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清一の回想_異世界1(清一視点)

 満州の最前線だった。

 乾いた銃声が響き、こちらへと飛んでくる弾丸に気づいた瞬間、俺はとっさに目をつぶった。


 痛みを覚悟した刹那、まぶたの裏に焼き付くような強烈な光が走る。全身を叩きつけるような風に包まれ、呼吸さえ奪われる。

 しばらく経っても、痛みは来ない。


 恐る恐る目を開けると、そこは戦場ではなかった。


 白亜の壁に荘厳な装飾、天井からは重々しい光が降り注ぎ、俺はその中央で膝をついていた。

 周囲を取り囲むのは、年齢も性別もさまざまな見知らぬ人々。誰もが異国めいた髪や瞳をしていて、日本人の姿はひとりもない。


 ――捕まったのか?

  敵の捕虜にでも……?


 そう思ったとき、ひときわ豪奢な衣をまとった年配の男が、朗々と声を響かせた。


「ようこそおいでくださいました、聖騎士様」


 言葉は不思議と理解できる。しかし、意味がまるで頭に入らない。


「……ここはどこだ。俺は捕まったのか。他の日本兵はどこだ」


 問いかけても、誰も答えない。訝しげに周囲を見渡す俺に、男は静かに言葉を続けた。


「あなた様は、神託に則り召喚されたのです、聖騎士様」


「召喚……?」


 理解の及ばぬ言葉に、思わず吐き捨てる。


「……俺は、捕虜になったんじゃないのか」


「いいえ。あなた様にはこれより、この世界でドラゴンを討伐していただきます」


「ドラゴン……一体何を言っている」


 冗談だろう。馬鹿馬鹿しい。


「ここは、どこだ」


 再度問い詰める俺に、男はしばし思案し、やがて重々しく告げた。


「聖騎士様のもといた世界とは異なります。あなた様から見れば、ここは“異世界”です」


「……異世界だと……?」


 信じられるはずがない。だが周囲の者たちは一様に真剣で、誰ひとり否定の色を浮かべていない。胸に嫌な予感が広がる。


「我々はドラゴンの瘴気により国土を奪われ、多くの民を失ってきました。滅びを目前にした我らを救う存在――それが神託に示された『聖騎士様』なのです」


 男は、まるでおとぎ話のようなことをつらつらと話し始めた。


 「神託が降りたのは、二十年前のことです。

『聖騎士様がお生まれになった。二十年の時を経て召喚せよ』と。

 私たちはひたすらにこのときを待ち、ようやく今、あなた様をこちらの世界にお連れすることが出来たのです」


 夢物語のような言葉の羅列を、男は真顔で告げる。

 俺は銃弾に倒れて夢でも見ているのか。

 思わず頬を叩くも、現実の感覚でしかない。


「そんな話が信じられるか……いい加減にしてくれ」


 吐き捨てても、彼らの眼差しは揺るがない。


 「あなた様には、他の者が持たない特別な力があるはずです」


 言い当てられ、俺はとっさに固まってしまう。


 「あなた様が聖騎士様と呼ばれる所以でございます」


 「……勝手なことを」


「聖騎士様、どうか……ドラゴンを討伐してください」


「……まだ言うか。ドラゴンが何だと言うんだ」


「ドラゴンを討伐してください」


「黙れ」


「どうか……どうか、ドラゴンを討伐してください」


 繰り返される言葉に、頭が狂いそうだった。現実と噛み合わぬ会話。戦場から引き離され、知らぬ世界に立たされているという不条理。


「……お願いです、聖騎士様、ドラゴンを討伐してください」


 豪奢な男の目から、静かに涙がこぼれた。


「解ったから、黙ってくれ……泣きたいのはこっちだ」


 俺は吐き捨てるように呟いた。


 わけも分からず異世界に放り込まれ、現実離れした環境に置かれて。俺はここからどうやって帰ればいいというのか。

 残してきた百合子さんへの思いが、俺の胸を締め付けていた。

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