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「話・・・?」


困惑したようなライザックの声の響き。

何を言われるのか警戒しているのだろう。

耳に聞こえる鼓動がまた一つ速くなった気がした。

それに彼の不安を感じ取る。

違うのに、とレティーシアはひそかに微笑んだ。

傷つけるようなことは、もう言わないのに。


「あのね、私、不安だったの」

「・・・そうだろうな」


しかし、彼はレティーシアが外に出られなくなったことへの不安を思ったらしい。

レティーシアは一瞬迷って、それからすいと顔を上げた。


ちゃんと目をみて説明した上で、謝りたかった。

どんなに馬鹿みたいなことでも、気持ちを分かってもらうことが大切だと・・・そう思ったから。


その心がライザックに執着される理由なのだといつまでも自覚しないまま。


「違うの。だって、いつまでたってもライは気を許してくれてないみたいだったから。私が話していても興味はなさそうだし、普段から不機嫌そうだし。結局つまらないのかな、って」

「別に、そんなつもりは・・・」


ライザックが目に見えて狼狽え、どういう表情をしていいのかわからない様子になった。

現実と気がついていても、なんだか今日の彼は分かり易い。

本当に酔っているのかもしれない。


「うん。分かってなかった。ただ、ライは表情に出にくいだけだって。でも、一回だけ・・・怪我をしたとき、笑ってくれたでしょう?だから、またあんな風に笑ってくれたらいいなって思ったの。私まだまだライのこと分からないから、目に見える形で楽しい、とか嬉しい、とかそういう気持ちを見せてほしかった」


そう言うと、彼の表情がますます戸惑ったものに変わった。


そんなことを言われてもどうすればいいのか、困るのだろう。シンファやフーシスの話を聞いていて良かった。

わかりにくすぎる彼が困っているのだと言うことに自信が持てる。


だが今はとにかく説明を、と思い、レティーシアは言葉を続けた。


「そんなことを思っていたから段々焦りだしたの。そうしたら、ライが何を考えているんだかますますわからなくなっちゃった。よく見てれば分かったのに、分かりやすいことばかり求めてた。そんな時、シンファがライと喧嘩したのか?って聞いてきたの。ライが落ち込んでるからと。それがその、悔しくて」


そのときの焦燥を、嫉妬した感情をレテは隠さずに伝える。


「ううん、悲しかったのかもしれない。だって、私よりシンファのほうがライのこと、わかるんだって見せ付けられたから。私にはそういう人たちはきっとライの周りにたくさんいる。ライが気づいてないだけで。なら、私は?私は・・・ライのことわからない。どうしてだろう、私は何で必要なんだろうって考えているうちに、どんどん嫌な気分になっていって、ライの行動の意味がもっとわからなくなった」


そして心配してくれていると知ったはずなのにふとした瞬間、たまたま彼を拒絶する行為にでてしまって、後悔したのだと。

いつもライを傷つけてばかりいる自分が嫌で、ライは近づかなくなってしまうし、どうしたらいいのかわからなくなったのだ、と。


「あの、侯爵に話しかけたのもただ、タニスのことが気になったから。深い意味があったわけじゃなかったけど、ライを怒らせてまた傷つけた。また部屋に閉じ込められて、説明をしたくても許されなくて・・・すごく悲しかった。信じられていないと思った」


あの時のことを思って悲しさに視界が歪む。

戸惑ったように、そうっとレティーシアの髪や頬を撫でた。

泣くな、と言う代わりのように。

けれどすぐに"自分が"撫でていいのかわからなくなったのだろう、手が離れる。


「・・・その、他の、男といたから、嫌だったんだ」


言いにくそうにライザックが言い訳をする。

その言葉があのとき聞けていればこんな拗れなかったのに。

ただ、ライザックが言葉にするまでには時間が必要だったのだろう。


「最後まで聞いてくれる?」

「・・・ああ」


ライザックは今は穏やかで、ただ頷いた。


「ライはチョコレートくれたでしょ?だから本当は後悔しているのがわかった。だから私も謝ろうと・・・勝手なことをしたと謝ろうと思っていたんだけど、ライいつまでも来てくれなくて、許してくれないのかなって」

「・・・」

「そんなとき、ライがシンファと話してるのを見たの。ライが、少しだけど笑ってた。・・・私にはいつも苛立ってばかりのくせに。侍女には笑いかけるんだって思ったら、自由を奪われている自分の存在価値が分からなくなった。なんで、ここに私はいるんだろう?いつもライを苛立たせているのに、なんでライは私にこだわるんだろう?もしかしたら、ただ昔の私にこだわっていて今の私は必要ないんじゃないか、本当はシグルンの人たちの方がよっぽどライを幸せにできるんじゃないか、変なこだわりだけで私はいない方がいいんじゃないか・・・って。だから、怒ったの。嫌いってそう言ってしまったの」


ライザックの紫の瞳がすっと細められた。

また苛立たしげな色が浮かんでは消える。

だが、それを見てもレティーシアはもう怖くはない。

これが私の気持ちだと、分かってもらわなければなにも変わっていかないからだ。


「ごめんね、ライの気持ちを考えずに勝手に決めつけたことは謝る。でもね、そう考えたの。私は、私を特別にしてくれていたライの気持ちを分かってあげてなかった。だから、怒ったりして・・・八つ当たりだった。ごめんなさい。ひどいこと言って、ごめんなさい」


ライが本当に心から自分を大切に思っていてくれたのだとしたら、だからこそ謝ろうとしてくれたのだとしたら、自分の言葉はあまりに身勝手な決めつけから出たものだった。


ライはそんな自分を許してはくれるだろうのだろうか。


頭を下げるレティーシアの胸に、不安がよぎる。

彼の真摯な気持ちを思わぬ形で聞いてしまったから余計に。


一方的に疑った自分が許されるのか、断罪が怖かった。


ずっと続くかと思われた重い沈黙を、ふと低い声が破った。それは硬質な声だった。


「・・・俺は、お前を人形だなど思ったことはない。お前に俺の理想を押し付けようと思ったこともない」

「・・・っ、ごめんなさい・・・」


自分が投げつけた言葉を返されて、レテはきゅっと唇を噛む。


うつむいたレテはそろそろと彼に寄せたままだった体をはなそうとする。だが、その動きを感じ取ると腰に回っていたライの腕の力が強くなった。


「ライ・・・?」

「だが、そう思うのも仕方がない。俺はお前を縛りすぎた。そのくせ何も言わなかった。・・・こうしてお前が俺に伝えてくれなければわからないように、お前にも俺のことは分からないのは当たり前だ」


彼の手がレティーシアの離れるためについた手を掴み、そのまま、彼の口元へ持っていく。

手の甲に乾いた柔らかな唇の感触が落ちた。


「意に沿わぬことをし続けたのは俺だ。・・・もう一度許してくれるか?」


許しを乞い、紫の宝石が不安そうに揺れていた。

思わぬ行動なレティーシアの瞳が大きく見開かれる。

だがすぐに我にかえって首を大きく縦に振った。


「う、うん!私こそごめんね、ライ」

「いや、俺が悪かったんだ。・・・すまない」


非常に言い辛そうにライもが謝罪する。

眉をしかめているせいでなんだか怒っているようにも見えた。

だが、いい加減見慣れた。

おそらくは、どういう顔をしていいのか分からないときにこうなるのだ。


レティーシアはくすっと小さく笑い声をこぼした。

一度こぼれると、くすくすと止まらなくなってしまう。


「・・・何だ?」


謝罪のあとに笑われて、ライの声が不審の響きを含んだ。

いつもより、さらに低い声。でも、もう怖いと思わない。


むしろ不器用な彼を可愛いと思ってしまった。


「ごめんね。あのさ、ライは誰かに謝ったことないでしょ?」

「・・・・・」


沈黙はたいてい肯定だ。事実、彼は心から謝る必要性にさらされてこなかった。

死んでしまった相手への懺悔は、絶えずあったけれど。


「そんな怖い顔してたら、せっかく謝っているのに、仕方なく言わされてるって勘違いされるよ」


レティーシアはそう言いながら、そっとライザックの頬に手を伸ばす。頑なに動かない精悍な頬は、触れるとあたたかい。

その手の上から、彼の大きな手が包み込んだ。


「・・・お前もか?」

「え?」

「お前も、誤解するか?俺が・・・真剣に、そう思ってないと」

「ううん」


だが、尋ねられた問いにレティーシアはすぐに首を振る。


「ううん。そんなこと思わない。だってライは本当のことしか口にしないのでしょう?ただでさえ喋らないのに嘘の言葉をいうことなんてないでしょう?」


レティーシアはにこっと一番の笑顔を浮かべた。心から。


「今は戸惑ってるだけでしょう?本当にごめん、って思ってるライの気持ちは伝わってるよ。ありがとう」

「何故、お前が礼を・・・」

「だって、許してくれたから。私もひどいこと言ったのに。ライを傷つけたのに。それを許してくれて、自分の行動を謝ってくれたから嬉しかったの。だから、ありがとう、ライ」


間近で見ていて、ライザックの面が驚きの色に染まったのが分かった。

どうしてだろう、と思っていると、彼は小さく息を吐いてから、こつんとレティーシアの額に自分のそれを重ねた。


「ライ?」

「まったく、お前だけにはかなわないな」


とても嬉しそうに、そう呟いて、それからレティーシアを見て、笑った。

たった一回でレティーシアの心の中に深く記憶させたあの柔らかい微笑み。


レティーシアは頬が見る見るうちに染まるのが分かった。


それを見られたくなくて、慌てて彼の肩口に顔をうずめる。そんなレティーシアの様子に、ライザックは不思議そうに、不安そうに尋ねてきた。


「どうした?」

「・・・反則」

「何が?」

「ライは、やっぱ・・・そんなに笑わなくていい。たまにで」


いつもそんな笑顔向けられてたら、どきどきして落ち着かない。

そこまでの本音は心の中だけで呟いて、レティーシアはぎゅうっと彼のシャツをつかむことにした。

もちろん、顔を見られないためだ。


「何を言ってる?」


たぶん自分が笑っている自覚がないのだろう。心底わかってなさそうな響きだ。

レティーシアは意識している自分が気恥ずかしくてますます俯く。


「いいのっ!」

「レティーシア?」


ライザックの手が、恐る恐るといった様子でレティーシアの髪にそっと触れる。

そのしぐさが不安めいていたのを感じて、しぶしぶまだ赤い顔を上げた。


彼を困らせることも不安がらせることも、決して本意ではない。


「どうした?顔が赤い・・・」

「し、仕方ないでしょ!なんていうか・・・落ち着かないんだから」

「は?」

「だから、ライが笑ってくれるのは嬉しいけどっ、でもそれにどきどきしちゃって・・・ライ、笑うと怖いのなくなるし普通に格好いいし、つまり、照れちゃうの」


鈍い相手に仕方なく本音を言うが、ライザックはやはりわけが分かっていないようだった。


「照れる?」

「ぅ・・・べ、別に、好きでこんな赤くなってるわけじゃ・・・」

「格好いいってどういう意味だ?聞いたことがない言葉だな」

「・・・自覚なかったの?」


とぼけた答えに、今度はレテがきょとんとなった。


「何の?」

「ライって目つきが悪いのさえなければ怖くないし、どっちかっていうと、一般的に整った顔をしていて、私が知ってる範囲でもかなり見目麗しいっていうか、女性に好まれると思う方だけど?」


そこまで言ってレティーシアははっと口を押さえた。

つまり自分も彼の容姿が好みだと言っているようなもので、そのはしたなさとバツの悪さに瞳を泳がせる。

だが、ライザックは特に追求したりもせず、まだむしろ困惑しているように見えた。


「よくわからん」

「・・・わ、わかんないならいいけど」


ひそかに見惚れてしまうことを彼が自覚してなくて少しほっとする。

やっぱりそういうのはあまり知られると恥ずかしい。

だが、レティーシアは付け加えるように言っておいた。


「でも、他の誰かにあんまり笑いかけないでね。なんか、えっと、その。や、やきもち妬いちゃうから」


あんな顔は自分にしか向けないでほしい。

そんな独占欲を持っていることだけは伝えておく。


「わがまま・・・かな?」


それでも少し不安で彼を伺い見ると、ライザックはその視線の先で嬉しそうにしていた。


「いや、同じだな」

「え?」

「俺も、お前が他の誰かに笑いかけるのは見たくない」


お前が笑っているのを見るのは好きだが、と続ける彼に、レティーシアはまた体温があがるのを感じた。


「お前こそ綺麗だから。だから、誰かにとられるのではないかと不安になる」

「・・・べ、別にわ、私はそんな・・・」


フーシスにも言われたが、そもそも社交会でもよく言われていたが、ライザックに言葉にされるとその数倍ものいたたまれなさはどうしたらいいのだろうか。


首筋まで真っ赤になったレティーシアを、ライザックが改めて抱きしめた。


「・・・気をつけて、大切にする、から・・・どこにもいくな」


やっぱり言いづらそうに彼はそんなことを言う。

それがまぎれもない本音だと分かるから、レティーシアは胸が締め付けられるような感覚に陥った。

細い肩口に顔を埋める彼の髪に、そっと手を伸ばす。

見事な赤い髪は、触れると柔らかな感触だった。


「行かないよ、ライと一緒にいる。これからも、怒ったり、泣いたり、喧嘩したりするかもしれないけど、それでもそばにいる。ライがもういい、って言うまでそばにいるから」

「・・・俺は一生、もういいとは言わないぞ」

「そうだったら、嬉しい」

「なんだって・・・?」

「ずっと一緒にいれたら、私も嬉しいから。もういいなんて言わないで」


この王宮にすら身の置き場がないように生きている彼に束縛されることを、レティーシアこそが願う。

一途で不器用すぎるこの人と、ずっと一緒にいられたら幸せだと思うから。

ーーーただ監禁は勘弁してほしいが。


「ねえ、ライ。私言ったことあったっけ?」

「・・・?」


顔を上げた彼の瞳を、レティーシアは覗き込んだ。

間近で瞳を合わせ、にこりと笑う。


「私、ライのこと好きよ」


その言葉に、ライザックの紫の瞳が今までで一番大きく見開かれた。


「本当だよ。好きだからライのこと独占したいなんて思う。私だけに笑ってほしいって。いつからか分からないけど。でも、いつも私のこと心配してくれるライが好き。謝ろうとして、いっつも隠れてチョコレートをくれる不器用なライが好きなの」


照れくさいなんて思わずに、言葉がすらすらと出てきた。

伝えておきたいと強く思った言葉だったせいかもしれない。すこしでも彼が安心して、不安に思わなくなればいいと思った。


すると突然、ライがレテの後頭部を引き寄せて、自分の胸に押し付けてしまった。


「・・・ぅぷ。な、なに・・・」

「黙ってろ」


聞こえる声が揺れている。上擦ったような、変な響きだ。

もしかしてこれは・・・。


「照れてる?」

「・・・・黙ってろと言っただろう」

「なんで・・・、手、離してよ」


だが、ライザックの力は緩まない。

ぱたぱたと暴れると、余計に押し付けられてしまうので苦しい。

やがてレティーシアはあきらめたように力を抜いた。

身を寄せていると、どくどくとさらに速い鼓動が聞こえてきて、くすぐったい気持ちになった。


「馬鹿だな、お前は・・・」

「え?」


しばらくしてから、静かな声が頭上から降ってきた。


「こんな俺を、好きだと。・・・あれだけ、お前に・・・」

「・・・。前のことは、もういいよ。あの出会いがなければ、私はあなたを知らないままだった。今のこの気持ちもなかった。大切なのは、これから先のことでしょう?」


過ぎたことを悔やむよりも、将来を見ようと。


「私は、今、ライを大切に思っている。あなたが幸せであってほしいと思っている。それだけが真実なのだから。ライは?」


尋ねると、髪を撫でていたライザックの手が、上を向かせた。

きらきらとした紫色の瞳と目が合う。

もしかしたら泣きそうなのかと勘違いしそうな、潤んだ瞳だった。

だが、ライの口元には不安の欠片もないような笑みが浮かんでいた。


「俺はずっと前から変わらない。お前以外に大切で、愛しいものはない。お前がせめて喜ぶことがあるなら、何でもしてやる」


何を犠牲にしても、と。

ライの思いはやっぱり強い。ときどきその強さが怖くなるときもあるけれど。


「俺はずっとお前だけを愛している」

「・・・っ」


素直な言葉に、彼の気持ちが表れる。

それがただ嬉しくて、レティーシアから涙がこぼれた。


「泣くな。・・・嫌か?」

「ちがぅ・・・っ!何、聞いてたの?」


涙に驚いたのか、ライザックの面に暗い影が差す。

レティーシアはぽかっと彼の肩を殴った。


「好きだって・・・、ライのこと好きだって、言ったでしょ?嬉しいから、泣けてきたの。ありがとう、ライ」


私を愛しいといってくれて。大切に思ってくれて。

そう言うと、ライザックは目を細めた。そして・・・。


「俺こそが言うべきだな。・・・ありがとう」


初めて聞くその言葉に、レティーシアの瞳からますますの涙がこぼれたのは言うまでもない。


◇◇◇



それからも、ライザックの部屋がレティーシアの説得でせめて兄の部屋に変わった以外何か劇的に変わったことはなくて。


「・・・もういいよ!ライの馬鹿っ!」

「・・・」


ばたばたばた、と荒い足音を立てて、レティーシアが去っていく。

それを苦虫を噛み潰したような顔で見送ったライザックに、一部始終見ていたシンファが恐る恐る声をかける。


「あの、ライザック様。・・・差し出がましいとは思いますが過保護も行きすぎるとただ信じてないように見えます」

「・・・そうか」


シンファの助言はたいてい当たっているので、ライザックはそれ以上不機嫌になることもなく、ただため息をついた。


やっぱり彼はまだよくレティーシアの気持ちが分からない。レティーシアだけでなくて他の人間の気持ちも全くわからないけれど、レティーシアだけのことは理解したいと思っている。


くだらない嫉妬をして、怒らせることもままあるけれど。


「入るぞ」


一度だけノックをして、レティーシアの部屋にはいると、彼女はベッドの上で枕を抱えてふてくされていた。

しかし起き上がってこちらをじっと見ていたあたり、ライザックが謝りにくるのも待っていたのだとわかる。


「何の用?」


応える声は尖っているのに、そのくせ、気の強い瞳は泣きそうに歪んでいた。


「どうせ、信じてないんでしょ?だったら、出てってよ」

「・・・・」


なんと言ったものか迷うライザックに、レティーシアは枕を投げつけた。

いつも拗ねるとこの人を傷つけない程度の暴挙に出る彼女を密かに愛らしいと思っているがうまく言葉にはならない。


投げられた枕を片腕で制し、彼は思い切って彼女の腕を掴み取る。


「や、だってば・・・っ」


嫌がって振り払おうとした彼女をぎゅっと後ろから抱きしめた。


「・・・すまない」

「・・・」

「俺が悪かったから、機嫌を直せ。言いすぎた」


彼の実直な性格を表すように、言葉はいつも真摯だ。

ライザックは、物で謝ることをやめるようになった。

ちゃんと言葉で、自分の思いを言葉で伝えるように努力している。


「・・・謝ればいいと思って」


レティーシアはわざとふくれっつらを作りながら、上目遣いに彼をにらむ。

もう本気では怒っていないのがわかりながら、けれどそれを口にしてはいけないことも学んだ。


「どうしたらいい?」


膨れるレテに、ライザックが尋ねた。

彼はわからないことはきちんと聞くようにしている。

それがレティーシアには嬉しい。

怒るのではなくて、分かろうとしてくれている証だから。


「もう私の話を聞かずに勝手に不機嫌にならない?」

「ああ」

「他の人と話したりしただけで疑ったりしない?」

「・・・気をつける」


嘘がつけず、言いよどんだ。

その様子にレティーシアは仕方ないなぁ、とばかりに振り返り、ライザックの首に抱きついた。


「じゃあ、今日は許してあげる」


今日もレティーシアは寛容だ。


いつか、信じてくれればいいから。

安心して、好かれているんだと思ってくれる日がくればいい。

それまで自分も努力するから。

ライに、安心してもらえるように・・・。


繰り返しそう伝えてくれる彼女に愛おしさだけが募る。


「これで、仲直りね」


レティーシアはライの頬に軽く唇を寄せる。

それを麾下として、ライザックはもろそうで、いつも壊れはしない彼女の顎を掴んだ。


「・・・なに?」

「どうせなら、こちらの方がいい」


そう言って、唇をねだる。


「馬鹿・・・」


憎まれ口を利いてしまうレティーシアはなんだか甘い雰囲気に慣れないからだ。

それでも大人しく瞳を閉じる。


そっと重なった唇は、チョコレートのように甘かった。


甘いものは好きではないが、彼女の甘さだけは極上だと思った。

ひたすらにもだもだしている二人に最後までお付き合いいただいた方どうもありがとうございました。


レティーシアがひたすらライザックをまともな人間の感性に育てるしかないのですが、彼はなまじ力があるので時々方向性がずれます。でもそんなところも可哀想で可愛いと思えてしまうのが母性本能が強いレティーシアです。


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[良い点] 完結おめでとうございます。 更新を最近の楽しみにしていたので完結まで見届けられたことを嬉しく思います。 ライザックの普通の人間関係作り初心者な所と二人共に恋愛初心者な面がみててもどかしくも…
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