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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第2部 ミルキーウェイは宇宙船でいっぱい
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勇 闘う

勇君の活躍するお話です

 荒涼とした世界に風が悲しげな叫びを上げていた。以前は、豊かな文明を誇っていたのだろう。その名残が、見捨てられ朽ちるままになっている石造りの廃墟に漂っていた。


 都市を作らず、恵まれた自然の中で美と芸術を追求し続けた種族だった。

 集中都市形態を取らなかったので、機械文明は育たず社会経済も停滞したものだったろう。

 しかし、彼らの生活は豊かで幸せだったに違いない。




 そこへ、恐るべき暴力が襲ったのだ。彼らは一溜まりもなかったろう。襲撃者はプリトー人と違って、仮借ない手段を用いていた。


「中性子の一斉照射だ。生物は全滅だ」


 トゥール・ランが怒りを抑えながら、唸るように言葉を吐き出した。



 残存放射能は消去されたとみえ、それほど高くない。しかし、所々消去しきれていない地点では、β放射能が赤々と燃え上がる真昼の太陽のように検出されている。


 あちらこちらに点在して立ち残っている鱗木質の大木に勇が手を触れると、それはぱさりと音も立てずに崩れ、塵となって風に吹かれていった。


「こんな凄まじい放射能をきれいに消去できる科学力は……。多分、バリヌールの技術だ。誰だか知らんが、こんな無残な事に使いやがって!」


 トゥール・ランが口裂を耳まで捲くれ上がらせ、鋭い牙を根元まで剥き出す様子が、透明なヘルメットを通して見えた。

 勇はそれを見ても恐ろしいとは感じなかった。自分も険しい表情をしているはず。



 鬱蒼としていたであろう森は、何本かの悲しい木の化石となり、海や沼は分解することのない有機物を満たしたまま窒息していた。




 彼らの立っている足下に連続的な振動が、地の底を伝って響いている。

 この先に巨大なプラントが稼動していた。住民の豊かな生活を保障していた豊富な資源が、侵略者を引き寄せたのだ。



 これからトゥール・ランと勇を含む数人の部隊で、プラントを接収しようとしているのである。ガルド人は勇が目を見張るほどの非常に訓練された戦士だった。


 大きな岩の陰から黒く不吉に輝く山のような機械の集合体を睨みながら、勇はトゥール・ラン達がちゃんと作戦の目的を忘れずにいてくれたら良いのだが、と思った。

 敵の顔を見たら、即座に叩き潰してしまうんじゃないかと危ぶむ。


 それ程、彼らは敵を前にして興奮し、殺気で猛り狂っている。

 いつものことだが、確かにライルの選択は正しかった。嵌まり過ぎているきらいさえある。



 無言の合図でプラントに突進する。人っ子一人いない世界なのだから、敵は油断しているはず。だが、用心は怠らない。


 ガルド人は猫科の素早さとしなやかさで、もうプラントに取り付いていた。

 感心して見ていた勇も急いで後を追う。その背のバッグパックの下に、愛刀の正宗を背負っている。今回は勇も本気で闘う覚悟だった。




 剥き出しの巨大な機械類の作動音が辺り一帯を振動させていた。地面がずずっと揺れる。地殻の奥まで掘り進み、鉱脈を貪欲に貪っているのだ。


 見上げるような機械の林立で、中は洞窟のようだった。全て自動化されているのだろう。人の気配がしない。だが、何処かに機械群を管理している所があるはずだった。


 鉱脈を掘り精錬して加工する一連の工場の向こうに、雨風を凌ぐだけの囲いに覆われた工場が続く。プラントの目的はそこにあるのだ。


 重力は地球の1.2倍。2G出身のガルド人は踊るような身のこなしでその壁に張り付くと、音も立てずにコンベアの隙間から中に入っていく。

 こんな所であの連中を敵に回す相手が、ひどく不運に思えてくる。



 中は薄暗かった。表の工場から送られてくる資材を切断したり、曲げたりする機械の騒音で、ヘルメット内の通信機の声さえ、聞き取れないほどだった。

 何かの部品らしい。特殊化されていて、メカには詳しいつもりの勇にも見当がつかない。


 奥に階段があり、その上に扉らしいものが見える。

 トゥール・ラン達三人がそこを上って行く。二人が下に残り、武器を構えて援護体制を取る。彼らは足音を立てないが、例え立てたとしても聞かれる心配は無用だった。



 彼らは扉が開くかどうか、試す気は無かった。いきなり、手にした破壊的な武器をぶっぱなし、扉を吹き飛ばしたのだ。


 勇があっと、止める間もなかった。

 鉛の扉である。放射能を恐れていたのかもしれない。


 中の連中がここの大気に致命的だったら、どうする気なんだと思うと、腹を立てて勇は後に続いて飛び込んだ。




 異星人は四人。いきなりの乱入者に対し、ひるむことなく迎え撃ってきた。


 背丈はガルド人ほどなかったが、胴回りと手の数でそれを補っていた。加えて、肩や肘に爪型の角が生えていて、それを有効に使う。


 狭い室内の乱闘となったので、どちらも銃を使用する気はないらしい。

 敵が百%存分に闘えるのに、ガルド人達は、宇宙服やヘルメットが邪魔になっていた。彼らは、ついにヘルメットを後ろに撥ね除け、自分達の生来の武器である牙と爪も使い出した。



 トゥール・ラン達がヘルメットを捨てるのを横目で見ながら、勇は襲い掛かってきた鱗のある怪物をかわす。そのまま背の正宗を抜くと峰を返して流れる体に打ち下ろす。


 確かに手応えがあったと見たのに、そいつはくるりと振り向くと唸り声を上げて十本の長い腕を振り上げてきた。

 素早く三本の腕を落とし、一本を使用不能にしたが、彼も胸と肩を裂かれた。


 勇はまどろっこしい気密性のグローブを外すと、鋭い一刀を相手の長い胴に放つ。

 刀の峰が深々と胴の中に沈んだ。相手は体を二つに折り曲げ、緑色の液体を吐いた。

 すかさず残りの腕の半分の骨を折り、残りは腕の付け根から落としてしまう。



 その怪物が戦意を喪失すると、勇は刃の血糊を払って背中の鞘に納め、辺りを見回した。

 下で援護していた二人も駆けつけたので、さしもの怪物的な異星人も黄色い体液を流して、全員床に伏せられていた。


 ガルド人達が大きな口を開け、親しげに笑っていた。彼らも青い血を流していたが、満足そうだった。


 体液やら血やらでぬるぬるする床を歩いて、トゥール・ランが勇の側へ来た。

 手を差し伸べてくる。そのサインは勇にもお馴染みのもの。勇はトゥール・ランの手を握り返した。


「お見事! ソル人! たいしたもんだ。君のような華奢な種族がこれほど戦えるとは、思ってもいなかった。牙も爪も無いのに」


 トゥール・ランは、勇の日本刀を不思議そうに眺めた。


「こんなに繊細な武器で頑丈な腕をバターのように切り落とすんだからな。驚いたね」

「訓練したのですよ。誰もができるわけではありません。俺は、軍人だから」


 勇は照れて手を引っ込めた。称賛は苦手なのだ。グローブを拾い身につける。

 トゥール・ランは床にへたばり込んでいる異星人に向き直った。


「さてと、確かきさま等は、嫌らしいゲルログ人だったな。きさま等は自分達の事を『大地の神々』と呼んでいるようだがな。これで、少しは、ガルド人に手向かったりすると、どんな目に遭うか解ったろう。最低の盗人野郎め。きさま等が、人のいいバリヌール人をどんな風に騙して彼らの技術を手に入れたか、わたしは知っているんだぞ。全く、くそったれめ。きさま等が此処でどんなことをしたか、わたしはとても彼に話すことなどできやしない。だが、まず、我々に答えてもらおうか」 

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