再会のような初対面(エマ視点)
リーリエ伯爵とは、これまでお会いしたことがありませんでした。
けれど、そのお噂なら、いやというほど耳にしております。
父であるグランフォード公爵の戦友であり、かのドラゴン討伐にて名を馳せられた聖騎士。
年齢は父よりも幾分か若いものの、すでに壮年の域。
性格は、実直で誠実。けれど、少々――いえ、かなり――ご趣味に偏りがあるとのこと。
曰く、「絵画に描かれた女性を、まるで妻のように慈しんでおられる」と。
まぁしかし、妙齢の殿方が独り身ともなれば、世間というものは何かと噂を好むもの。
実際にお会いしてみれば、その人となりも少しはわかるでしょう。
私は、静かに胸を撫で下ろすような気持ちで、貴賓室の前に立ちました。
今日はリーリエ伯爵との初対面の日。私は呼吸の乱れを正します。
扉が開かれ、視界に飛び込んできたのは――
……そこに、いたのです。
あの人が。
「……清一さん……?」
思わず、声が漏れていました。
一瞬で、心が過去へとさらわれました。
前世の、あの暖かくて、けれど切ない日々。
名前を呼ぶことすら恐れ、けれど心は常にその人を追っていた、あの時間。
気がつくと、私は……涙を流していました。
「……あれ?」
「お嬢様!」「どうなさったのです!?」「もしやご気分が優れませんか!?」
わらわらと集まる侍女たちに、私は慌てて袖で目元を押さえました。
「いえ……目に、ゴミが入っただけですの」
――少々、苦しい言い訳。
けれど、あの方の前で泣いているところなど、あまりにみっともない。
そっと顔を上げると、リーリエ伯爵は心配そうに私を見つめておられました。
――ああ、よく似ていらっしゃる。
でも、あの方ではない。
清一さんが生きていて、年を重ねていたなら、きっとこんなお姿だったでしょう……。
私は気を取り直して、スカートの裾をつまみ、令嬢としての礼を尽くしました。
「エマ・グランフォードでございます。伯爵様、どうぞよろしくお願いいたします」
その言葉に、彼――リーリエ伯爵は、ゆっくりと膝をつき、私の前に跪きました。
「セイル・リーリエでございます、グランフォード令嬢。この度は、私のような歳を重ねた者に、あなたの貴重なお時間をくださり、痛み入ります」
実直で、誠意に満ちた声音。
過不足なく、ただ丁寧に私を扱ってくださる――その振る舞いが、かえって胸に響いて。
(ああ……)
父が頼み込んだ縁談だということは、私自身、よく分かっています。
おそらく、リーリエ伯爵にとっても本意ではないお話。
だから、この対面も、礼儀だけのものなのかもしれません。
……なのに、私は。
嬉しいと感じてしまった。
なんて浮気な心でしょう。
前の生でも、清一さん以上の方はいらっしゃらないと、そう思っていたのに。
似ている、というだけで。
ただ、それだけのはずなのに――こんなにも、胸が焦がれる。
どうして、こんなにも懐かしくて、温かくて、泣きたくなるほど嬉しいのでしょう。
けれど私は、まだその理由を、知らなかったのです。




