宇宙船ぶんどる
町に戻ったチャーリィは、船を奪おうと……
四の章
チャーリィの乗った軽飛行艇は、危なっかしい足取りでよろよろと、かつて出発してきた町へと向かっていた。
グレコはもう疾うに宇宙へと行ってしまったろう。研究所の気の利いた奴が、彼の人相書きを配っているかもしれない。
それでもこの惑星で生き続ける為には、ドーム内の町へ入らねばならなかった。それに、奴らはきな臭くなったこの惑星に見切りをつけて、ライルを別の場所へ移すに違いない。
チャーリィは艇をドームの近くにそっと降ろすと、念入りに服を裂き泥を塗りたくった。仕上がりを渋い顔で確かめると、いかにも疲れ切っているようにふらふらした足取りでゲートに近寄る。
樹海からさ迷い出てきた男を見つけた門番は、びっくりして駆け寄ってきた。銃を突きつけて誰何するのも忘れて疲労困憊の男を支えてやる。
男は門番を見てほっとしたように笑いかけると、気を失って倒れ込んだ。
門番は気持ちの優しい男だった。ドームの中に引き摺って来るとベンチに寝かせてやる。
男は唸りを上げはっと飛び起きると、辺りをきょろきょろと見回した。信じられないと言う表情を浮かべ、やがて深い安堵の溜息を吐く。
門番は同情して暖かい飲み物を手渡してやる。チャーリィは震える手でそれを受け取り、大事そうに抱え込んでゆっくり味わった。喉が渇いていたので実際ありがたかった。
「どのくらいさ迷ってたんだ? 良く戻ってこれたな」
門番が感心して訊いてくる。チャーリィは身震いしながら答えた。
「忘れた。自分でも生きているのが不思議だ。しかし……、しかし……、そうだ! 俺は助かったんだ。ここは、乾いている! ……そうだ、あんた、煙草を一本持っていないかな?」
門番は親切にも一本恵んでくれる。チャーリィは心から嬉しく頂戴した。
「俺はチャーリィ・バトラー。この前、ここから外を観に出かけたんだが、雨に叩き落されちまって……」
煙をふうっと吹きながら、目を細めて言う。
「あんたかい! 話は聞いていたよ。どんな間抜け……、いや、悪かった。グレコが悲しんでたよ。いい相棒になるはずだったって」
チャーリィは門番に礼を言うと町へ足を向ける。
門番の対応で、未だ研究所の方からは何も言ってきてないようだと確信した彼は、賑やかな歓楽街をぶらぶら歩いていたが、ふと路地の二階を見上げた。
狭い路地に入って行き、トレーンの青い女の部屋の扉を叩いた。
身体をさっぱりと洗い流して、女が用意してくれたこざっぱりした服を着け、上等な煙草を吹かしながら、チャーリィはこれからのことを考えていた。
女は彼のために、食事の支度をしている。トレーンの女としては実に珍しいことだった。ひょっとしたら、これも彼の才能の一つに入るのだろうか?
チャーリィはここでもう一度、パラ通信を試してみた。しかし、返って来た返事は同じく『だめ。動けない』だった。
よっぽどの窮地に立っているとみえる。彼も心配になってきた。
それに、麻薬組織の奴らに、ライルをいじり回す時間をあまり与えるわけにはいかない。
彼は決心して立ち上がる。青いトレーンの女が、彼をじっと見つめていた。
「きっと、君をここから解放させてあげるよ。待っていてくれ」
チャーリィが言うと、トレーンの女は濡れた黒い目で見つめていたが、青い髪を振り、砂が流れるように囁いた。
「いいえ。あたしは、ここが性に合っている。ただ、ここに多くの女達が居ることを、あなたが忘れなければ、それでいいわ」
彼女は戸口に立ち、去っていく男に歌を歌う。トレーンの青い海辺で、ガラス質と珪酸カルシウムの水色の砂が風で吹かれて呟くように。
かつて、トレーンの古代の海の底で、残酷で横暴だった男族から女族を解放した伝説の英雄を讃える歌だった。
遥かに時が移り、男族が滅び、女族が宇宙に出て、思いのままに生きる今でさえも、彼女達はその歌を忘れない。そして、最高の男にその歌を贈るのだ。
チャーリィはぶらりと管理ビルに入って行った。ズボンのポケットに両手を突っ込み、咥え煙草をくゆらし、肩を揺すらせながらだらだらと歩いていく。
だが、如何にも呑気そうな外見とは裏腹に、彼の神経は油断無く張り詰めていた。
やがて、管理ビルの中枢部に入る。もちろん、下っ端や部外者が出入りする所ではない。ここに来て、彼の態度は一変した。
気楽な様子をかなぐり捨てる。壁に身を寄せ辺りを窺う。トレーンの女の詳しい説明で監視カメラの場所は押さえてある。その盲点を丹念につきながら、目当ての部屋へと進んだ。
やっと、視界の先に、通信室が見えた。そのドアまで、二画分。物陰に隠れながら行くとしても、最後の一画、まるまる三秒は姿が剥き出しになる。彼は息を整えると、全力で走った。
一秒、二秒、三秒……ドアの取っ手を取り素早く開けるや、とっさに人数を確認。
二人。
同時に、出力の絞られたビームが彼らの肩を射抜いていた。
彼らは振り返る暇も、腰の銃に手を掛ける間も、警報を発する間もなく、激痛に膝をつく。
そこへ、飛び込みざま彼らを手際よく昏倒させた。
通信装置を一瞥して、地球製の普及型と知りほっとする。ライルや勇達ほど機械に明るくない彼は、操作に手間取るのを一番の障害と考えていたのだ。
直ぐにパトロール用周波数に切り替え、暗号でエプカトルの麻薬基地の存在と規模、座標の情報を送り出す。ちゃんと発信されていることを確かめると、無限回自動送信にセットした。これを切るか、妨害するまで、何回でも繰り返し送信される。
用の済んだ彼は、転がっている男達にはかまわずさっさと出て行く。
区画から離れ通用路に出ると速度を落とし、何食わぬ顔で歩き出した。その後ろで警報が響き渡る。駆け回る連中をよそに、チャーリィは悠々と外に出た。
彼の足はまっすぐ、雇用労働者の住むバラック群に向かった。それらが立ち並ぶ辺りから、急に道は粗雑化し、貧困と不衛生が澱んだ空気の中に充満する空間に変わった。
奴隷化した労働者の居住区というものは、それが地球上でも他の天体であっても、更にこうした特殊コロニーの中ですらも、みな一様に似たものとなるらしい。
一年中厚い雲に覆われたエプテ四でも、昼夜はある。夜ともなると、鼻の先すら見えぬほどの闇が被う。ジャングルの中で夜を迎えた彼は、樹木に寄生する夜光性の藻の仄かな燐光を頼って進んだのだ。
ドームの町では照明が闇を払っているが、労働者の住むスラム区は、そこだけ切り取られたかのように暗く闇に沈んでいた。
小屋群の中に入った彼は、まず、その暗さに目を慣らさなければならなかった。やがて、町や工場の照明をバックに、小屋の様子がぼんやりと浮かび上がってきた。
住人は連日の過酷な労働で泥のように眠り込んでおり、ことりともせず静かだった。
チャーリィは窓もない一つ一つの小屋を覗いていく。中は、細い通路とその両側に幾重にも重ねた寝棚の列だけで、他には何も無かった。
風呂にも入らない生物の体臭と長年重みを支え湿りきった寝床特有の匂いが、彼の鼻先にも漂ってくる。
暗がりに目を凝らしていくうちに、やっとお目当てが見つかった。彼は一つの寝棚の前で立ち止まり、眠り込んでいる男を揺り動かした。
「シャーリー、シャーリー。起きてくれ」
せっかくの眠りを無理やり起こされて、シャーリーはうるさそうに手を伸ばして払おうとした。
その手を取って顔を近づける。
「チャーリィだよ。チャーリィ・バトラー。チェイスのカードの」
シャーリーの顔にはっと理解の色が浮かんだ。
身を起こして暗がりで目を凝らし、確と見定めようとする。
「どうしてたんだ? ……ああ、あんたはうまくやってたんだっけな」
溜め息交じりの諦めの呟きになる。
「お前に話があるんだ」
チャーリィは彼を強引に引き摺り起こし、外へ連れ出した。
「シャーリー、お前、こんな所で短く人生終わりたくないだろう? 船を奪って逃げよう」
彼はびくりと、身体を強張らせた。
「あんた……」
その目が鋭く光りだし、急いで辺りを見回す。誰もいないことを確かめると、改めて訊ねてきた。
「まさか、俺を嵌める罠じゃねえだろうな?」
チャーリィの緑灰色の目は、探りを入れる彼の視線をしっかり受け止める。
ややあって、彼がためらいがちに訊いてきた。
「だがな、チャーリィ。そんな事ができると思うのか? 万が一にも、失敗したら……」
チャーリィはじっと相手を見つめる。
「どうせ、ここにいても働かされるだけ働いて死ぬだけだ。お前の好きな冒険もない。……最も、これは命がけだ。無理強いはしない。今すぐ、寝棚に戻って、何もかも忘れてくれたっていいんだ」
シャーリーは足下を見た。ブーツは泥がこびりついて穴が開き、傷みきって元の形も思い出せない。ズボンも上着も、ぼろ布が引っ掛かっているだけという有様だった。
鋭い葉に引き裂かれた傷が身体中に口を開け、今も痛い。アルカロイドの毒があちこちに熱をもった腫瘍を作っている。手足は蓄積した疲労で泥縄のようだ。
シャーリーはぺっと地面に唾を吐いた。
「ひでえもんだ」
そうさ、誰がこんな生活を続けたいものか。ずるずる半殺しのまま息をしているだけなら、いっそのこと、ばっさり死んだほうがましってものだ。
彼はチャーリィに右手を差し出した。
***
いつものように、原料の植物を刈り集める労働者達が、生気のない足取りでぞろぞろゲートから出て行った。門番は群れに一瞥もせず、最後の一人が出て行くと、ゲートを閉め控え室に下がった。
この時、一人一人を注意深く見ていれば、昨日助けた男が混じっていることに気がついたはずだ。
森の中に入ると、密生した植物群に遮られて、ゲートはすぐに視界から消えた。既に迷いかねない。彼らは黙々と散開し、木立ちの中に紛れ込んでいく。
現場までついて来る勤勉な……物好きな監督はいない。彼らの命を保障できるのは、ドームの中にしかないことを知っているからだ。
よしんば、帰ってきた人数が出て行った時より少なくとも、気にするに及ばない。彼らは消耗品であり、名前を名簿から消すだけだ。
『死亡』と。
本当は、それは、『負傷』とか『迷子』或いは『発狂』、ひょっとしたら『脱走』かもしれない。
だが、どの道遅かれ早かれ、それになってしまうのだ。ドームに戻ってこない限りは。
チャーリィは仲間達を一箇所に集めて、各々の顔を改めて念を押すように眺め回した。彼らはやつれた顔を緊張させながらも頷き返す。
チャーリィは無言のままあごで方角を示すと、先頭に立って歩き出した。その後を仲間が続く。
口元に薄笑いを浮かべ、目をぎらぎらと輝かせてシャーリーが行く。
貰った煙草の箱をポケットに確認して、いそいそと細長い足で続くグリーン人のシュリルル。
その後に、頬に裂けた傷を持つプリートがむっつりと。
最後尾は、ほとんど真四角な石人間のネグスとデグラ。チャーリィは、未だにこの二人の区別がつかない。
彼らの武器は、チャーリィの小さな特製ニードル銃――胸ポケットにもすっぽり隠れてしまう薄くて小さなこの銃は、見た目にはあまり頼りにならない感じだが、収束されたニードルビームは宇宙船の装甲に穴を開ける威力があり、手練れの彼が持つと恐るべき武器となる――の他には、葉を刈り取る為の手斧六丁しかなかった。
それで、宇宙船を一隻、分捕ろうというのだ。
***
密生する草をなぎ払って、ドームの周りを半周した彼らは、やっと宇宙船発着場が見える空き地まで辿り着いた。
空き地には、二隻の船が停泊している。どちらも発射台に乗り、準備の終了を待っている。
一隻は、通常の貨物船だ。
もう一隻は……チャーリィは唇を舐めた。貨物船の倍以上も大きな完全武装艦だった。
老朽船のカモフラージュもせず、ぴかぴかに輝くその船は、麻薬組織でも一級船なのだろう。
いよいよ連中はライルを連れて、この星を発つ気になったらしい。
大型船の周りは出発の準備で慌ただしく賑わっていた。員数の少ない辺境惑星のことだから、総員総出でそれに掛かっているはず。当然、貨物船のほうは手薄となっている。
思惑通りにチャンスを得たチャーリィは仲間に合図を送ると、作業服を脱ぎ捨て下に着ていたこざっぱりした服装になって、森から出て行く。
素早く宙港の中に入り、ぶらぶらしている非番の者のように、のんびりと貨物船に近づいた。
通常なら誰もいないであろう船の前に、警備員が銃を持ってぴりぴりとしていた。
麻薬組織の天下の世界にスパイが一人潜入し、彼らの鼻先で警報を全宇宙中に鳴り響かせたのだから、無理もない。
両手をズボンのポケットに突っ込んで、一杯気分でやってくるチャーリィを見て、警備員二名がさっと銃をあげた。
その銃先を覗き込むようにして、気軽に声をかける。
「やあ、たいした騒ぎだなあ」
屈託のない口調にふっと緊張を解いた一瞬の隙。ズボンのポケット越しに細いビームが二本、立て続けに発され、二人の心臓を直撃した。
警備員は声もあげずに即死する。
彼らに何の恨みもないのだが、やむを得なかった。
チャーリィは隠れ待つ仲間に合図を送り、警備員のビームライフルで援護体制を取りながら、連中が駆けて来るのを待つ。
シャーリーが先頭に、プリート、シュリルルと続いた。石人間の足が遅いので苛々する。
シャーリーがハッチの前に着いても、まだ、半分もこなせないでいた。
「転がってくりゃあいいんだ」
悪態をつくと、それを待っていたように基地の目敏い連中に発見された。
大声でわめいて、警備員やそこら中の人間どもの注意を引く。瞬く間に、銃を持った一個連隊が駆けて来て、華々しく撃ち始めた。
シャーリーに警備員のライフルを一つ持たせて、シュリルルと先に乗り込ませ、チャーリィが持っていたライフルはプリートに渡し、船を盾に二人で石人間の援護をする。
プリートはライフルの威力にものを言わせて連中を威嚇し、チャーリィは敵の右肩を正確に射抜く。
石人間が残りの距離をこなす十数秒が、やけに長く感じたが、どうにか無事に辿り着くと急いでハッチを閉じてしまう。
手動でも動かないようにドアを溶接し、やはり、のろのろと走る石人間を置いて、彼は通路を一挙に登って行った。
果たして、操縦室の手前で撃ち合っている音が聞こえてきた。銃声で、五、六人だなと、見当をつける。
通隔を曲がると射線が見えた。お互いに通路の角を盾に身を隠しながら、応酬している。
こちら側は、シャーリーとプリートだ。角の陰に緑の足が倒れているのが見えた。
くそっと唇を噛むとばっと飛び出し、射線の合間に見えた一人を倒す。シャーリーの傍らに走りながら立て続けに攻撃した。
相手の攻撃が増えたため、敵は後退した。そこへ、やっと石人間が追いつく。
チャーリィは猛然と攻撃をかけ、操縦室への道を開ける。ネグスとデグラは、どたどたと駆け込んで行った。
チャーリィ達は衝撃に備える。
船はいきなりニュートラルで出力全開に達し、そこから一気に、轟然と炎を噴き出して、大地の引力から身をもぎ放す。
四十Gの加速圧が彼らをなぎ倒した。
チャーリィ達が床に見えない力で押し潰され、肺の中から空気を根こそぎ搾り出されているうちにも、船は胴震いしながら、大気を焦がして宇宙へ飛び出して行った。
エプテ四の引力圏を遥かに脱すると、ネグスとデグラは船の加速を止めた。エプカトル系を飛び出してしまわないよう減速に掛かる。
宇宙の暴走族と異名を取る石人間達は、久し振りの操縦桿の感触に嬉しげに顔を見交わした。
彼らも種族の例に漏れず、スピードの出しすぎで或る惑星の大気に激突し、船を失って今に至っていたのだ。高速船を得れば、また、性懲りも無く同じような事故を起こしかねないだろう。
その頃やっと、チャーリィ達が息を吹き返した。アカデミーで鍛えただけあって彼が真っ先に気づく。
まず最初に、向こうに伸びている敵を見て、脅威にならないと判断。完全に不意を突かれた彼らは、重圧を不自然な体勢でもろに喰らったのだ。軽くても、骨折ぐらいはしているはず。
すぐに、シュリルルの所へ行く。案じていた通り、銃創が腹を突き抜け重体だった。高圧力下に晒されたのも響いている。
応急処置をしていると、プリートとシャーリーが起きてきた。敵の手当てを任せる。
敵六人のうち、二人は銃撃で死亡。一人は、突然の加速で、首の骨を折っていた。命があるうちの一人は、肺に肋骨が刺さって重体。残りの二人も骨折や打ち身で身動きもできない。
シャーリー達はその三人を船室の一つに監禁する。かなり手荒く扱ったようだ。
シュリルルが喘ぎながらチャーリィを見上げた。弱々しく微笑んで、苦しい息の下から喋ろうとする。
「チャーリィ……。オレ…やられちまったよ。……もう一度、あの土を……踏みたかった……な」
話しながら、胸のポケットを探ろうとする。チャーリィは煙草を取って火をつけ、彼の口に咥えさせてやった。
シュリルルは煙を吸ってむせた。もう一度、喘ぐように吸い込み目を閉じる。まぶたのない目から、涙がすうっと糸を引いて流れ落ちた。
「生き返る……よう……だ……」
それが最期だった。
チャーリィは後悔で胸を一杯にしながら、シュリルルの遺体を見つめた。彼が命を賭ける義理なんて、何処にもなかった。
プリートとシャーリーも側に来て黙祷する。短い間だったが、彼は仲間だったのだ。
***
シュリルルの遺体を宇宙葬にすると、チャーリィは操縦室にみんなを集めた。
「おかげで、エプテ四から脱出することができた。ありがとう。礼を言う。君達を治安の安定した通商基地へ送ろう。希望があったら言ってくれ」
シャーリーが訊ねた。
「あんたはどうするんだ? チャーリィ」
言い渋っていると、彼が重ねて聞いてきた。
「あんたは賭博師ではないな。何者なんだ? サツか? 何しに来たんだい? ……ま、女たらしは、本当かもしれないけどさ」
チャーリィは共に命を賭けてくれた仲間を見回して、彼らも本当の事を聞く権利はあるだろうと思った。
自分が、太陽系連邦政府の特務機関所属、銀河連盟太陽系連邦代表評議員――チャーリィ・オーエンであること、親友のバリヌール人ライル・フォンベルト・リザヌール博士が麻薬組織に誘拐されてエプテ四に監禁されていることを話した。
「……と、いうわけさ。言わば、君達を利用したんだ。でも、命を失うのはシュリルル一人でたくさんだ。あとは俺一人でやる」
すると、シャーリーが近づいてきてその肩にぽんと手を置いた。
「おい、そんな凄い冒険を、独り占めってこたぁないぜ。俺も混ぜてくれよ。仲間だもんなぁ」
プリートもバスの声を響かせて言った。
「俺には、別に身を案じてくれる家族もいない。どうせ、捨てる命だったら、あんたの、その、何とかって博士を助ける手伝いをしたっていいわけだ。少しは、世の役に立つ仕事もしてみたいぜ」
石人間の重たく掠れたデュエットが言ってきた。
「俺達は、船を飛ばしてさえいればいいんだ。それが、この船だって構わない。チャーリィ、あんたの役に立てれば嬉しいしね」
チャーリィは感激した。
それで、黙ったまま、目に万感の思いをこめて彼らの手を握り返した。
***
大型艦は追ってくる気配がなかった。それより、出発の準備のほうを優先させたらしい。彼らの出港も間近と見て、交代制でエプテ四周辺の空間構造振動と、発信波を見張っていた。
それほど、待つことはなかった。
二番目のシャーリーが、プリートと交替する前に、動きが現れた。シャーリーの知らせで、全員が操縦室に詰めかけた。
チャーリィが探知装置の焦点を合わせる。パトロール船との接触を警戒する麻薬組織の船は、こういう時、便利だった。大抵の探知装置類がぞろりと揃っている。
エプテ四を発った宇宙艦が銀河の奥を目指して疾走して行く。推力に使用しているインパルス・ノズルの噴射跡は、夜空に浮かぶネオンサインのようにくっきりと探知装置に跡を印す。
チャーリィ達は楽々と船の後を追って行った。
そして、連中が打ち上げ花火のような構造振動を残して亜空間に滑り込むと、すかさず、彼らもその後に続いた。
ますますスペースオペラです><