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お見合いと公爵の乱入(エマ視点)

「お加減はいかがですか?」


 席に着いた直後、リーリエ伯爵は、そうお尋ねくださいました。

 落ち着いた低い声。けれど、その声音には明確な“気遣い”がにじんでいて、少しだけ胸が温かくなります。


「おかげさまで……今日は咳も少なく、穏やかに過ごせておりますの」


 私はにこりと微笑みました。まるで日向に干したお布団のような笑顔を目指して、ですが、うまくできていたかは分かりません。


「そうですか。それは何よりです」


 伯爵様は小さく頷いて、それ以上詮索することはなさいませんでした。

 沈黙――けれど、居心地の悪いものではありません。


 窓辺から射す午後の光。

 温かいお茶の香り。

 ゆっくりとした時の流れ。


 まるで、前世で縁側に座っていたころのよう。


「……お庭の畑に、ジャガイモを植えましたのよ」


 私が何気なく話しはじめると、伯爵様の眉がかすかに動きました。


「……ジャガイモ、ですか」


「はい。少し前に、初物の芽が出ましたの。あれが顔を出すと、なんだか可愛らしくて……ふふ、変な話ですけれど」


「……いえ。そういう感性は、大切なものだと思います」


 不器用なほど真っ直ぐに、そう仰ってくださる伯爵様。

 やはり、噂どおりの誠実な方のようです。


(……あぁ。似ていらっしゃる。でも、違う。だけど……)


 気がつけば、胸の中に、ぽっと灯がともっていました。

 慎ましく、静かな光。それは懐かしい火種とは違う、新しい何かのようで――


 ──そのときでした。


「おーい! やってるかね、やってるかね!」


 貴賓室の扉が勢いよく開かれ、威風堂々たる体格の男性がずかずかと入ってきました。

 金色の髪、赤い顔、声は大きく、態度も大きい。


「お父様……!」


「グランフォード公爵……!」


 私と伯爵様の声が重なりました。


「いやぁいやぁ、娘の顔色がよかったから安心したぞ! セイル、どうだ、うちのエマは可愛いだろう? ちと地味だが、いい子でのう!」


「お父様、そんないきなり……っ」


「はっはっはっ、まあまあ! 固いこと言いっこなしだ! いいかねセイル、この子はな、好きな食べ物が“梅干しと白米”っていうんだぞ!」


「お、お父様……っ!」


(やめて、言わないで!)


「しかもだな、ロマンス小説が好きでな、“こっそり涙ぐむのが楽しい”とか言って読んでるんだ! 可愛いだろう!」


 私は顔が真っ赤になり、うつむくしかありません。


 ちら、と隣を見れば、伯爵様は明らかに困った顔をしておられました。

 でも――笑っておられないけれど、その瞳の奥が、少しだけ和らいでいる気がしました。


「グランフォード公爵。……娘君のご趣味は、たいへん、趣深いものだと思います」


 そう言った伯爵様の声は、どこまでもまっすぐで、どこまでも優しくて。

 私はその一言に、また少し――心が、ほどけてしまったのでした。

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