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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第3部 異次元界は侵略者でいっぱい
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ガルド、銀河種族代表者会議で

「当ビラ人のケグル担当商船がビビラル宇宙ポートに姿を現した時、船は薄緑色のベールに覆われていたそうです。おそらく、乗員はすでに全員感染して操縦できる状態ではなかったのでしょう。ポートに頭から墜落したのです。ひどい惨状でした」


 ガルド第六惑星の大会議場には、いつになく深刻な空気が張り詰めていた。カルタス人の調査官の報告に、銀河諸国連合組織を推進しようとしている銀河種族の代表者達が耳を傾けていた。


「その船から発していた薄緑色のベールは消えていなかった。消火活動を行った職員が触れて感染し、そのあとは……結局、ケグル担当商船が帰港したビラ星が第二次感染し、そこから発して、アルメ星、ユーグレス星、オデッサ第二惑星にも波及しました。それらの世界は方々の世界へと幅広く通商を行っているので、さらに、第四次、第五次の感染の恐れがあり、多くの犠牲が出ているものと思われます。汚染された惑星には特有の毒性の高いガスが発生するので、それを指標に確認を急いでいるところです」


 その後を水生種族のセリシス人保安担当官が引き継ぐ。


「現在のところ、確認された惑星及び星系は封鎖Aクラス処分を適用し、調査班を派遣しました。成果を待っているところです」


 一同が重い表情で頷く。調査班のクリンクリスト人技術長が報告した。


「これまでに判明した事を述べますと、生物個体の変異には、毒性のガスが深く関係していることが証明されております。データ14、15をご覧ください」


 ここで委員達は、手元のファイルまたは、ディスプレイのビューアに見入り、盲目のググレレ人は感応装置からその不可思議の脳の中へ電子的な囁きを聞き、在る者は重い溶液中に霧のように浮かぶ固形気体の図表を読んだ。


「そのデータから解りますように、ガス――科学技術部では『フィールド』と表現していますが、それに一定期間以上、もしくは一定量以上接触しますと、変異が現れます。変異は肉体、精神の全般に渡って著しく現れるもので、凶暴化し破壊行動に走ります。肉体の変化は生物の種類によって異なりますが、何れも醜悪に歪み邪悪な姿に変わります。代謝機能は低下し、個体細胞は硬化します。変異後は一滴の水も食事も取ることなく、体細胞は再生増殖を止め、最後の一つが消耗し尽すまで、逆説的ではありますが、まるで不死身であるかのように活動するのです」


 そこで、録画の映像が公開された。

 かつて、穏やかな種族が生活していた惑星上に、牙を剥き出した殺人鬼がうろつきまわっている。形相凄まじい怪物が、かつての住人の変わり果てた姿だとは誰も即座に理解できなかった。


 怪物らは生け贄を求めてゆらゆら此方に向かってきた。ホログラフィー上にビームの輝きが幾条も走り、怪物の上に炸裂する。それは、見ている者達にまで臭いや煙が感じられるような気がするほどの強烈なものだった。


 が、ビームの止んだ後、頭や手を吹き飛ばされ胸や腹に大きな穴を開け、全身が炭のように黒焦げになりながら、なおも、燃え残りの腕を肩からぶら下げて此方へ迫り来る。足を砕かれた怪物は匍匐してなおも前進してきた。


 ホログラフィーがあまりにも見事に再生したので、まるで自分達のほうへ襲い掛かってくるような錯覚さえ与えた。

 議員達の中には、恐怖と嫌悪で思わず立ち上がる者、悲鳴を上げる者も少なくなかった。吐き気を堪えることができない者もいた。



 その時、場面が一転して調査班を映し出した。人々は始め、何が起こっているか解らなかった。しかし、徐々に恐ろしい事実に気づきだす。

 怪物を攻撃した彼ら自身が変化し始めていたのだ。苦しみ悶えながら、信じられぬほど歪んでいく。急に映像が大きく揺れ、突然に消えた。




 委員の面々は生々しい映像を前に声もなく凍り付く。その氷のような沈黙を破って、カルタス人調査官が再び話し出した。


「変異した者は、もとはどんな生物であれ、どんな形態的変化を遂げたものであれ、極めて非論理的表現ではありますが、それは、既に命の失われた屍、死体の暴徒であると、いいたい。少なくとも、我々の常識では、彼らは死んだ状態なのです」


 調査官の言葉に議場の人々は呻き、一層、陰鬱になった。

 調査官の後を引き継いで、ガルド人科学部長が報告の為に立ち上がった。


「ただ今ご覧になった映像で察せられると思いますが、現地に派遣された調査班は全て、この忌まわしい変異の犠牲になりました。しかし、彼らは、意識の消え失せるまでの献身的な努力によって、収集でき得る限りのデータを送ってくれました」


 次いで、その貴重な報告を続け、さらに一連のドローン投入による観察・分析のデータを表示した。


「以上が、今、私達で分析得る全てです。これ以上の事は判明させる事はできません。我々の技術・知識では不可能なのです。そのフィールドは、変異体自身の細胞もしくは精神エネルギー及びそれに類するものではありません。その一部には何らかの供給を行っているものと思われますが、フィールド自体は、先ほど述べましたように、それが何であるか我々には突き止めることができない。まして、フィールドの如何なる作用によって、生物を変異せしめるのか、それはかいもく解らないのです」


 科学部長が着席すると、議員の一人が重い液体の中でぼそりと感想を告げた。


「つまり、さっぱり解らないと言う事ではないか。どれもできない、わからないことばかりだ」


 誰もがうつうつたる中に口を閉ざし、重苦しい沈黙が拡がった。

 やがて、ガルドのトゥール・ラン提督が、重々しい咳払いをして立ち上がった。


「諸君。現状は聞いての通りなのだ。我々は最善の処置をとってはいるが、それでも我々にできることは、保安担当官が報告したような事以外にさほど無いのだ。その上、波及率はかくのごとく高く、そのフィールドは拡大する一方だ。このままでは、遠からぬ内に、恐るべきフィールドが星々の間をも覆い、やがては銀河は滅亡するだろう。どうか、諸君の卓越した明察を伺いたい」


 ざわざわと言う声が高まり、数百名あまりの議員の占める議場はウワーンと轟き唸った。そして、その響音の中から一つの名前が囁かれ始め、遂には全員の声がその名を唱和していた。


「バリヌールのライル・フォンベルト・リザヌールを!」

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