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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第6部 砂漠の夜は怪物でいっぱい
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宇宙パトロール 来る

ブクマありがとうございます^^ とても嬉しいです

さて、ダズトに、全員集合してまいりました。同時に、闇の中でも、……。

七の章


 ダズトの赤い惑星に、銀河連盟宇宙防衛軍――通称宇宙パトロールの艦隊が接近しつつあった。

 総指揮はまだ若手の近藤中佐。目的は、犯罪都市ダズトの一掃と連盟基地を設けることである。勇には友をここで失っているから個人的に思い入れが強い。


 勇は容赦しないつもりだ。どうしても抵抗を続けるなら、惑星ごと吹き飛ばすつもりでやってきた。艦隊を散開させ要所要所に配置してぐるりと惑星を取り巻かせる。一隻たりとこの惑星から逃がさない。

 常に正攻法を好む彼は、次いで、ダズトに宣戦布告した。


『犯罪都市ダズトは、既に秘密ではなくなった。速やかに降伏せよ。さもなければ、直ちに全面攻撃に移る』



 これを聞いて慌てたのは、ダズトの町の犯罪者ばかりではなかった。

 チャーリィは急いで回線を開き、勇にコンタクトした。


「勇、まずいぞ。ライルがあの町にいるんだ」

『なに?』


 勇は驚きのあまり絶句した。なぜだと言う言葉が出ない。

 それを察して、チャーリィが手短にこれまでのことをかいつまんで話した。奴の気持ちを考えると同情する。

 通信機はしばらく沈黙した。そのあとで、


『すると、今、彼は連中の手の中にあると言うんだな?』


 と、再度確認してきた。


「そうだ。だが多分、彼の正体は知られていないと思うがね。ライルなんて、どこにでもある名前だし」


 通信機がフン! と、鼻を鳴らした。


『お前らしくもないミスだ。確かに、今までは知らなかったかも知れん。この通信もパトロールの暗号に組まれ、細砕機を通してはいる。だが、向こうにも頭のいい奴はいるんだ。パトロールで解読できるなら、連中もものにするだろう。この瞬間から、連中は全てを知ったと考えて行動するべきだよ』


 今度はチャーリィが黙る番だった。


『犯罪都市に犯罪者十万人と、ライル一人のどっちを選ぶ?』


 勇が訊いてきた。チャーリィは黙っている。


『奴等はいつでも捕らえられるが、ライルを失ったら二度と手に入れることはできん。彼を押さえられていては、俺達は手も足もでないよ』


 通信機から溜め息が零れた。マイクの向こうの勇の顔が想像できる。彼の仕事の邪魔をした責任を感じたチャーリィは、もう一度、町へ潜入してライルを助け出そうと決心した。


 勇のほうでも特別行動隊を出すだろう。どちらが先に助け出すか、これは競争だった。

 シャルルがチャーリィの顔を見た。チャーリィはきっぱりと告げた。


「俺一人で行く。シャルル、君は船を守っていてくれ」


 ――怪物や町の連中から。


 同時に、背後を彼に守ってもらうということは、いつでも退去できる強みになる。万事心得たシャルルは、よし判った、と頼もしげに頷いた。


 チャーリィは安心して砂漠に降りた。


 ***

 

 一方パトロール側でも、空から一部隊が密かに砂漠に降下した。近藤中佐を先頭に町へと向かう。

 しかし、彼らはスムーズに町へ入る事はできなかった。砂漠には思わぬ伏勢が待っていたからだ。



 彼等が歩き出して間もなくだった。砂の山がずっと盛り上がり近づいてきた。注意して見ると、その山は無数にあり彼らの周りを取り巻いている。

 そのうち、それが砂の山ではなく、生物らしい事が解ってきた。見事な保護色のため、じっと動かないでいると辺りの砂と変わりなくなってしまう。


 首は無く、小さく平べったい頭は、巨大な胴の中に半ば埋もれている。何重もの膜に覆われた一つの細長い眼は、体の水分が極力抜け出すのを防いでいた。

 胴から伸びる太い八本の上肢には測り知れない力が秘められているようだ。下肢は十数本の短い丸太で、びっしりと長い毛で覆われ砂上を滑るように移動する。この為まるで音を立てない。

 怪物どもは何の気配も無く、全く沈黙のうちにひしひしと迫ってきた。


 勇は彼らの脅威をとっさに悟ると、部隊に攻撃の命令を出す。十五本の鋭い殺人レーザーが、怪物めがけてほとばしった。それらは怪物の腕や頭を吹き飛ばしたが、ぞっとしたことに彼らにとってたいした打撃にはならなかった。


 傷つきぼろぼろと崩れる腕の後に、たちまち新しい腕がずず……と生えてくるのだ。それは、胴でも頭でも同じだった。脅威的な再生能力といえる。

 そしてなおも、彼らの周りにひたひたと近づいてくる。勇達を水気のたっぷりした美味い餌と考えているのは明らかだった。



 勇は手にしたケースから戦闘用バズーカ砲の部品を取り出し、手際よく組み立てた。膝を突き、それを肩に抱えて固定する。部下が弾丸を詰めた。

 狙いをつけ、撃つ。

 破壊的なバズーカ砲は大気を焦がしながら、甲高い唸りを上げて怪物の胴の下、足が密生している付け根に炸裂した。

 それは脚と胴を木っ端微塵に吹き飛ばし、砂漠の上にばら撒いた。勇は部下に叫んだ。


「胴と脚の間を狙え! そこに奴らの脳がある。畜生! タコみたいな奴等だ。いいか。四本以上レーザーをまとめるんだぞ!」


 集束した高熱エネルギーが幾つも放たれ、怪物の急所を襲う。狙い通りそこが中枢部だったようで、どうと砂煙を上げて倒れた怪物は二度と起き上がって来なかった。そのレーザーの合間を縫ってバズーカ砲が飛び、怪物の体を粉々に撒き散らす。


 形勢は有利になったが、とにかく相手は夥しい数で、まるで砂の中から湧き出してくるようである。勇達行動隊は始めからひどい苦難を強いられた。


 ***

 

「くそっ。ついに嗅ぎ付けやがったか!」


 ケネス・カネスは、町の有力者を集めて、この危機にどう対処すべきか会議を持った。


 もともとこの会議は、二晩続けて起こっている突然の蒸発事件について話し合う為のものだった。人々の恐怖を煽らないためにその事は厳しく口止めさせているが、それでもあちらこちらでひそひそと闇の恐怖の噂が囁かれていた。


 そこへ、爆弾のように宇宙パトロールが現れたのだ。彼らは不審な蒸発事件どころではなくなった。

 ここに居並ぶ面々は、人類非人類を問わず、彼らの知る世界で、常にブラックリスト№1、2に挙げられる者達だった。警察の追及をかわし、且つなおも、世界の裏側を支配し悪行を続けてこれたのも、ダズトという隠れ蓑が在ったればこそだった。



 警察はその存在さえ知らず、彼らはここで思う存分羽を伸ばしながら、悪どい商取引や悪巧みを練ってきたのだ。

 同時に裏の世界の大物達の連絡場でもあり、社交場でもあった。

 ここに出入りできるということは、その世界で一流と認められることでもあったのである。



 それが遂に発見され、軍隊までやってきた。彼等がどんなに悪行に長けていようとも、銀河連盟直属のパトロール艦隊の前では、抵抗するのも無理というもの。返事一つで、艦隊の砲はこの惑星諸共吹き飛ばしてしまうかもしれない。

 ダズトの最大の武器は、秘密にこそあったのだ。


「だが、対戦砲台が幾つか在ったはずだ。手をこまねいていることはない。それで、奴等を撃墜しよう」


 ざらざらと鱗が重なり、長い尾を持つトカゲ頭が、たくさんの触手を閃かせながら、気忙しげに提案した。


「そして、我等の命運も終わるというのか?」


 冷静な分析力で定評のある冷血人のモランが冷ややかに言い放った。


「ここへ乗り込んでくるくらいだ。要塞に備えていないはずがない。わしらが一発でも撃ってみろ。途端に、何百発もの核ミサイルが、我々の頭の上に降って来よう。指揮している男を知ってるか? あのソル人の近藤勇中佐だ。奴は無茶と無鉄砲で、有名だぞ」


 ずるがしこいカルタス人の中でも筆頭の悪党、ペロスラが自分のつるっと丸い頭を平たい手で抱え込んだ。今にも、この上でミサイルが爆発するのではないかと、心配している。


「海賊グリンは何処へ行ってるんだ? 肝心な時に姿をくらましているんだから」


 苛立たしげな様子で、全身毛深い黒い毛で覆われているミゲス人が暑苦しそうにぼやいた。

 それを聞いて、何人かの目がはっと期待に明るくなった。

 そうだ。奴の艦隊なら、パトロール船など蹴散らしてくれるだろう。


「だめだ。ガルドのグリンは、今、反対方向の大鷲星雲のほうへ出かけている。呼んでも間に合うまい。パトロールの連中は、ちゃんとそこのところも読んできているんだ」


 ケネスが答えると、あからさまな溜め息が八方から漏れた。降伏しかないのか? だが、降伏しても、彼らを待つのは死刑台しかない。



 その時、ばたばたと騒がしく扉を開けて、一人のソル人が息を切らせて駆け込んできた。

 ケネスは驚きに眉をしかめる。


「どうしたんだ? クロス。遅れたぞ」


 ケネスが咎めるのにも耳を貸さず、ハッカー犯罪者のクロスは、走ってきた息を整えるのに必死だった。


「たいへんなことが解ったぜ」


 クロスの目はまだ興奮でぎらぎらしていた。


「ついさっき、この惑星のどっかにいる奴と、パトロール間で通信が交わされたんだ。そいつをやっと解読した。細砕に掛けられていたんで、始めは手間が掛かったが、その後は、パトロールの暗号だったんでわけもなかった」


 打ち出された解読文を読んでいるうちに、ケネスの顔が驚きに変わり、最後には勝ち誇った笑いになった。同席している面々は、興味津々でケネスを見つめる。


「諸君! 我々はもはや、パトロールを恐れることは無い。それどころか、奴等を好きなように牛耳れるぞ。私は切り札を手に入れているのだ!」


 トカゲ頭がせっかちに聞いた。


「それは、何だ?」

「ライル・フォンベルト・リザヌールを知っているか? バリヌール人の」

「ああ、知っている。奴を知らない者はあるまい。奴のせいで、麻薬業界は大打撃を被ったのだからな」

「奴等には大天才科学者だろうが、俺達にとっちゃとんでもない厄病神さ!」


 麻薬に主力を置いていたペロスラが吐き捨てるように言った。


「それが、どうしたんだ? まさか……?」

「そのまさかさ。奴が俺の店にいるんだ」

「そんなことが……」

「有り得ない、か? ところがそうなのさ。お前達、彼の素顔を知っているか? たいした美青年だぞ。店一番の美女より稼ぐ」


 何人かが、あっと口をだらんと開ける。何度かゲーム対戦をした客もいたのだ。


「あいつ、バリヌール人だったのか? 勝てるわけねえだろ! ケネス、それじゃあ、詐欺と同じだ! 金を返せ!」


 かなり入れ込んでいた男が腹を立てて喰ってかかった。そうだそうだ! 抱かせろ! と八方から声が上がる。相も変わらずの大人気だった。


「そいつを引っ張って来い! 麻薬の礼をたっぷり返してやる!」


 カルタス人が無毛の頭を真っ青にして――血が青いのだ――熱くなった。


「手加減して欲しいね。彼はうちの大事な商品なんだ。それに、今は地下倉に監禁されている」

「逃げ出さんかね? 奴はとにかく、常識外れの天才だって話だからな」


 モランが当然の事を訊いた。


「一度、失敗したのでね。今度は大丈夫だ。導線一本も無い石の中に閉じ込めてあるんだ。しかも、その場所は一部の者しか知らないし、知ってる奴も、迷信を恐れて近寄りたがらない。ひょっとしたら、既に狂人になっているかもしれんぞ」


 愉快そうに笑うケネスの言葉に一級犯罪者達は顔を見合わせた。


「他ならぬあんたの事だ。そいつは、あんたに任せよう。それで、交渉の事だが……」



 ***


 宇宙パトロールの猛者、近藤勇は頭を抱えてしまった。

 予想通り、都市の連中はライルの正体を知り、彼の命を盾にいけ図々しくも艦隊の撤退と今後の不干渉を要求してきた。もっと要求を出せるのだぞ、と匂わせ、恩に切らせんばかりの態度だったのだ。


 その尊大な高飛車振りに、勇はかんかんに腹を立てたが、実際のところ大きな弱みを握られているのでどうする術も無い。

 艦隊指揮官としての自分の立場など二の次だった。ライルが奴らの手にある以上、無法者の悪党どものことだから、図に乗って今後どんな要求が出てくるか解らない。


 やむなく、ダズトを巡る衛星軌道上で待機している副指揮官ギル・ボムランに艦隊を一時後退させ、連中のレーダーから外れるまで離れ、恒星を対探知の盾とするポイントに着くよう命じた。


 そして、砂の怪物との戦いでくたくたになっている行動隊を叱咤激励して、町へと急いだ。全ての鍵はライルを救出できるか否かに掛かっていた。




 町へ入ったチャーリィは、取りあえず『ロイヤルレディ』へ出向いた。

 ライルに取り次いでもらったブロンド女のドロシーを指定すると、ボーイが彼女はいないと告げた。ライルを頼むと、彼はしばらく店を休みます、と言う。

 仕方なく別の女を指定して待った。


 燃えるような赤い髪のアルデバラン美女がやってきた。この店はみんな美人揃いらしい。だが、彼女の緑の目の奥が不安げに揺れているのを、チャーリィは目敏く気づく。


「何か心配事でもあったのかい?」


 人を安心させるようなとびっきりの笑顔を見せて訊く。

 美女ははっとしたが、魅力的な彼の笑顔に釣り込まれ、絶対秘密だと言って打ち明けた。


「一晩で五人も消えたのよ。脱けたとも聞かないし、何処かへ連れ去られたと云うものでもないの。中にはベッドの中で消えてしまったという人もあるわ。私、なんだか怖くて……。この星には、古い伝説があるのよ。知ってる?」


 彼は知らなかったので、先を促した。彼女はそっと辺りに目を配りながら、ほとんど聞き取れないほどの小さな声で話した。


「私も伝え聞きだから、あまり定かじゃないけど。古い古いずっと昔、ここには恐ろしい魔物がいたんですって。人々を次々に飲み込んで、魔物に変えてしまうらしいの。その魔物は相手の望むままに姿を変え、その心を喰らうのよ。で、ある日、天より神が降りて、それを石の中に封じたの。でも、今でさえ、夜になると、砂漠中に魔物の怨念が満ち満ちるって言うわ」


 女はぶるっと身を震わせた。


「その魔物が出てきたっていうのか?」

「どっかの馬鹿が封じた石を掘り起こしたって噂よ」


 チャーリィは胸に嫌な予感が動いた。


「その伝説がいつ頃のものか知っているか?」

「そうね。一万年も昔の事らしいけど」


 彼は心臓がどきんと大きく打つのを感じた。


 ――一万年前だって? あの地下室と棺は……? そして、そこで体験したあれは……? まさか。

 世の中、奇妙な事はいっぱいあるが、そんな馬鹿げた事は……。


 だが、何処かの暗闇で、確かに人々が次々と消えていく。その事実は無視できなかった。

焦ったチャーリィ氏は、今回、けっこう迂闊でした><

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