初依頼で伝説級を拾いました
朝。
目を開ける。
――知らない天井。
いや、知っている。
昨日泊まった宿の部屋だ。
木目の天井。
隙間風はない。
冷たい朝の空気はあるが、森の湿気とは違う。
「……ああ、街か」
体を起こす。
背中が痛くない。
首も痛くない。
硬い地面でも、石でもない。
ちゃんとした寝具。
マットレスのようにふかふか、とは言わないが、十分柔らかい。
胸元を見る。
ここちゃんが丸まっている。
白い毛並みが朝日に透ける。
胸ポケットでは、むぎちゃんが小さく動いた。
「おはよう」
キュッ、と返事。
それだけで、今日も大丈夫な気がする。
隣のベッドでアクセルが目を開けた。
「起きたか」
「ああ。今日は初依頼だ」
森で生き延びる生活は終わった。
ここからは、街で暮らす生活。
そのためには。
「金を稼ぐぞ」
アクセルが静かに頷く。
⸻
■ 初依頼
ギルドの朝は早い。
昨日ほどの視線はないが、やはりちらちら見られる。
「おはようございます、レイン様」
ミアが笑顔で迎える。
俺は社会人スキルをフルに活かす。
「おはようございます。本日、依頼を受けたいのですが」
ミアがカウンターから木札を取り出す。
「Fランクですので、こちらからお選びください」
木札が並ぶ。
討伐はまだ危険だ。
目についたのは――
「薬草採取、お願いします」
「かしこまりました。南門外の森になります。日没前にはお戻りください」
「ありがとうございます」
受付を終える。
アクセルが横で言う。
「俺も同行する」
「ああ、頼むな」
ギルドを出ると、空は澄んでいた。
⸻
■ 森へ
森はこれまでと同じだ。だが今日は立場が違う。
今日は“仕事”だ。自然と気持ちも引き締まる。
鑑定を発動する。
《薬効:微》
《品質:並》
《採取可》
「よし」
《鑑定レベル1》
《精度向上には使用回数が必要》
「わかってる」
繰り返す。
何度も。
数を集める。
Fランクにしては順調だ。
アクセルは周囲を警戒しながら少し離れた場所にいる。
ここちゃんは足元で草を食み、
むぎちゃんは胸ポケットから外を覗いている。
平和だ。
本当に平和。
――その時。
木陰に、違和感。
虹色に光る、小さな花。
「……なんだこれ」
近づく。
甘い、でもくどくない香り。
空気が澄むような匂い。
鑑定を使う。
《鑑定結果:不明》
《解析不可》
《鑑定レベル不足》
「レベル不足?」
《使用回数不足。精度未達》
「なるほどな」
完全に見抜けるわけではないらしい。
「まあ、綺麗だし」
いい匂いだ。
薬草ではなさそうだが、害も感じない。
「ミアにあげたら喜ぶかな」
《推奨:詳細解析》
「今日はいい」
軽い気持ちで摘み取る。
それが――
やらかしの始まりだった。
⸻
鑑定のおかげで薬草は十分な量を確保した。
「Fにしては多いな」
アクセルが言う。
「森で慣れてるからな」
少しだけ誇らしい。
だが調子には乗らない。
上々の成果だ。
少し早いが余裕をもって街へ戻ることにした。
⸻
ギルドに入る。
ミアが俺の顔、薬草の入った袋へと視線を移した。
「レイン様、おかえりなさい。たくさん採取できましたか?」
ミアはニコニコしながら俺が差し出した袋を受け取る。
「……想定量より多いですね。素晴らしいです」
「森に慣れているので」
少し照れる。
そして思い出す。
「あ、そうだ!これ」
虹色の花を差し出す。
「綺麗だったので。よろしければ」
ミアが受け取る。
一瞬。
止まる。
まばたき。
もう一度、見る。
顔色が変わる。
「……レイン様」
声が小さい。
「少々お待ちください」
花を抱えたまま、奥へ消える。
ざわ。
周囲がざわめく。
「おい、今の……」
「まさか」
「いや、そんなはずは」
不穏な空気に、俺はアクセルを見る。
「なんかまずいことした?」
「……わからん」
正直だな。
――バンッ
奥の扉が勢いよく開く。
⸻
重い足音。
見るからに強そうなドワーフ。
赤い髭。
低い視線。
アクセルに目を止め、次にレインを見据えた。
「……お前がレインだな?」
名を呼ばれる。
「はい」
反射的に背筋が伸びる。
「サイファ冒険者ギルド、マスターのドランだ。お前に話しがある。ついて来い」
ギルドマスターからの呼び出し…
これ、絶対怒られる流れだ。
不穏な雰囲気に言葉が出ないでいると
アクセルが横に並ぶ。
「俺も行く」
「好きにしろ」
黙ってついていく。
重い扉が閉まる。
部屋の空気が変わる。
アクセルは俺の後ろに立っている。
ドランが机に花を置く。
「これを、どこで手に入れた」
緊張しながら答える。
「森です。薬草採取中に」
ドランは鋭い目つきで問う
「鑑定はしたか」
「しましたが……不明と出ました」
「ふむ、鑑定レベルは?」
「1です」
沈黙。
ドランが深く息を吐く。
「これは虹色霊花だ」
「……はい?」
「伝説級の最上級回復薬の主材になる」
頭が真っ白になる。
「こんなものが市場に出れば大騒ぎだ…」
「……知らなかったんです」
正直に言う。
ドランはしばらく俺を見る。
「意図的ではないんだろ」
「ありません」
「……ミアに渡した理由は」
「綺麗だったので」
アクセルが小さく吹き出す。
ドランが目を細める。
「度胸があるのか、無知なのか」
「後者です…」
正直に答える。
しばらくの沈黙。
やがて。
「今回の件は、功績として扱う」
「え?」
「偶然であれ、伝説級の花だ。発見したこと自体が功績となる」
叱責ではなかった。
だが。
「だが覚悟しろ。目立つぞ」
それは困る。
心から困る。
ドランが立ち上がる。
「本格的な騒ぎになる前に処理する。お前は帰れ」
「ありがとうございます」
深く頭を下げる。
俺はまだ知らない。
この一輪が、俺の立場を少しずつ変えていくことを。




