03 再会
「これでも、セレナの邪魔をしないようにしていたつもりなんですけど」とリオ様は、しょんぼりしている。
そんなリオ様を見ても、お義母様は慰めの言葉をかけることはない。
「リオに悪気がないのはわかるけど、気が散るわ。あなたも自分の衣装を着てサイズを合わせてしまいなさい」
「はい……」
パーテーションの向こう側に消えていったリオ様が、叱られた大型犬のようで、なんだか可愛く見えてしまう。
「セレナさん、さわがしくてごめんなさいね」
「いいえ、リオ様にはいつもよくしていただいています」
「そう?」
ため息をついたお義母様は、気持ちを切り替えたようだ。私のドレス姿を見て、満足そうに微笑む。
「とてもよく似合っているわ」
私が着ている純白のドレスは、シンプルなデザインだけど、刺繍やレースで華やかさを演出している。スカートの裾部分であるトレーンが長く伸びていて、後ろ姿が優雅に見えるのも嬉しい。それに、ドレスに使われている生地は、サラリとしていて肌触りがとてもよかった。
お義母様は、「トレーンの長さもいいわね。セレナさんは、何か気になるところがあるかしら?」と私の意見を聞いてくれる。
「いいえ、ありません。素敵なドレスでうれしいです」
「じゃあ、ドレスはこれに決定ね」
そのとき、パーテーションの後ろからリオ様が現れた。
「俺のほうは、このままでいけそうです」
真っ白な礼服に身を包んだリオ様が凛々しくて見とれてしまう。きっと私の頬は、先ほどのリオ様のように赤くなっているわね。
「リオ様、素敵です」
「セレナこそ」
リオ様と私は、微笑みを交わした。そんな私たちの様子を、お義母様は優しく見つめてくださっている。
こうして衣装合わせは、つつがなく終わった。
リオ様と私がお義母様に別れを告げて部屋から出ると、待ち構えていたように、エディ様が駆けてきた。
「リオ。セレナ様に無礼を働いた役人の件だが、相手が『すぐにでもお会いして謝罪したい』と言っている」
リオ様が確認するようにこちらを見たので、私はコクリと頷いた。
「私もその方にお会いしたいです」
「わかった。今から会いに行こう」
エディ様に案内された部屋では、昨晩の青年がソファーに座らず立ったまま私たちが来るのを待っていた。
昨日は日が暮れていたので分からなかったけど、青年の髪色はライトブラウンで瞳は緑色だった。血の気の引いた顔のまま、青年が頭を下げる。
「謝罪の場を作ってくださりありがとうございます。私はモーリスと申します」
「モーリス様ですね。私はリオ様の婚約者でセレナと申します」
私がそう挨拶すると「様など不要です。私のことは、どうぞモーリスとお呼びください」と慌てている。
リオ様に「昨晩の話をくわしく聞いても?」と尋ねられたモーリスさんは、覚悟を決めたように頷いた。
「実は……セレナ様が身に着けているネックレスを見て、驚いてしまったのです。その、見覚えのある模様のように見えたので。でも、それは私の見間違いでした」
私は身につけていたネックレスを外して、モーリスさんに手渡した。ネックレスを見たモーリスさんの顔色は、さらに悪くなっていく。
「モーリスさんは、この模様を何と見間違えたのですか?」
「そ、それは……」
リオ様が「これは、タゼア家の紋章だ」と伝えると、モーリスさんの肩がわかりやすくビクッと跳ねた。
「そ、そうですね」
「知っていたのか?」
「あっ、はい。私の母がタイセン国の出身なので、どこかで見たことがあったのかもしれません」
ということは、見間違いではなくモーリスさんは、タゼア家の紋章を見て驚いたことになってしまう。ひどく焦っているので、自分の発言の矛盾に気がついていなさそうだけど。
モーリスさんは、それ以上くわしく話したくないようで「お騒がせして申し訳ございませんでした」と話を終わらせてしまった。
嫌がっている人から無理やり話を聞きだす趣味はない。私が「謝罪を受け取りました」と伝えると、モーリスさんは目に見えて安堵した。
部屋から出たあとで、私とリオ様はお互いに視線を交わす。
「モーリスさん、何か隠し事がありそうですね」
「ああ、だが悪意はないな。セレナに危害を加えることはないだろう」
悪意に敏感なリオ様がそう言ってくれるのなら、何も問題はないということ。これ以上、気にするのはやめましょう。
そう思った私の耳に、リオ様の呟きが届いた。
「タイセンか……」
「タイセン国が何か?」
「実は近々、タイセンからバルゴアに使者が来るそうなんだ」
「私たちの結婚式とは関係なくですか?」
「ああ、そうだ」と言いながらリオ様は、なんとも言えない顔をしている。
「カルロスのヤツ、面倒なことを言ってこなければいいが……」
リオ様がいうカルロス様とは、タイセン国の国王陛下のことだ。二人は幼馴染で、とても仲がいい。そして、私にネックレスをくれたアイリーン様は、カルロス陛下に忠誠を誓っている。
「アイリーン様はお元気かしら?」
「俺たちの結婚式には来てくれるんだろう?」
コクリと頷いた私は「会える日が今から楽しみです」と微笑んだ。
そんな会話をした数日後に、タイセン国からの使者がバルゴア領を訪れた。
リオ様と共に使者を出迎えていた私は、思わず驚きの声を上げそうになった。
なぜなら、その使者がアイリーン様だったから。




