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八章 船出と対決



 行きの一・五倍時間を掛け、ようやく船着場に到着。運良く主要な星を巡回する船が停泊中だったので、早速乗り込もうと改札を抜ける。辺境とあって乗り場にいる客は十人足らず。職員も暇そうだ。

「離陸までまだ少し時間がある。小晶、そこで連絡を入れてこい」

 頭上に吊り下がった時計を確認しつつ、売店横の公衆電話を示す。

「はい。じゃあ二人共、少し待っていて下さい」

 彼女はそう断って歩き、受話器を手に取った。腰のポケットから手帳と財布を取り出し、硬貨を数枚入れ、連絡先を見ながら慎重に番号を押す。


「―――もしもし。あ、美希さん?小晶 誠です……あ、うん。大丈夫。今は“紫の星”のゼブレル船着場で、シャーゼさんとお友達のネイシェさんと一緒だから」

「おい!?」名前を出され、反射的に声を荒げる相棒。


「……え、そう……ごめんなさい。連絡しようにも、遺跡の中だったから電話が無くて……うん。不死省の人達には心配しないでって言っておいて……あ、雪さんが泣いてるよ。早く行ってあげて。じゃあ、もう切るね。またね」カチャン。

「雪?親戚でも来ているのか?」

 連日の資料調査でガチガチの首を傾げる。

「あ、そうか。シャーゼさんは知らないですよね。エルと美希さんの二人目のお子さんです。美希さんに似て、とっても可愛らしい女の子なんですよ。でもよく泣いてしまって、上の子はそうでもなかったのに……ああでも、小さな身体であんなに大声が出せるのは、雪さんが元気な証拠ですよね?」

 一人そう安心し、自身が幼子のように微笑む。ヤバい!何この子!?俺とした事が、一瞬意識を持って行かれただと!!?

「あいつ等、政府館に餓鬼を連れて来ているのか?」

「ええ。二人共、託児所に預けるのは嫌らしくて。最初は反対意見もあったけど、今はむしろ皆こぞって連れて来るからいつも賑やかなんですよ。天気の良い日には中庭で鬼ごっこしたり、ふふ……」

「そうか―――第七が出入りする事と言い、五年の間に随分様変わりしたな」

 第七って第七種、さっき名前の出た不死族の事だよな?確か数年前に法律が変わって、“黒の星”から“黄の星”へ大量移住してきたんだっけ。前は見つかったら即強制送還だったらしいけど、今じゃ大手を振って陽の下を歩ける身分―――ん?

「ユアン、お前政府の人間だったのか?」刑事じゃなくて。

「あれ?第七対策委員の事、ネイシェさんに言ってないんですか?」

「こら!本人の承諾も無く勝手に!!」

「何それ?お嬢さん、説明お願い」

「ネイシェ!!」

 くすくす。

「別に隠すような事ではないですよ、シャーゼさん。宇宙の平和を守る立派なお仕事です」

「しかし、私は……」

 ギリッ、キツく唇を噛む。おお、とうとうこいつの重要機密が明らかに!

「私達白鳩調査団にも何度も協力してくれて、本当に助かったんですよ?仕事自体はもう不死省の管轄になってしまいましたけど、もし行方不明にならなかったら私、シャーゼさんを推薦するつもりだったんです」

 よく分からんが、こいつの能力を考える限り色々大変な前職だったようだ。

「―――時計塔事件の後、私は辞表を提出した。仮令連合政府となっても、どの道戻るポストなど無い」

「ええ、聞いています。それでも」

「それに、今の私は一介のトレジャーハンターだ。今更あそこへ戻る気も無い」

 小晶さんが尚も口を開きかけた時、離陸を告げるアナウンスが響き渡った。

「喋り過ぎたな。乗るぞ」

「はい」

 タラップを登って彼女を先に船内へ乗せ、奴も片脚を入れた。




「待てえっ!!!」「あ」「しつこい奴等だ。―――構わん、先に座席へ行け。すぐに追い払う」


 そう言ってタラップをUターンし、下で待っていた四人のむさ苦しい同業者と対峙する。右手は滅多に使わない拳銃へ。相変わらず冷静な面をしているが、逢引を邪魔されて内心かなり御立腹のようだ。

「お宝を渡してもらうぜ、若造」

 バラッグ・ビータの言葉に、ユアンは胸に挿した死に花を示した。

「こいつにもう価値は無い。が、お前等に黙ってくれてやるのも癪に触る」

 銃を抜き、照準を鞭を持った右手に向ける。

「やろうってのか坊主!?」

「こっちは四人だぞ!」

「今日こそその余裕面ボコボコにしてやる!!」

 息巻く連中から視線を外さないまま、奴は肩に乗る俺の首根っこを掴んだ。


「ネイシェ!」「おう!」


 ぽーん!後方に放り投げられた俺は、一直線に改札へ向かって走り、叫んだ。


「暴漢だー!助けてくれー!!」「っなっ!!?」「おい、何出鱈目言ってんだ狐公!?」


 男達の抗議を無視し、俺は素早く職員へ詰め寄る。

「あいつ等、俺の友達をよってたかってリンチしようとしてるんだ!急いで警察呼んで!!」

「何だって!!?駅長、構内で暴行事件発生です!すぐに警察へ電話を!!」

 若い職員の命令を聞き、案内所にいた老人が慌てて受話器を取る。その間に船着場のあちこちにいた職員が警棒を持ち、ユアン達の対峙する乗り場へ殺到。俺も踏まれないよう気を付けながら戻る。

「どうだ、迫真の演技だっただろ?」

「フン」

 既に凶器をホルダーへ仕舞ったユアンとは逆に、哀れバラッグ・ビータ一味は暴行未遂の現行犯で取り押さえられてしまった。

「大人しくしろ!」「暴れるな!!」

「誤解だ!俺達は穏便な話し合いをしようとしていただけで」

「一対四で取り囲んでおいて何をぬかす。駅員、そいつの所持している古地図は盗品だ。警察に盗難届が出されている筈の、な」

「っなっ!?おい、それは本当かユアン!?」

 驚愕の髭とは逆に、事前に知らされていた俺は特に驚かなかった。

 数日前、街の食堂でこれみよがしにブツを仲間達へ見せびらかす奴と遭遇した。一目でヤバげなそいつを相棒はチラ見した一瞬で暗記し、鳳凰亭に戻って複製。それが今日使っていた水遺跡への地図だ。

 驚異的な観察眼と記憶力、加えて解析能力。前職第七対策委員ってのは、一体全体どんな特殊組織だったんだ?

「何だ、知らなかったのか髭?そいつは立派な闇オークションの流れ物だぞ。裏にサインの痕が残っているだろう?―――悪名高き秘密組織、シルバー・フォックスのな」

 インクこそ付いていないが、右下には特徴的な速記体の凹みがあった。どうやら上に敷いた承諾書の筆跡が写ったらしい。

「嘘だろ……こいつは瞑洛の質屋で買ったんだぞ?」

「あの質屋の爺は最近頓に老眼が進んでいる。素人目にも些か難のある鑑定眼だしな、盗品を掴まされるぐらい日常茶飯事だ。―――唯一の利点と言えば、ネイシェを猫と間違えて餌をやってくれる事ぐらいだ」

 キャットフードは正直余り好きじゃないけどな。しかもあの爺さん、賞味期限を確認せず開けるし。今まで腹を壊していないのが不思議で仕方ない。

「って事は、初めから全部知ってたのか小僧!?」

「ハッ!当たり前だ。お前みたいな間抜けと一緒にするな」

 格好良く決め台詞を吐き、何事も無かったように乗降口へ歩き出した奴の肩に跳び乗る。律儀な事に、船内にいる筈の小晶さんは、わざわざタラップの最上部で俺達を待ってくれていた!

「おい、私は『座席』にいろと言った筈だが?」

 若干怒りを含ませ、不機嫌に奴が問う。対し、彼女は不安そうな顔で小首を傾げた。

「でも……シャーゼさんがあの人達と戦って怪我をしたり、置いて行ってしまったらと思ったら、とても一人で座って待っている訳には」

 何て喜ばしいお言葉!だが相棒は一際鋭く舌を打った。

「先程連絡を入れたお前が、万が一乗り遅れればどうなる?定刻通り雁首揃えて船着場で待つ連中が暴動を起こしかねんぞ」

「そんな……皆さん、幾ら何でもそこまで短気では」

「どうだかな。ならのんびり次の便で行って、半壊したシャバムを見てみるか?」

 この外道!いい年こいた大人のくせに、虐めっ子みたいな真似しやがって!!

「………」

「―――おい、小晶?」

 明らかに蒼褪めた(今にも気絶しそうだ)彼女を見て、ようやく地雷を踏んだ事を悟ったらしい。気付くのが遅過ぎるんだよ!

「ま、取り敢えず無事間に合ったんだ。突っ立ってないで乗ろうぜ、二人共」

 見兼ねて再度助け舟を出す。

「え、ええ……行きましょうか」

「ああ」

 頷き合った二人は、揃ってぎこちなく乗船口を潜った。




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