表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/118

来訪の知らせ

 伯爵家に嫁いでしばらくが経ち、エマは少しずつこの家のことを任されるようになっていた。


 帳簿の整理、使用人たちの労務、農地と倉庫の視察、取引先との簡単なやり取り……どれも手探りではあったけれど、エマはやりがいを感じていた。


 セイルは、そんなエマの働きを静かに見守っていた。

 ときおり「無理はしないように」と声をかける優しさが、エマの支えになっていた。


 そんなある日、セイルが執務室でひとつの手紙を開いた。


「……来るか、やはり」


 その声に、エマは顔を上げる。セイルは少し渋い顔をしながら、そっと手紙をエマに手渡した。


「ヴィクトル・レイモンド小公爵が、訪問の意向を示してきました。今週末にこちらへ来訪されるとのことです」


「ヴィクトル・レイモンド様……あの、“若き俊英(しゅんえい)”と名高い方ですね」


 エマは父から聞いた話を思い出していた。

 ヴィクトル・レイモンド小公爵ーーーレイモンド侯爵家の長男で、やり手の美丈夫(びじょうふ)だと(もっぱ)らの噂。その貴公子ぶりに、浮き名も多い方。お父様が、年頃の娘たちが手を付けられないようにと「あいつは女たらしだ!」なんて散々非難していたわ。



 セイルはため息交じりに言った。


「レイモンド家は王宮の改革派の中心です。彼らは隣国との貿易において、中継地点であるリーリエ伯爵領に拠点を置いています。今回の訪問の目的は、拠点の増設とリーリエ領での通行料について交渉するつもりでしょう」


 セイルの口調にわずかな警戒がにじんでいた。


「エマ様……その日、私は王宮で陛下の勅命を受けることになっています。レイモンド小公爵の訪問は急なことですが、彼らの訪問を断ることは、リーリエ領にとって損になる可能性がある……」


 エマは察して、微笑んでみせた。


「セイル様がご不在でも、私が対応いたしますわ」


 セイルは驚いたように目を見張った。


「ご心配には及びません。私だって公爵家の娘です。外交に覚えがないわけではありません」


 エマがそう言って微笑むと、セイルはゆっくりと息を吐き、そして小さく頷いた。


「……ありがとうございます。しかし、決して無理はしないでください。ローラとモーリスには、いつも以上に貴女を支えるよう、言っておきます」


「ふふ、頼もしいですわ」


 任せてくれと言わんばかりに笑ったエマに、セイルは頼もしく思いつつも、小さな不安をぬぐえずにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ