ころさないで
フジの最深部で出会ったライガさんは……実体化していた。五人分の魔力を溜めてこんな事も可能になったと笑っていた。でもそれよりももっと驚いた事がある。
貴方、銀髪に緑目なんですね。シフォンと歩いたら確実に親子に間違えられますよ。顔立ちは私で目の色髪の色が父親としたら……そういう事なんだろうか。ディアヌ姫から「貴方はアルドの先祖が愛した人の子孫。なんでもアルドの先祖はフジにいる人とその方を巡って争ったとか」と言われたんだよね。出発の前夜に。つまり私はライガさんといくらの縁はある。シフォンはライガさんと血のつながりを感じる……。まさか、いやでも実体化してるし……。
悩んだら直接聞いたほうがいいよね。ライガさん、貴方はシフォンの父親なの?
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。世界は一つではない。様々な時空が存在する。その中で貴女はアルドと笑い、ルイスと泣き、私と生きたこともあった。だが――それだけ」
抽象的すぎてさらに悩む私に、シフォンは困ったように微笑みながら言った。ライガさんはお母さんが魔力を注入したら神様になるんだよ。神様もその素質がある人も、色んなものが見えすぎるからはっきりした事は言えないんだよ、と。
理解できなくても納得するしかないんだろう。とにかく、私は最後の御子として魔力を注入する。
山が伸びて、空の穴が塞がった。あそこからくる怪物や隕石がもたらす疫病を、もう心配する必要はないと、アルドが涙をこぼした。来たばかりの私にも、それが世界の悲願だったのだと分かる。
やがてノームが私を帰すと言った。ルイスを連れて行くことを許してくれた。それにしても早すぎないか、終わってすぐなんてとあまりの慌ただしさに文句を言ったら、かつて悪霊に分散され封じられた精霊は、異世界の御子によって解き放たれ、もっと大きな存在――ライガと統合されるから時間が無いと言う。急いで帰ろうとして、シフォンと目が合う。シフォンの身体は徐々に透けてきていた。
「未来に……帰ります」
「そう。未来で会おうね、シフォン、ううん、志穂」
ノームが沙穂とルイスを異世界へ送る。それを見届けた後、志穂は地面に突っ伏して泣き出した。ライガが慰めながら言う。
「貴方の父親はアルドだね?結ばれたら最終的に横死するしかないと知っていたから、二人を引き裂いた……」
「…ぅぅっ…」
志穂は泣いていた。身体が完全に消えるまで、ずっと泣いていた。
「きゃああああああああああああ!!!!!」
沙穂は叫んだ。赤ちゃんを産んだばかりでどこにそんな力が残っていたというほどに。看護士が「大丈夫です、元気な男の子ですよ、黒髪でお母さん似ですね」と慰めようとする。それが今の沙穂には逆効果だった。
「違う!黒髪じゃない!あの子は、あの子は……!」
結局、精神安定剤を打ってもらいその場をおさめるしかなかった。
あの子はどこに行ったんだろう。あれは夢だったの?違う、それならルイスといるのはおかしい。じゃあこの子はなんなの。この子がいるから、あの子がこれないの?
そっと沙穂の手が寝ている赤ん坊の首にのびる。
「やめろ!」
帰ってきたばかりのルイスが沙穂を止める。
「あなた……だって、だって……」
ルイスは沙穂を抱きしめた。赤ん坊はルイスの声で起きたらしいが、ぐずることなく、じっとルイスと沙穂を見て口をもごもごさせた。
ころさないで
そう聞こえたような気がするのは、良心の呵責だろうか……。
トラウマしかない異世界トリップ完結しました!ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!




