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九章 明らかにされた過去



 何とか無事乗船出来た俺達三人は、ボックス席に斜めで座る。背負ったデイバッグを下ろし、ユアンはチラッと彼女の様子を窺った。

「相変わらず冗談の通じない奴だな」

「お前のは苦えばっかりの特濃ブラックジョークだろうが。なあ小晶さん?」

 未だ暗い顔のままの彼女へ水を向ける。

(仕方ないな。百戦錬磨の恋の達人の俺様が、恋のキューピットになってやるか)

「ホント御免な。でもこいつに悪気は無いんだぜ?ただちょっと口が悪いって言うか、性格がひねくれているって言うか、若干人間嫌いの気まであって」

 自分で言ってて何だが、フォローになってるかこれ?

「―――そんな事ありませんよ、ネイシェさん。シャーゼさんの言う事も尤もです」

「いやいや、脅かし過ぎだよこいつは。幾ら小晶さんが可愛くたって、流石に暴動なんて」

「だといいがな」

 ムキーッ!俺は思わず奴の襟元に爪を立てた。

「こら、何をする!?」

「お前こそ!俺が折角必死こいて弁解してやってんのに、横から水を差すんじゃねえ!!」

 引き剥がそうとする腕を擦り抜け、脇腹に連続パンチを入れる。負けじと奴も左耳を掴み、千切らんばかりに力一杯引っ張りやがった!

「痛えっ!くそっ!こうなりゃ戦争だ!!」

「それはこちらの台詞だ!大体貴様、今朝も寝ていた私の頭を思い切り蹴り飛ばしただろう!?今月だけで十回の大台だぞ、謝罪しろ!!」

「そっちこそ、昨日尻尾を踏んだの土下座して謝れ!何回言っても一向に直りゃしねえ!お前はこのキュートでプリティな尾っぽに恨みでもあんのか!?」

 ふさふさの赤茶毛はまだ真ん中が少し腫れて痛む。踏み躙られた箇所を見て、改めて怒りが再燃した。

「暢気に人の足元になどいるのが悪い!」

「何応!」


 ふっ………くすっ。


 本格的な喧嘩を始めかけた俺達は、その声にほぼ同時に振り返る。先程まで落ち込んでいた小晶さんは―――天使みたいな極上の微笑みを浮かべ、口元に手を当てていた。

「お二人はとても仲が良いんですね。良かった。アムリさんが心配してましたよ?ちゃんと友達を作れているか」

「チッ。アムリの奴、余計な事を……」

「お姉さん?」

「ああ」

 確かに姉上が杞憂するのも無理は無い。この態度で友人関係を築くのは非常に難しいだろう。前職や学校生活でのぼっちな様子が目に浮かぶようだぜ。

「へー。じゃあ五年前のこいつはどんなだったの?俺とっても聞きたいなー」

「おい!?」

「ええと……取り敢えず氣は凄く硬かったですね。前はお父さんの事で、随分無理をしていたから……でも大丈夫、今は澱み無く流れていますよ。ネイシェさんのお陰ですね、ありがとうございます」ぺこっ。

「いや、俺は別に何も。ところで親父さんがどうかしたの?」

 グイッ!鼻を抓まれたぐらいでは流石にもう怯まないぞ!!


「……シャーゼさんが子供の頃に殺されたんです。その仇を討つために第七対策委員へ」

「小晶!!」


 バンッ!座席を勢い良く叩く。伝わった振動で、彼女の軽い身体が数ミリ浮いた。

「す、済みません……でも、本当にネイシェさんには何も教えていないんですね。こんなに仲が良くて長い付き合いなのに……」

「たかが四年だ。とにかく父の話は止めろ。時計塔を思い出して仕方ない」

 ほうほう。それは素晴らしい事を聞いた。

「確かにあれは大変な事件でした。シャーゼさんも巻き込まれた上、酷い怪我を……」

「―――あの程度、瑣末な事だ」

「え?」

 腕を堅く組み、整った眉を思い切り顰める。

「まさかまた記憶喪失か?私は無力なお前を―――この手で以って剣を振るい、散々追い掛け回したんだぞ?」

 おい、ちょっと待て!今さらっととんでもない爆弾発言が飛び出しやがったか!?

「そんな……!あの時は操られていて、シャーゼさんには何の責任も」

「だからどうした?監禁、傷害及び殺人未遂犯だぞ私は。意識の有無など極些細な問題だ」

「もう忘れて下さい。私は全然気にも」

「チッ―――五年経っても甘い奴だ」

 不機嫌な面をフイッ、星空へ背ける。が、俺には銀髪に隠れた真っ赤な耳朶が見えた。

 今の話を解釈するにどうやらユアンの奴、彼女に相当な負い目があるようだ。それも選りに選って殺人未遂とか……何てこった。とんでもない事件の匂いがプンプンするぞ。益々こいつの過去に興味が湧いた。

「この便は旧型だな。シャバムまでたっぷり二時間は掛かる」

 幾ら話題を変えるにしても、そんな事務的なの持ち出すなよ馬鹿!

「そうですね。魔術機械船はまだ普及数が少ないですから……」

 所謂ワープ船の事か。何度か乗ったが、あの転移時独特の浮遊感はちょっと癖になる。タイミングを合わせて尻をわざと浮かせ、面白がる子供もいるそうだ。

「船着場では邪魔が入って何も買えずじまいだったな。船員に頼んで飲み物を貰ってくるか―――何が要る?」

「え?」

「遺跡からここまで歩き通しで、咽喉が渇いているだろうと言っているんだ。リクエストは無いのか?」

 やや詰問気味に言われ、一瞬言葉に詰まる彼女。

「で……では、何でもいいので温かい物をお願いします」

「分かった」

「じゃあ俺はホット」

「行くぞネイシェ」

「おい!?」

 ムギュッ。首根っこを掴まれ、強制的に肩へ押し付けられる。異議を挟む間も無く奴は席を立ち、俺を連行して船室を出た。




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