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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第2部 ミルキーウェイは宇宙船でいっぱい
23/109

ガルド星

いよいよ宇宙に

その第一歩は、ガルド星

 ライルはがぜん忙しくなったが、チャーリィはその合間をぬって頻繁に彼の家に押しかけた。


 ライルとキスしてから、彼はガールフレンドとデートをしていても、今までのように熱中できなくなっていたのだ。女の子は好きなのだけれど、ふと気づくとライルの事を考えていたりする。

 これはやばいんじゃないかと思うのだが、彼の顔を見ていると落ち着くのだ。




 国防省のトイレで彼からキスを奪って十日経ったこの夜も、チャーリィはライルの部屋を訪ねていた。

 彼はPCに向かって、科学技術者用のマニュアルを作っている。チャーリィは部屋の主を無視してベッドに寄りかかり、彼の横顔を肴に持ち込んだウイスキーで勝手に寛いでいた。


 ライルは暫く辛抱していたようだが、遂にPCから顔を上げるとチャーリィのほうにやってきた。


「チャーリィ、酒を飲むなら、あっちの部屋に行って飲んでくれ。アルコールの気体が部屋中に広がっているじゃないか。僕はアルコールは駄目なんだ」

「どうして? どんな風に駄目なんだ?」


 チャーリィはふてくされて駄々をこねるように訊いた。それに対し、ライルはあくまでも真面目に説明してくる。


「アルコールは僕には強すぎるんだよ。過度な反応を起こす。ずっと昔から、バリヌール人は、いわゆる酒というものを飲まないんだ」

「解った。これで、止める」


 チャーリィは一口含むとコップを置いた。そして、油断しきっているライルを捕まえると、含んだ酒を口に移した。

 あっとライルの目が大きく見開かれたが、酒はこくんと彼の喉に流れ落ちてしまった。


 反応は早かった。たちまちぼおっと彼の顔が桜色に染まる。ほんの僅かな一口なのに、もう目がとろんとして、肢体全体もしどけなく緩んでくる。


「ひどいな。チャーリィ……」


 抗議する口調も甘く物憂げだった。

 カーペットを敷き詰めた床にペタリと座り込んだライルは、チャーリィの目にひどく色っぽい女に写る。


 抱きたい! と、強烈な欲望を感じて、チャーリィは慌てた。ほんの冗談のつもりだったのだ。ライルの悩ましい姿態から意識を逸らそうと、必死で話題を捜す。


「ラ、ライル、プリトー人が言っていたけど、宇宙を航行できる種族ってのは、かなりいるのか?」

「そうだね。ん……。正確な数はわからないけれど、僕達が知っているだけでも、二万は超える。その中で、真の意味で宇宙航行種族と云えるのは、五千くらいだろうか」


 ライルは眠そうに、チャーリィの横に来てベッドに背を預けた。肩が触れると、無意識にチャーリィの肩に寄りかかってきた。そのまま眠り込んでしまいそうである。


「バルヌール人は、そのほとんどと交流があったのか?」


 うとうととし始めている彼を、肩で小突いて聞く。目を瞬きながら返事を返した。


「ああ……。みんな友達だった。いつも、歓迎してくれたよ。……チャーリィ、眠い……」

「眠るなよ」


 チャーリィは焦って揺さぶる。今、無抵抗に眠られたら、彼は自分の自制力に自信が持てない。


「プリトー人のお前に対する態度を見ていると、バリヌール人ってのは、相当敬意を払われているみたいだな。他の連中もそうなのか?」

「古い種族だから。彼等が困っている時、少しばかり援助したこともあったし……」


 チャーリィの頭の中に、突拍子もないアイデアが浮かんだ。

 彼が突然ぱっと身を起こしたので、寄りかかっていたライルが拍子にベッドの枠に頭をぶつけた。


「痛い!」


 ライルが抗議したが、彼はそれを無視して紫の目を覗き込んだ。


「『至上者』は、俺達だけの問題じゃない。そのうち銀河中の問題になるだろう。地球は微力だし。いくらお前がいろいろ教えてくれたって、どれほど物にできるか解らない。連中に助けを求められないか? もちろん後で借りができて、地球の不利になったりしないように、お前がうまく説得するんだ。『バリヌール人』ならできるだろう」

「何がいいたいんだ?」


 ライルの目が覚め、しゃんとなる。


「簡単な事だ。みんなに、『至上者』と戦ってくれって言うのさ。きっと、みんな、うんって云ってくれるぜ。そして、銀河の平和を脅かす侵略者をやっつけるんだ」

「小説の読みすぎだよ。物事はそんなに単純じゃない」


 彼は呆れて言った。しかし、チャーリィは真剣だった。


「いや、いいと思うぞ。お前は復讐できるし。ああ、お前にその気がないのは知ってるよ。だけど、真剣に考えてみてくれ。連中を説得できたら、『至上者』がどれほど強大でも勝てるかもしれない。誰に呼びかけたらいいかは、お前が知っているだろう?」

「それで、銀河中を戦争に巻き込んでいくというのか? 破壊と消耗しか得られない、最も忌むべき戦争へと。その火付け役を僕にやれと云うのか?」


 ライルの声には怒りは無く、むしろ悲しげですらあった。


「まさしくその通りだ。それがお前の果たすべき役だ。銀河中がそれを待っているはずだ。お前にはどうあっても、やってもらわねばならん」

「……少し、考えさせてくれ。君達はどうしてそう、無理な注文ばかりしてくるんだ」


 ライルはそう云ったが、チャーリィは最後には彼が承知するだろうという確信があった。


 ***


 ライルは地球代表としての同伴者に、チャーリィと勇を望んだ。チャーリィ達には異存はなかった。当局もLICのチームワークを知っていたし、候補生ながら既に一人前の士官の働きができると評価してもいた。


 チャーリィは将来有能な外交官となりそうな素質を既に示していたし、勇は筋金入りの軍人だった。何よりも、異星人のライルと問題なく付き合えると云う点で、他に選択の余地がなかったのだ。


 さらにギアソン地球防衛長官が後押しをして、ついに決定となった。

 ただ、一人、ミーナが文句をつけた。


「わたしはパイロットよ。私を連れて行かなきゃ始まらないじゃない」


 しかし、今回はライルが操縦席に着き、しかも地球人にはまだ手に負えない技術とあって、ミーナは悔しそうに引き下がるしかなかった。


「後できっと追いかけるから!」


 ***


 見送りのゲートで彼女が叫んだ言葉が、まだ耳に残っている。ミーナは俺に嫉妬しているのかもしれないとチャーリィは思う。


 

 ライルが通信装置のスイッチを入れ話し始めたので、チャーリィは我に返った。ガルド星の言葉である。

 チャーリィと勇は、ライルの指導のもとでこの宇宙旅行中ずっと修得しようと努力してきたのである。

 彼は厳しい教師だった。ミスをすると遠慮なく叱りつける。怒鳴るのではないが、地球人的なこまやかな情緒的配慮に欠陥があるので、胸にぐさりとくる事を平気で言ってのける。彼らは百回も撃沈したような気がしたもの。


 だが、その特訓の成果があったのか、今、彼が話している言葉が難なく理解できた。


「ガルドの友人に通信を望む。私はバリヌールのライル・リザヌール。ガルドを訪問したい。管制誘導を要求する」


 通信は三度繰り返すことはなかった。通信機の受像セクションに回線が入り、スクリーンに映像が現れた。

 チャーリィは思わず席から飛び出だして、何処かに隠れるところはないかときょろきょろした。



 スクリーンから、今にも乗り出して来そうな感じで、巨大な虎が睨んでいた。



 よく見ると、もちろん虎などでは無いのは知れる。スマートな黄色と茶色の服も着ている。しかし、虎などよりもっと物騒な気がする。


 鋭く切れ上がった眼孔は金色に輝き、黒い線のような瞳が、油断無く見つめてきた。

 とがった鼻腔の下に、裂口が顔を二つに裂いていた。その耳元まで開いた口裂の間から、灰色熊も一噛みで引き裂いてしまいそうな恐ろしげな牙の列がのぞいている。


 耳と見たのは、実際は細い感覚器官のうごめく束だった。その繊細な器官で信じられないような微かな物音や空気の流れなどを感じ取るのだ。


 顔全体にびっしりと水色と黒の毛が生えており、鼻筋から頭部にかけて紺色と黒の縦模様の毛が次第に長くなりながら頭部の後ろではたてがみとなって、服の中に隠れていく。そのたてがみは、今しもこちらに向けて挙げられた手の服の下から、その甲にまで生えつながっていた。


 巨きな頑丈そうな手の六本の指の先には、猛禽類のような破壊的な鉤爪が伸びている。その爪が届く範囲から、更に十メートルは離れていたいと思った。


 だが、画面から注がれる彼の視線は知性に溢れていた。


「ライル・リザヌールを名乗る者はお前か。バリヌール人はもう、この宇宙に存在しないことを知っていての暴言か?」

「トゥール・ラン。久し振りだ。あなたと二人だけでこっそり抜け出し、ギモル狩りに行った時の事は忘れないよ。僕が初めて目にした殺害行為だった。あの後、僕が一週間もショックを受けていたことなど、あなたは知るまいね」


 虎に似た生物の目が驚きに見開かれた。まじまじと見つめてくる。


「あの時、ライルはひどく吐いて……。しかし、あれは、誰にも話さなかったはず。二人の秘密だった。君は……。まさか……。そんなことが……」


 ガルド人の中でも勇猛で知られるトゥール・ラン提督の突き刺すような鋭い視線を、彼は涼しい顔で受け止め返した。


「その目は……。その紫の目は、バリヌール人のもの。姿形こそ違っているが……それでも、それほど変わっているわけではない」


 いきなり、虎の中で歓喜の爆発が生じた。


「ライル! ライル・リザヌール! 生きていたのか! 何てことだ! 着陸許可だって? 何をぐずぐずしてるんだ! 直ぐビーコンを出させよう。貴様! 位置は捉えているんだろう? 直ぐに修正軌道を出せ! 何を手間どっとる? 貴様、何年管制官をやってるんだ!」


 彼らには見えない方角に怒鳴っているトゥール・ランにライルが穏やかに言った。


「トゥール・ラン、僕は公式訪問としてやってきた。僕の仲間を紹介する。チャーリィ・オーエンと近藤勇。地球人だ」


 ライルはすっと下がって、二人を紹介する。

 トゥール・ランは目を細めて興奮を鎮めた。


「始めまして、地球の方。ふむ、ライル、君はその地球人の姿を借りているのだな」

「借りているのではない。これが、僕の今の姿だ。僕は地球人になったのだ」

「ふん。ライル、君がどんな姿に変態しようと、君がバリヌール人であることは変わらないよ。我々は何時でも貴方の訪問を心から歓迎する。早く来たまえ。一分でも待ちきれない思いだよ」


 彼はライルの言葉を一蹴し、両目をつぶって見せると通信を切った。きっと、大慌ててライルの歓迎準備に取り掛かるのに違いない。


「親しいんだな。あの虎は、お前の何なんだ?」


 チャーリィの言葉の裏に含まれたものに気づいて、勇は眉を上げて顔を見た。

 しかし、ライルは一向に気づいていなかった。


「彼は当時、外交担当で、訪問客の世話と安全を仕事としていた。異星人の遺伝子をもっている僕を、毛色の変わったバリヌール人だと思っていたのだろう。よく、僕を連れ出して色々な所に案内してくれたんだ。大抵は楽しかったけれど、時には僕をぞっとさせることもあった。そのギモル狩りのようにね」

「お前は、ガキの頃から意気地がなかったんだな。で、そのギモル狩りってなんだ?」

「無意味な殺戮だ。彼らはスポーツだと言っているけれどね」


 ライルは身を震わせると話を打ち切った。十四年経った今でも、思い出すと激しい拒否反応が起こる。


「ライル、ビーコンだ。指針をこいつに合わせればいいんだな?」


 勇がコンソールに指を伸ばしながら訊いて来た。彼はこの驚異の機械類をいじり回したくてたまらない。

 ライルは彼の背後に立つと、黙って促した。許可を得た彼は嬉々として指を躍らせた。チャーリィはぞっとした顔でそれを見守る。




 ビーコンの案内に導かれて、広大な異星の宇宙港にほっそりした卵型の船が、静かにそっと着陸した。勇だって、やろうと思えばこれほどに慎重な操縦もできるのだ。


 周りにはライルの小さな船など、蟻粒にしてしまう巨大な宇宙船がそびえ、或いは、勇が開いた口を閉めるのを忘れる程の、底知れぬ戦闘力を秘めた軍艦が始動を待っていた。

 チャーリィが口笛を吹きたくなるような『いかした』客船もある。実に様々な宇宙船が、ガルド人の宇宙種族としての繁栄を示唆していた。


 彼らの船は、その規模の割にはかなりのスペースを提供されていた。その上、既に歓迎委員会ができていて、船が着陸すると、迎えの一団が駆けつけてきた。

 その先頭に、先ほど通信画面で出会ったトゥール・ラン提督が実体で立っていた。

若さを持て余すチャーリィ氏の葛藤が続きます

モフモフ提督ですね

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