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転移迷宮と蒼の魔法陣


今日も薬草採取。


サイファ北東の森は、最近すっかり“庭”だ。


「この辺り、品質が安定してるな」


《採取効率、向上》

《鑑定熟練度、上昇傾向》


(数字で言うな)


アクセルは少し前を歩き、警戒を続けている。


森は静かだ。

風も穏やか。

魔物の気配も薄い。


完全に平穏。


――の、はずだった。


胸ポケットが、ぴくりと揺れる。


《高濃度魔力反応を検知》

《小型個体、感知反応増幅》


「むぎ?」


次の瞬間。


むぎちゃんが飛び出した。


一直線に森の奥へ。


「え、ちょっ――!?」


「待て!」


アクセルが即座に動く。

俺も追う。


むぎちゃんは迷いなく進む。


草をかき分け、根を越え、岩をよじ登る。


そして。


そこにあった。


ぽっかりと口を開けた穴。

石造りの人工的な階段。


「……ダンジョン?」


アクセルは怪訝な表情


「ダンジョンって…」


昨日までなかった。

少なくとも、俺は知らない。


《高濃度魔力反応》

《新規迷宮発生の可能性》


「最悪だな…」


むぎちゃんは躊躇なく中へ入る。


「おい待て!」


慌てて追いかける。


暗い。

湿った空気。

魔力が濃い。


階段を降りた瞬間。


――囲まれた。


ゴブリン。

牙狼。

小型魔獣。

十数体。


目が赤い。

興奮状態。


「罠か!」


アクセルが剣を抜く。

だが数が多い。


その瞬間。


頭の奥に、短い声。


《後方、二体接近》


くさえもん。


俺は反射で叫んだ。


「後ろ! 二体!」


アクセルが振り向く。


ほぼ同時だった。


飛びかかったゴブリンが、次の瞬間には地面に沈む。


牙狼が横から跳ぶ。


《左側、増加反応》


「左も!」


俺の声に、アクセルが踏み込む。

斬撃が走る。


囲みが一瞬、崩れる。


蒼い光が少し先の床に展開した。


幾何学的な蒼の魔法陣。


空間が裂ける。


光が収束し――


そこから、少女が現れた。


長い蒼銀の髪。

透き通るような肌。

神秘的な気配。


彼女は一瞬で状況を把握した。


「……ここは?」


魔物が迫る。


少女の瞳が冷える。


「邪魔」


指先が上がる。


空間が震える。

大気が軋む。


「――大精霊魔法」


風が収束。

炎が螺旋を描き。

雷が絡み。

氷が地面を走る。


複合展開。


一瞬。


たった一瞬で。


魔物は、消えた。


焼け焦げた匂い。

砕けた氷片。

静寂。


俺は口を開けたまま固まる。


アクセルが低く言う。


「……エルフか?」


少女がこちらを見る。


「ここは、どこ」


声は冷静。

状況を分析する目。


俺は答える。


「サイファ近郊の森だ」


少女は一瞬、空気を確かめるように目を細める。


「……精霊大陸の魔力ではない」


わずかな確信。


「私は精霊大陸の転移迷宮を攻略中だった」


「転移罠にかかった」


……なるほど。


だからいきなり魔法陣から出てきたのか。


アクセルが問う。


「戻れるのか」


「現状では不可能」


即答。


重い沈黙。


そのとき。


地面が、揺れた。


遠くから伝わる魔力の奔流。


少女が目を閉じる。


「……迷宮が異常を起こしている」


「魔力流動が暴走状態」


俺の足裏にも振動が伝わる。


《群体発生予兆》

《スタンピード確率、高》


(スタンピードってあの…)


少女の目が開く。


「放置すれば街に波及する」


アクセルが剣を握る。


「どうする」


少女は一瞬迷い、


そして決断した。


「封印は時間が足りない」


「コアを破壊する」


空気が張り詰める。


「迷宮が崩壊するぞ」


「それでも未然に止める方が被害は小さい」


即断即決。


怖いが…街に被害が出るのはだめだ。


俺は頷く。


「やるなら急ごう」


迷宮の奥へ走る。


魔物の流れを逆走。


少女が前。

俺とアクセルが左右を処理する。


《前方、三反応》


「三体来る!」


アクセルが即応。

一閃。


《右側、増加》


「右も!」


少女の風が軌道を逸らす。


俺は前を見る。


脈打つ巨大な結晶。

赤黒い光。


「これがコアか」


ノアが両手を掲げる。


「精霊よ、応えよ」


空気が震える。


巨大な魔力収束。


「――破砕」


蒼い閃光。

轟音。


コアが砕け散る。


衝撃波。

天井が崩れ始める。


「脱出だ!」


走る。

崩れる階段。

跳ぶ。

外へ。


背後で、迷宮が沈む。


地面が静まる。


振動が止まる。


森は、静寂を取り戻した。


少女がゆっくり振り返る。


「……未然に防げた」


アクセルが彼女を見る。


「名を聞こう」


少女はまっすぐ名乗った。


「私はノア」


「精霊大陸所属、S級冒険者」


「大精霊魔法使い」


森の空気が、変わる。


ここちゃんが腕の中で、きゅる、と鳴く。


むぎちゃんが胸ポケットから顔を出す。


ノアの視線がむぎちゃんに止まる。


「……あなたが、最初に反応した?」


むぎちゃんは瞬きを一つ。


俺は肩をすくめる。


「うちの子は勘が鋭いみたいだ」


ノアの視線が白い毛玉へ移る。


黒い大きな瞳。

淡いピンクの鼻。

無垢。


「……なるほど」


何を理解したのかは分からない。


アクセルが言う。


「街へ来るか」


ノアは少し考え、頷いた。


「状況整理が必要」


利害一致。

それだけだ。


だが。


薬草採取の平穏は、終わった。


新しい風が吹き込む。


精霊大陸のS級冒険者。

大精霊魔法使いノア。


胸ポケットで、むぎちゃんが小さく鳴いた。


きゅ。


森は、何事もなかったかのように静かだった。

ノアの“大精霊魔法”は精霊との契約による属性魔法です。

今回のような複合展開は、複数属性を同時に制御する高位技術になります。

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