こんなことになるのなら、もっとモーリスさんからいろいろ話を聞けばよかったわ。
私がため息をつくと、部屋の扉がノックされた。
アレッタが「アイリーン様がいらっしゃいました」と教えてくれる。
「もうそんな時間なのね」
今日はこれから、タイセン国の使者としてではなく友人としてアイリーン様とお茶会をする予定だった。
出迎えた私は、優しい笑みを浮かべるアイリーン様を見て、ふと気がついた。
アイリーン様とモーリス様の髪の色と目の色……同じじゃないかしら?
ライトブラウンの髪色の人は、とても多い。でも、このエメラルドのような緑色の瞳を持つ人はめったにいない。そう考えると、二人の知的な雰囲気も似ている気がしてきた。
お茶会はとても楽しかったけど、私の心の隅でその考えが消えることはなかった。




