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はなしてあげられない・わかれてあげられない  作者: IROKA


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1/7

#1 生きて帰ってきた者がいないと言い伝えられている、竜人の国に拐われてしまった私

竜人と人間のつがいのお話。

この世界には様々な種族が暮らしている。


最も個体数が多いが、他種族と比べて力が弱く、短命故に脆弱と言われている"人間"。

海の生物に変化し、ヒレを持ち、エラ呼吸をし、水中でも生活できる"魚人"。

動物特有の能力や、優れた聴覚、嗅覚、パワーを持ち、動物の姿に変化できる"獣人"。非常に視野が広く、高い視力、優れた動体視力を持ち、鳥の姿に変化し、空を飛べる"鳥人"。鳥人や、海の生物に変化できるが、エラがなく、肺呼吸をするクジラやイルカ、シャチ等は獣人の仲間とされている。

それから、人間よりも身長は低いが、体も意志も固く職人気質なドワーフ。

ドワーフよりも小さく、人間の半分ほどの身長の陽気な小人族。

小人族よりもさらに小さいのが、自由奔放でイタズラ好きな妖精族。

長命で、自然は愛すが排他的なエルフ。

そして、この世界で圧倒的な力を身に宿しているのが、ドラゴンの血を引く竜人と呼ばれる種族だった。


人間たちの間には昔から、ドラゴンにまつわる言い伝えがある。

『竜人帝国・ドラクロスへ足を踏み入れて、生きて帰ってきた人間はいない。』

これはすべての人間の国で語り継がれていて、子どもでさえ知っている伝え話だった。

人間である私、ルナティア・ウィリアーズも当然その言い伝えを知っていた。

だけど…。まさか自分が、そんな言い伝えのあるドラクロスへ強制的に連れて来られてしまうなんて夢にも思わなかった。

そう。私は今、生きて帰ってきた人間はいないと言われているドラクロスにいるのよ━━━。


あれは、ほんの数時間前のこと。

任務を終え、仲間たちと撤収作業をしていたところへ、ドラクロスの使いの者だと名乗る糸目の男が現れたの。その男に馬車に押し込まれると、外から鍵をかけられ、そのままドラクロスの帝城へ連れて来られたのよ。なんの説明もなくね!?

(うん。誘拐されたのよ、私。)

そして城に着くやいなや、入浴させられ、その間に私物が没収されていた。代わりに、豪華なドレスや宝石を身につけさせられ、化粧までされたのよ。確かに、任務終わりだったせいで汚れていたと自分でも思うけど…。

メイドたちは、私を着飾ったあと、お茶を淹れるとそそくさと部屋を出て行ったわ。なんの説明もしないでね!?

誰も説明してくれないから、私は、自分で情報を集めることにしたわ。

他種族からは弱いと言われる人間にも、魔法や魔術の才能がある者、特殊な能力を持つ者がいる。そして。それは、私にもあるの。

部屋に放置された私はバルコニーへ出ると、目を閉じ、聴覚を研ぎ澄ませ、探知能力を発動した。城内の会話から情報を得て、状況を把握するためと、逃走経路を探すために。すると、城中のいたる所から私の話題が聞こえてきた。その内容に憤慨しそうになるのをこらえ、まずは仲間たちへ私が無事だということを伝えるため、近くを飛んでいた鳥へ声をかけた。その鳥の足にメモをくくりつけると、仲間たちのもとへ辿り着けるよう術をかけて、空へと放った。


『私は無事だから、心配しないで。私を助けようと、早まって竜人帝国へ来てはダメ。』


どうかみんなが、私を助けるためにこの国に足を踏み入れるなんてバカな真似をしませんように。そう願いながら、想いを託した鳥を見送っていると、頭上に大きな影が現れた。

影の正体はドラゴンだった。

ドラゴンは、バルコニーにいる私めがけて急降下して来た。この黒いドラゴンが、至近距離で私の顔をまじまじと見てくるから、ルビーのような真っ赤な瞳を見つめ返したわ。

どうやら、私が身につけている宝石が欲しいみたい。だから、宝石を欲しがるこの黒竜の角にルビーのネックレスをつけてあげたの。まぁ、私のネックレスじゃないんだけど。この城の宝石を、この国のドラゴンへあげるのだから、別に問題ないわよね?ドラゴンは満足そうな顔でペコッとおじぎをすると、飛んでいったわ。

見上げた空には、当たり前のようにドラゴンたちが飛んでいる。

(あぁ、私。本当に、竜人の国にいるんだ…。)

上空のドラゴンたちを見ながら、動物と意思疎通が図れる自分の力が、理性のあるドラゴンにも通用すると確信した。

私はこの能力の他にも、鋭い五感を持っている。その力を使って、城内の会話を盗み聞きしていたの。それで、この国に連れて来られた理由、放置されている理由、それから衝撃的な話を耳にしたわ。


人間が暮らす国は大小合わせ100ヶ国以上あり、その全ての国と竜人帝国との間では、ある約束が交わされている。それは、人間の中に竜人のつがいが生まれた際、その者をドラクロスへ住まわせるというもの。"約束"なんて友好的な呼び方をしているけれど、これは強制的なもので、人間側に拒否権はない。竜人に、つがいだと言われたら、人間は従うしかないの。

つまり、竜人のつがいに選ばれた者は、本人の意思など関係なくドラクロスで暮らさなければならないのよ。

それでね。私は、その『つがい』に選ばれたようなの。

私は、ドラクロスの皇弟、ノクティウス・ドラゴラウノス大公殿下のつがいとして連れて来られたみたい。皇弟といっても、竜帝である兄のルミウス陛下とは双子らしいわ。双子ということは、お二人は似ているのかしら??

じつは私、驚きはしたものの、竜人のつがいに選ばれたこと自体には不満はないの。お会いしたことはないけれど、きっとノクティウス殿下は、私の望む結婚相手の条件を満たしているだろうから。

だけど…。納得いかないこともあって、モヤモヤしてしまう。だって、ノクティウス様にとって私は5番目のつがいなんですって!つがいって聞いたら、運命だと思うじゃない!それなのに、5番目??運命の相手って、何人もいるものなの?5番目の運命のつがいだなんて、それって運命って呼べるのかしら!?

しかも使用人たちの話では、1~4番目のつがいたちはみんな、このドラクロスに来てから短い期間で亡くなっているそうなの。


『竜人帝国・ドラクロスへ足を踏み入れて、生きて帰ってきた人間はいない。』

最悪なことにね、あの言い伝えは本当のことだったみたい。


その後も私は放置され続けた。

つがいだというノクティウス様も訪ねて来てはくれなかったわ。私はなんのために着飾られたのかしらね!?

日が暮れると夕食が運ばれてきたけど、メイドは準備を終えると一目散に部屋を出て行った。その様子に不安を覚える。

盗み聞きした話では、1番目と4番目のつがいだったお二人は、この部屋で亡くなったそうなの。それも、4番目の方が亡くなったのは、この城に来てわずか数時間後だったらしいわ…。

それに、亡くなったつがいたちの死因は、いまだにわかってないのよ。もしかしたら、人間が亡くなっても、取るに足りないこととして扱われ、詳しく調査されなかったのかもしれないわ。重く受け止めているのは、ノクティウス様だけ。

つがいが亡くなる度に、ノクティウス様によって、彼女たちに関わった者たちは暗殺の疑いをかけられたり、命を守れなかったことを咎められたりして処罰されたようなの。

そのような前例があるから、使用人たちは、私に関わるのも、このいわくつきの部屋に長居したくもないのだろう。

つがいたちの死因に関しての情報を得られず、すべてに対し警戒している私は、用意されたお茶や食事に手をつけなかった。3日くらい飲まず食わずな状況には慣れてるから、平気だしね。


私は耳を研ぎ澄ませ、情報収集に専念した。そして、夜通し集めた情報を基に作戦を立てると、満を持して竜帝陛下のもとへ向かった。

これまでのつがいの方々は従順だったかもしれないけど、私は言いなりになるつもりなんてない!言い伝えも関係ない!!私は絶対に、生きて帰るんだから!!

堂々と城内を歩く私を、廊下ですれ違った人々は驚いた顔をして見てきた。そんな視線を気にも留めず、竜帝とその弟のいる部屋を訪ねた。昨日から続いている、この兄弟による堂々巡りの会話を止めるために。

(お二人の会話けんか、いい加減聞き飽きたわ。)

部屋の前に待機している護衛が、待つように言ってきたけど、説明もなく、散々待たされた私は、これ以上は待てなかった。

ノックすると、私は入室許可の返事をもらう前にドアを開けた。

呼んでもいないのに部屋を訪ねた私を見て、ノクティウス様とルミウス陛下は言い合いを止めた。

ここまで放置されたことを抗議しようと意気込んで部屋へ乗り込んだ私もまた、ノクティウス様の姿を目にして息をのんだ。

私は数日前に、彼と会っていたから…。


数日前。

魔物を討伐する任務にあたっていた際、暴走した竜と遭遇したの。理性のない竜を人里離れた荒野へと誘導すると、まずは、生き物と心を通わせることのできる私の力が、竜にも通用するかを確かめるため竜に対峙した。だけど、私の言葉は竜には届かず、暴走竜は私に向かって炎のブレスを放った。

そのとき、私の目の前に別の竜が現れ、その金眼の黒竜は咆哮で暴走竜のブレスを相殺した。

暴走竜を倒した黒竜は、人の姿に戻ると、胸を押さえて膝をついてしまった。暴走竜の放ったブレスに毒が含まれていたのかもしれないと思い、夜空みたいな黒髪に、輝く月のような金色の瞳を持つその人のもとへ駆け寄ろうとした瞬間━━。

胸が苦しくなり、私も彼と同じように胸を押さえて、膝をついたの。

彼は顔を歪めながら、『早過ぎる…。』とつぶやいていた。

そのあと、私たちはお互いに仲間の肩を借りて、その場をあとにした。胸の痛みは寝て起きたら治っていたから、彼も大丈夫だろうとは思っていたけど、その彼が今、目の前にいるの。

ノクティウス様は、あのときの黒髪金眼くろかみきんがんの竜人だった。


「そなたが、我が弟の新たなつがいか?」

先に口を開いたのは、ルミウス陛下だった。

「陛下、余計なことは言わないでください。」

ノクティウス様はいら立った様子で、ルミウス様を睨みつけた。余計なことというのは、『新たな』という言葉を指しているのだろう。

「ヘイスティングズ王国、ウィリアーズ伯爵家の長女、ルナティアと申します。ご挨拶が大変遅くなり、申し訳ございません。昨日中にはお目通りが叶うものと思っていたのですが、誰一人として状況を説明してくださらないまま夜が明けてしまいましたので、私の存在をお忘れなのかと心配になり、自らご挨拶に伺った次第でございます。」

「フッ。これはまた、これまでのつがいとは随分と毛色が違うではないか。」

「ルミウス!!」

ルミウス様がやたらと、ノクティウス様には私の他にもつがいがいたことを強調してくる。そんな兄に対して、ノクティウス様はイラ立ちを見せている。だけど集めた情報から、ノクティウス様にとって自分が5番目のつがいであることをすでに知っている私は、動揺することはなかったわ。

「毛の色ですか?」

『毛色が違う』と言われ、自分の銀髪をつまんで確認する私を見て、陛下は鼻で笑った。

「毛色とは、髪の毛の色のことを言った訳ではないのだが。」

「そのようなことは、わかっておりますわ。」

真顔で返事をすると、陛下の眉がピクッと動いた。これで、少しはルミウス様のペースを崩せたかしら?ルミウス様がいちいち、他のつがいを引き合いに出すから、対抗意識が芽生えてしまったわ。

「陛下、私と賭けをしてくださいませんか?」

「賭けだと?」

唐突に賭けに誘われた陛下は、怪訝な顔をしている。

「ええ。もしも、私が賭けに勝ったら、私を国に帰してください。」

陛下は眉間に寄せたしわをさらに深くし、いぶかしげな表情を浮かべた。

「人間の国と竜人の国とで交わされた約束を知らぬ訳ではないよな?そなたの言動を、約束を違える発言だと解釈するが、相違ないか?」

ノクティウス様が、私に対して威嚇するような鋭い眼光を向けてくるルミウス様の前に立ち塞がった。

「おい、ノクティウス。実の兄に対して、なんて殺気を放ってるのだ。相変わらず、つがいのこととなると冷静さを失くすのだな。」

私の目の前にはノクティウス様の背中があり、表情は見えないけど、彼の放つ殺気はひりひりと感じている。

「約束の内容は、竜人にとって弱点となるつがいを守護するために、この国に留まらせるというものですよね?ですが、むしろこの国にいた方が、私の命は危険に晒されるのではありませんか?これまでのつがいの方々のように。」

ノクティウス様の背中越しに、ルミウス様へ問いかけると、ノクティウス様が急に振り返り、苦しそうな表情で私を見つめてきた。彼のトラウマを刺激してしまったんだわ…。

「どうやら、この城には口の軽い者がいるようだな。つがい殿、その話は誰から聞いたのだ?」

「それはまだ秘密ですわ。賭けを受けてくださるのならお教えします。」

「ではまず、その賭けとやらの話を聞かせてもらうとしよう。」

「陛下は、大公殿下の弱点となる私が、敵対勢力に捕らわれ、足枷となるのを懸念しているのですよね?それなら、私が自分を守れる力を持っていることを証明してみせます。ですので、この国で一番強い者と手合わせをして、私が勝ったら、この国を出て暮らすことを認めてほしいのです。それで、手合わせの前に、私の愛剣のミュゲルを返してください。」

「そなたの言い分はわからないでもないが、その手合わせはやるだけ無駄だ。そなたが、愛剣を使おうが使うまいが関係なく、勝負の結果はわかりきっているからな。」

「それは、やってみなければわからないじゃないですか!?」

竜人にしてみれば、人間なんて非力な生き物でしかないのだろう。実際、城内でもそのような会話が多くされていた。だけど、勝負する前から負けることを決めつけられ、私は怒りを覚えた。19年生きてきた中で、私が一番時間を費やしてきたのは、剣だったから。

「いや、やらなくてもわかる。そなたが勝つのは明白だからな。」

「…勝つのは、私なのですか??」

予想外の返事に、あっけにとられてしまった。

「そうだ、そなたの圧勝であろうな。この国で一番強いのはノクスだが、ドラクロス最強である我が弟も、つがいには勝てないのだから。」

ルミウス様の話の意味を考え、ハッとした。

つがいに手をあげることができないのですね…。」

「その通り。つまり、手を抜かれた手合わせで勝利を得たとしても、そなたの強さは証明されないのだ。」

ノクティウス様へ視線を送ると、あからさまに顔をそむけ、視線を合わせようとしてくれない。どうやら本当に、ノクティウス様との本気の手合わせは望めなさそうね。

だけどこれで、私が結婚相手に望む条件を彼が満たしていることが確定したわ。

「それでは、2番目に強い方とならいかがでしょう?」

「2番目となると、騎士団長のダグラーだな。2番手とはいえ強いぞ。そなたは、本気で手合わせをしようと言うのか?」

「私は騎士団で副団長を務めておりますので、強者との手合わせは望むところですわ。」

「そうか。ならば、そなたが負けた際は、大人しくこの国で暮してもらうぞ。」

「ええ、わかりました。ですが、私が勝った際には、この国を出る許可をいただきますから、約束を守ってくださいね。それでそのときは、ノクティウス様も一緒に来てくださるのでしょう??」

問いかけた瞬間、満面の笑みを浮かべたノクティウス様に抱き締められ、突然唇を奪われた。

「はぁ…、ノクス。お前、自分のもとを去ると思っていたつがい殿から、ともに国を出ようと誘われ、嬉しいのはわかるがな。加護を与えるにしても、私の前で戯れないでくれないか。」

ノクティウス様は、私に置いていかれると思っていたのね。だから、私がこの国を出たいと言ったとき、悲しそうな表情をしていたんだわ。


この城に連れて来られてから、私が耳にした、お二人の会話は━━━。

ノクティウス様は、ルミウス様へ、これまでのつがいがこの国に来てから短期間で亡くなった原因は、この国にある可能性が高いと言い、私を自国へ帰すよう取り合ってくれていた。だけどルミウス様は、私になにかあればノクティウス様が暴走するため、そのことを危惧して首を縦に振ってはくれなかった。

この国で守ればいいと譲らないルミウス様。

つがいに出逢ったことも、亡くしたこともないからしょせん他人事なんだろうと、ノクティウス様。

それに対してルミウス様は、何度も巡り会える奴もいるというのに、皮肉なものだよなと言い返していた。

ドラクロスから『出す』、『出さない』というお二人の対話は、ずっと平行線だった。

それが、一夜明け。

つがいの存在に懸念を抱くルミウス様へ、ノクティウス様は、自分もつがいとともに国を出ると訴えたのよ。私を守るためにね。

私は、そんなノクティウス様の決意を聞いて、ルミウス様へ賭けを持ちかけることを決めたの。


私のために国を出ると言ってくれたノクティウス様のために、私は自分の力を証明してみせるわ。

『今回のつがい様も、また脆弱な人間なのか…。』

城内を探知していて、昨日から何度も聞こえてきた、ノクティウス様のつがいがまた弱い人間だったと嘆く、この城の人たちの声。

そんな人たちに、私はただ守ってもらうだけの存在ではないと、わからせてやるわ。










当初の設定は、

竜人が竜化した姿→竜

野生のドラゴン→ドラゴン

と、呼び方をわけるつもりでしたが、語呂がなんとなく合わないところがあって、やめました。

なので、竜と言ったり、ドラゴンと言ったりしてますが、呼び方を統一していないのには、深い意味はありません。




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