次の行き先
いつもお読みいただきありがとうございます。
家庭の事情により、10月21日まで更新をお休みさせていただきます。
更新再開まで少しお時間をいただきますが、引き続きよろしくお願いいたします。
北部冒険者ギルドを出る頃には、もう昼が近かった。
朝から話を聞いていたせいか、思ったより時間が経っている。
「腹減ったな」
俺が言うと、アクセルがすぐに頷いた。
「ああ」
「今日はちゃんと覚えてたぞ」
「ああ」
「そこ褒めるところか?」
テラが笑う。
このままどこかへ入ってもいいが、今日は一度川音亭へ戻って話したい。
マハルへ行くかどうか。
それをちゃんと決めておきたい。
「なんか買って帰るか」
「そうですね」
カインが通りの先を見る。
広場の近くには、昼時になって屋台がいくつも出ていた。
⸻
焼いた肉。
薄いパン。
野菜を挟んだもの。
揚げた芋。
適当に人数分を買っていく。
アクセルだけは当然のように多めだ。
「それ全部食うのか?」
「ああ」
「昼だぞ」
「ああ」
「聞いても意味ないな」
俺も自分の分を受け取る。
ここちゃんは腕の中。
むぎは胸元で大人しくしていた。
きゅる。
キュ。
「帰るか」
⸻
川音亭へ戻る。
部屋へ入ると、買ってきた昼飯を大きなテーブルへ並べた。
カインはギルドでもらった地図を広げる。
「食べながらでいいですよね」
「ああ」
椅子へ座り、まずは腹を満たす。
焼いた肉を挟んだパンを食べながら、地図を見る。
ヴァルカン。
そこから北西へ伸びる道。
途中から山へ入り、その先にマハル。
徒歩で二日ほど。
馬車は使えない。
途中で一泊。
「で」
俺はパンを置いた。
「どうする?」
テラが地図を見る。
「ヴァルカン周辺は、もう見なくていいだろうな」
「ああ」
古い祠はある。
石碑もある。
山には鉱山跡もある。
でも、どれも由来が分かっている。
「祠は昔の村が山の守り神を祀ってたもの。石碑は道標。鉱山も枯れて閉じただけ」
俺が指を折りながら確認する。
「遺跡もなし」
「わざわざ見に行っても、今聞いた以上のものは出なさそうですね」
カインが言う。
「俺もそう思う」
テラも頷いた。
ノアは地図の北西を見ている。
「なら、次はマハルだな」
「ああ」
俺もそこを見る。
昔から名前が残っている。
古い話も、ヴァルカンより残っている可能性がある。
それだけで十分だ。
「何かあるって決まったわけじゃないけどな」
俺が言うと、カインが頷く。
「現地で話を聞いて、それからですね」
「そうだな」
マハルにも何もなければ、また次を考えればいい。
今はまだ、それでいい。
アクセルが二つ目の肉を食べながら地図を見る。
「歩くんだろ」
「ああ。二日くらい」
「山?」
「途中からな」
「じゃあ荷物は減らすのか?」
「減らすっていうか、歩きやすいようには整理した方がいいだろうな」
テラが答える。
「馬車が使えないなら、途中で必要になるものを出しやすくしといた方がいい」
「野営も一回ありますしね」
カインが地図の途中を指す。
「水が取れる場所があるとは聞きましたけど、全部それに頼るわけにもいきません」
「ああ」
水は持っていく。
背負い籠の給水器も、昨日試した限り問題なかった。
「飯もいるな」
アクセルが言う。
「お前はそこだよな」
「ああ」
「でも今回は正しい」
徒歩で二日。
途中で一泊する。
「ここちゃん達の分は昨日買ったし、あとは俺らの食料と水だな」
牧草や木の実、ドライフルーツは補充してある。
必要なのは俺たちが道中で食う分だ。
「移動中の昼は、先に作っておいた方が楽そうですね」
カインが言う。
「ああ。携帯用の炉はあるけど、昼まで毎回出すのも面倒だしな」
テラも頷く。
「燃料も使うからな」
「まだ余裕はあるけど、減らさずに済むならその方がいい」
共用厨房もある。
明日、簡単なものを作っておけばいい。
夜は野営になるから、その時は携帯用の炉を使えばいい。
「じゃあ、明日は準備だな」
俺が言う。
「ああ」
テラが頷く。
「食料と水を揃えて、昼用も作る。あとは装備と地図の確認だな」
「それでいいですね」
カインが答える。
「その次の朝に出るか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「宿にも明日のうちに言っとこう」
五泊延長したが、全部使う必要はない。
ヴァルカン周辺で調べる場所がないなら、ここに残り続ける理由もない。
「決まりですね」
カインが地図を畳む。
次はマハル。
ようやく、行き先が決まった。
⸻
午後は特に何かするでもなく、川音亭で過ごした。
ここちゃんを撫でる。
むぎは自分の場所で木の実を齧っている。
きゅる。
キュ。
ノアは昨日買ったメルとバレルを何度か見ていたが、今日はまだ手を付けないらしい。
「作らないのか?」
「明日」
「そうか」
理由は分からない。
まあ、本人がそう言うならいい。
俺も今日はゆっくりする。
明日は準備。
その次の日からは、また徒歩の旅だ。
⸻
夜。
夕食はいつも通り部屋へ運んでもらった。
木製の出前箱から皿を取り出し、テーブルへ並べる。
「マハル、湯に浸かれるんだったな」
テラが言う。
「ああ」
「楽しみか?」
「そりゃ楽しみだろ」
「調査より?」
「だから調査が先だって」
テラが笑う。
「まだ聞いてないぞ」
「顔に書いてある」
「書いてない」
カインが小さく笑った。
「でも、楽しみがある旅の方がいいと思いますよ」
「だろ?」
俺はすぐに乗る。
「調査だけじゃ疲れるからな」
「都合のいい理屈だな」
「うるさい」
食事を終え、皿を出前箱へ戻す。
階段横の返却棚へ置き、その後はいつも通り順番に個別の洗い場を使った。
全員が部屋へ戻る頃には、もう眠る時間だ。
ここちゃんとむぎの様子を確認する。
水。
牧草。
木の実。
問題なし。
「明日は準備だな」
「ああ」
テラが寝台へ腰を下ろす。
「その次は山か」
俺は窓の外を見る。
夜の向こう。
ヴァルカンのさらに北西にある山。
その先にマハルがある。
何があるかは、まだ分からない。
でも。
行ってみなきゃ分からない。
「よし」
小さく呟いて、俺も休むことにした。




