【第一章】その7
「ハァ~三金貨か~……どうやって取り戻そうか……」
「ごめんなさい…ナヴィのせいで…」
「お前が謝る必要無いだろ。私のせい何だから」
「でもナヴィが怠慢せずに、最初から大技使っていれば…」
「もういいさ、終わっちまったことだし。それよりこれから買い物とか有るけど、節約を考えないとな…」
「そうですね…あっ!コスメならドラッグストアが安いですよ。会員費無料ですから、会員になって系列店のヘアーサロンやエステサロンでも使えるポイントカード作りましょう」
「…………まずは武器だよな。魔王倒しに行くんだから」
「あいさんはお洒落にあまり興味ないんですか?メイクやヘアースタイルもデフォのままで無く、変えた方がゲームライフがよりエンジョイ出来ますよ」
「魔王に色仕掛けが通用するなら、一ミリぐらい考慮してもいいぞ」
現在ガーデンパークの砂利道に置かれた小洒落たベンチに座り、三時からのギルドの面接まで、これからの対策を考えながら時間を潰していた。
パークは、広大な芝生面を囲むように、砂利道が連なっており、砂利道の外側には立木や花の垣根が外界を閉ざすように、街の風景を遮断している
芝生面ではサッカーをする親子連れや、サンドイッチを食べながら寛いでいるアベックが楽しそうに笑っている。見てるだけで心が和むわ。
正直ギルドの面接もモンスター退治もほったらかして、ここで昼寝したい。
「さっき貰った景品、中を見ないんですか?」
「ああ、コレ?ナヴィは中身知らないのか?」
「アイテムはランダムですから、何処で何のアイテムが出てくるかは、ナヴィにも分かりません」
「へぇー。じゃあ、もしかしたら凄く重要なアイテムが、いきなり出てくるかもしれないのか?参加賞みたいなアイテムだと思って全然期待してなかった」
「開けて見ましょうか!」
「待て待て、慌てるな。ギルド入社して宿が決まってからでも良いだろ。今晩のディナーの時のお楽しみにしようぜ」
「ミョー!あいさん中々のロマンチストですね。あいさんって恋人居るんですか?優しくてロマンチストだから現実世界できっとモテモテ何でしょうね」
……そういえば私、恋人居たっけ?……駄目だ思い出せない。
「まぁ、私も確か二十後半だったから恋人位は居るよ…きっと…」
「ミョー!羨ましい!きっとラブラブ何でしょうね。でもここはゲームの中です。だから大丈夫。浮気してもバレませんから…」
「えっ?!」
「ほらっ!見て下さい。あいさんに熱視線をさっきから送る人がチラホラいます…」
「えっ?えっ?どういうこと?」
回りを見渡した…何だ?あれは?
ハートマークが頭の上に飛んでる人が数人居る。芝生面や向こうのベンチにも……
あれは何だ?
「ナヴィ?あのハート飛ばしている人は何だ?」
「あれは、あいさんに恋してきている人達です。ハートマークの数が多いほど恋愛感情が高まっています。ハート五つ出してる人は告白して来ますよ」
「なっ、ちょ、ちょっと待ってくれよ。まだ街に着いたばかりで、喋ってもいないのに恋心抱かれるのか?」
「あいさんが街中で裸同然で走ったから、殿方達のハートに火を付けたんですよミョーミョー!」
「殿方?」
言われて、もう一度よく見渡した。ハートマークが浮いてるのは野郎ばかりだ。
忘れてた。私、女だ!!!
「ナヴィ!まだ言って無かったが私の本体は男だ!男なのに、このままじゃ男に告白されちまう!!」
「えっ!?あいさんは男の方が好きな男の人じゃ無かったのですか?」
「ハァ?何でそうなる?」
「あいさんの本体が男性の方だということは知っていました。でも女性アバターを選んだからてっきり…ならどうして女アバターを?」
「いや、その…それは…そう!よく有る勘違いだ!」
「勘違い?」
「いや、男のキャラより女のキャラの方が強そうに見えたんだ。ほらっ、最近のロールプレイングって女キャラの方が最強キャラ多いだろ」
「あっ、そっか。それで逆の性別を選ぶ人が居るんだ。また勉強になりましたミョミョ」
ヨシ!うまく誤魔化した。
いや、普通男でも女アバター使うから慌てる必要無いんだけどな…
「あっ!だったらどうして最初にあんな超ミニを選んだんですか?」
「えっ?あっ、それは機動性を重視して…かな…」
「機動性なら最初からパンツスタイルですよね……ねっ!あいさん」
「……」
「なるほど…アパレル店員さんのお胸見てたのは、そういうことですね。この、スケベ!エッチ!」
「ウッ…気付いてたのね…すいません…」
「ミョミョミョいいんですよ、ここは〝大人のフェアリーランド〟。大人はエッチなものです。あいさんは大人ですもんね」
「ですよね!ですよね!」
「でも、女性を選んだからにはこの世界では女性として生きて下さいね」
「よく分からんが…この世界じゃ男と女でゲームの進行が変わるのか?」
「はい。魔王退治には特に影響ないですが、恋愛や私生活は変わってきます」
「恋愛っても、あの野郎共に告白されて恋人烙印押されるだけだろ?」
「ミョミョミョ。あいさん、ここは〝大人のフェアリーランド〟ですよ」
「それ以上も有るの?しまった!失敗した!男アバター選ぶべきだったー!!」
「あっ!あいさん。あの男性、告白しに来ましたよ!」
見ると、芝生の上を銀髪で俳優のようなクールイケメンがこっちに向かってやって来る。
う~ん、あれなら抱かれて良いかも……って、思わんわ!!
「ナヴィ!逃げよう!」
「えー、勿体ないですよ」
「私は魔王退治一筋で生きて行きます」
「仕方ないですね…では、面接の時間も近いのでギルドに向かいますか」
すぐにベンチから立ち上がって、小走りで公園を後にしようとしたが、男が無表情で走って着いてくる。
「ナヴィ!アイツ着いてくるぞ!」
「ハート五つなら諦めませんからね…」
「何とかなる?」
「お任せを」
そう言うとナヴィは杖をクルクル回し、男の方に杖先を向けた。
「恋人達の散歩道!!!」
すると紫、赤、白の光が銀髪男の足元の芝生に伸び、芝生をペイントするかのように細いピンクの道が出来ていく。
男はいきなりピンクの道に立たされ、戸惑いながら立ち止まっていた。
そこにさっきのサンドイッチを食べていたアベックの女の方が、二つ分のジュースを持って、たまたま通りがかる。
女はピンクの道に触れると、いきなりジュースを放り出して彼氏では無く、銀髪男の方の胸に飛び込んでいった。
銀髪男もしっかり受け止め抱擁する。そして手を繋ぎ、寄り添いながら芝生の向こうに消えて行った。
後にはいきなり横恋慕されて彼女とジュースを失った元カレが、ただ呆然と元カノの方を真顔で眺めていた。
モブキャラ達はこういった場面でも、感情が顔に出ないから滑稽で少し笑える。
「恋人達の散歩道に触れた男女は必ず恋に堕ちる。何人たりともこの呪縛から逃れることは出来ない。ミョミョ」
「何でいきなり能力漫画口調になるんだよ」
「やっぱりカッコつけたセリフ欲しいじゃないですかミョミョ」
「あのピンクの道に、男同士や女同士が通っても効果有るのかな?」
「試しにナヴィと一緒に歩いてみますか?」
「いや~止めとくわ」
「何でですかー?ナヴィが恋人では役不足ですか?」
「んー…サイズがな…」
「愛が有れば背丈なんてミョミョ」
「いや…胸の…」
「ハァァァァァア?何言ってんですか!!ナヴィ、背が低いから小さく見えるだけですよ!!!だいたい実際のアタシは……」
「実際のアタシ?」
「いや…何でも無いですミョー。それより今度傷つくようなこと言ったら有無を言わさず戻り道かけますからね」
「わかった、わかった。もう言いません」
少しムスッとしたナヴィはぴょんぴょん飛び跳ねて、こちらを振り返らずにどんどん先に行った。私は見失わないよう後を追う。
公園の外に出て、大通りを渡った所で止まって手招きしている。すでに笑顔は戻っていた。
「最短距離で行きましょう」
傍に寄ると、ナヴィは建物が立ち並ぶ住宅街の前に立ち、杖を小気味よくクルクル回す。
「近道!!」
緑と白の光が建物に当たり、きっちり密着していたはずのレンガ造りのセミデタッチドハウスが、いきなり真ん中から綺麗に離れ出して、間に道が出来た。
2軒長屋の家を勝手に一戸建てにしやがって…
奥にも道はしっかり続いている。奥に元々有った家屋は、道の為に切断されて否応なしにリフォームされたようだ。
中には部屋が半分に割れて、様子が丸見えの御家庭も有る。
これではお着替えも出来ないはずだが、なぜか何事も無かったように主婦が家事をされている。
「この場所からギルドまでの最短距離の道を作りました」
「この道、後で消えるよな?お風呂丸見えの所も有るぞ」
「大丈夫です。切り離された家は用が済めば元通りくっつきます」
そう言ってナヴィは又ぴょんぴょん飛び跳ねて、私を先導する為に前へ前へと離れて行く。
私はナヴィの後ろ姿を見ながら、さっきのやり取りを思い返していた…
ずっと気になっていた疑問の答えが分かりつつある。
「実際のアタシか…………」