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六章 五年越しの再会




「きゃっ!?」


 妙なる可愛らしい悲鳴と、やけに軽い落下音。写真と完全に一致した彼女は、打ち付けた腰を押さえて辺りを見回した。纏っているのも写真と全く同じ、変わったデザインの黒の上下服。アクセサリーは特に身に着けていないようだ。


「あれ……ここ、何処だろう……?さっきまで私、病院にいた筈なのに……」


 状況が分からず混乱する女性を無視し、相棒は電光石火の動きで水晶薔薇を掴みブチッ!乱暴に根を引き千切った。おっと流石に激おこぷんぷん丸だ!

「おい、早く元の所に戻せ!」

「ほないな事言われましても、あてもうごっつしんどいねん………ガクッ」

「おいこら糞ババア!勝手に呼び出した挙句天寿を全うするな!!責任を取れ責任を!!」

 常の平静をすっかり失くし怒鳴り散らす。が、寿命の切れた薔薇は役目を終えたと言わんばかりに唇をもぎ、完全にただの綺麗なクリスタル・ローズと化してしまった。

「ユアン!そんなポックリ逝った花より、今は彼女を」

「おい聞いてるのか貴様!?」

 指に力が籠もり、今にも茎を圧し折りかねない形相。駄目だ。頭に血が昇って、全く俺の声が聞こえていない。


「―――シャーゼ……さん?」


 女性がようやくユアンに気付き、潤んだ黒目で捕らえながら小首を傾げる。それを見た奴は額に手をやり、やれやれと頭を力無く振った。

「やっぱり……!良かった、無事だったんですね!!」

 素敵な笑顔で喜びながら立ち上がりパンパン、尻に付いた埃を払う。

「五年間一度も連絡が無かったので、皆心配していたんですよ?特にアムリさんと」

「フン―――要らん心配を掛けた……その、済まん」

 天変地異の前触れだ!あの朴念仁ユアン・ヴィーが、赤らめた頬を隠すように顔を背けやがった!学生の初恋じゃあるまいに!!

「そんな。私よりお二人の方がよっぽど心配していますよ。何の前触れも無く、書き置きだけ残していなくなってしまったから」

「え?それって家出?」

 口を開いた俺に彼女は吃驚!黒目を真ん丸にしてまじまじと見つめてきた。どうやら石畳に降りていたせいで、全くこちらに気付いていなかったらしい。

「シャーゼさん、こちらの赤い狐さんはお友達ですか?」

「違う」即答!?「ただの無駄飯食らいだ。ネイシェ、お前は少し黙ってろ」

「え?いやいや、俺だってこの人とお前について語り合い」

「『黙れ』と言ったんだ」

 言うなり首根っこを掴み、無理矢理デイバッグへ押し込もうとしやがった!

「止めろ!動物虐待反対!!」

 入口に爪を立て、必死で抵抗する。

「五月蝿い!お前が会話に交じると余計ややこしい事になるだろうが!!空気を読んで大人しくしておけ!!」

「元はと言えばお前が全然教えてくれないせいだろ!!」

 ギャアギャア騒ぐ俺達に、女性は零れそうな程目を見開いて呆気に取られる。が、決然と細い腕を伸ばし、奴を制止した。

「暴力はいけません。―――初めまして、えっと……ネイシェ、さん?私は」

「いい、小晶。大体暢気に自己紹介している場合ではない」死んだ薔薇を忌々しげに睨み付ける。「こいつが役に立たん以上、自力で戻すしかないか」

 小晶?苗字だよな?珍しい、初めて聞いた。

「?」

 癖なのか、彼女はまた小首を傾げる。そうしていると見た目より大分幼い印象だ。そして五年の歳月が経過したとは思えない程、写真と瓜二つの顔。

「とにかく、さっさとここを抜けて森を出るぞ。船着場まで行けば公衆電話がある。早く政府館に連絡せんと、今頃お前の付き人共が大騒ぎしている筈だ」 

「付き人?この子、貴族の娘さんか何か?」

 確かに佇まいと言い、一般人ではなさそうだが。

「え?いえ、私は」

「ある意味では一国の王女などより余程性質の悪い立場だな。少しの間所在が知れんだけで戦争が起こりかねん。だろう、小晶?」

「そんな大袈裟な……あ、でもいきなり病院から消えて、今頃看護婦さん達があちこち捜し回っているかも……」

 微笑みが一転、世界が終わったかのような暗い表情。う……ヤバい。年配好きの俺ですら、不覚にも惚れちまいそうだ。

「どうしよう、まだ治療の途中だったのに……」

「まだ行っているのか」ユアンが呆れたように呟く。「もうボランティアなど出来る立場ではないだろうに」

「でも……もしかしたらシェニーさんみたいに元気になって、退院出来る人がいるかもしれませんから」

「は?母さん、退院したのか?」

 間抜けな声を上げる。え、こいつってば入院してた母親残して家出たのかよ?ひでー。口振りから察するに大分長かったようだが、一体何の病気だ?

「ええ、シャーゼさんがいなくなって一ヶ月後に。今は宇宙のあちこちに花を植えるボランティアへ参加しているんですよ。皆が立ち寄る船着場の前とか……良かったら今度、ゆっくり見てみて下さい」

 へえ。確かに、瞑洛の船着場にも可愛いピンクの朝顔が植えられている。花好きなお母さんなんだな。風情皆無の息子とは真逆だ。アムリって人はお姉さん?それとも妹さんか?

「……暇があればな」

 わざと視線を逸らして応えた後、全体に痩せぎすな彼女を手招きした。


「取り敢えず外に出るぞ。付いて来い」




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