74話 一悶着×2
後半は元の時間に戻り、鶴嘴っ娘視点になります。
自分達が協会と呼んでいる組織の正式名称は日本探索者協会という。探索者からは協会と呼ばれるが、一般的には『Japan Seekers Association』その頭文字を取って『JSA』と呼ばれることの方が多い。ニュースでもそう呼ばれている。
で、協会は各都道府県、各市町村に設置されている。そして24時間営業年中無休である。
なんでこんな話をしたかというと。
「買取は終了しましたー。お引き取りくださーい」
と、なんともやる気のない声色で受付嬢がそんな事を言ったのだ。
しかも手でしっしっと自分達を追い払うかの様なジェスチャーまでする始末。
「買取は24時間受付中の筈ですが?」
「んー? おじさん見ない顔だねぇ。ひょっとして初心者? 買取出来るか出来ないかこっちが決められるって事知らないのー?」
「へえ、そんなルールがあるとは知らなかったな」
神野君が割って入る。
「そうなんですよぉ、なのでお引き取りくださーい。全く、初心者はコレだから……」
神野君と顔を見合わせ肩をすくめる。お互い頷き、探索者カードを取り出す。
「クラン『D.B』所属神野勇人だ」
「迷宮適性SSの中村浩士です」
「クラン『D.B』? 何それ知らないんだけど。それにおじさんがSS? 冗談はやめてよね。あ、ひょっとしてカード偽造? これから警察呼びますねー」
等とこちらを馬鹿にしたような事を言う始末。
「警察ね……別に構わんが。どちらが後悔する事になる事やら」
神野君が電話をかけている。誰に繋いでいるのだろうか。
「ところで……さっきのルールだっけ? 是非ともこの人に教えてほしいんだが」
と神野君がスピーカーモードにしたスマホの画面を受付に向ける。
『もしもし。君の言っていたルールとやらを私にも教えてほしいんだけど』
あ、めっちゃ聞き覚えある声だ。
『探索者協会の会長である私に。素材の売買は受付が勝手に決めていいというのは何処にも書かれていない筈なんだが、そんな文言が何処に書かれているのか、是非とも教えてもらえるかな?』
受付の表情が固まる。だがすぐに嘲笑する。
「何かと思えば、会長? どうせ口から出任せの偽物でしょう。会長という証拠、見せてくださいよ」
『いいよ』
と、誰かのスマホから着信音が鳴っている。L◯NEか何かか? 自分のではない。当然今使用している神野君の物でもない。となれば……
「スマホ鳴ってるぞ。良いから出てみろ」
この受付のだよな。
「何よ、協会からの通知? ……え? なんで!? 減俸3カ月ってどういう事よ!?」
『不真面目な職員にまともに給料払うとでも。些か横暴だとは思うけど私が誰なのか理解してもらう為にその様な措置を取らせてもらった』
「じゃ、じゃあ……本当に?」
『会長の伊倉だ。神野君がいきなり連絡入れてきたから何事かと思ったら……』
「ひぇ……す、すみません! 今すぐ素材を買い取らせていただきますので!」
「あ、いいです。いつも利用してる宮崎の協会で買い取ってもらうので」
「あっ……ま、待ってください! 待って!」
いや待たないよ。
協会て確か各支部の買取の査定、そしてその額の状況とかで基本給上がったりするんだっけ? 今回自分らが買い取ってもらう予定だった竜の牙凡そ20個、これを拒否ったから査定に響くのは確実だろう。
尚、後日判明したのだが、この支部の支部長と副支部長が幽霊職員を使って、その分の給料を懐に入れていただけでなく、職員の給料の一部をピンハネしていた事が発覚。そしてこの巫山戯たルールも支部長が容認していたとか。当然支部長と副支部長は更迭され、クビ。あの受付と同じ事をしていた職員は全員減俸の上再教育が施されたとかどうとか。それと人員も普通に足りていなかった。真面目な職員は退職、或いは不当解雇されていたそうな。退職、不当解雇された職員は会長である伊倉さんが直々に謝罪、再就職&別の支部に配備、それと賠償金が支払われる事になった。当然そのお金は支部長と副支部長から。
いやー、悪い事って出来ないもんだね。
あと権力持ってる知り合いがいると楽だね。
当然だけど、竜の牙は適正価格で買い取ってもらった。宮崎の支部で。めっちゃ夜遅くなったにも関わらず、ちゃんと対応してくれた受付さんに涙が出たよ……
***
「へー、そんな事があったんですね」
「まぁねぇ。最後であんな事になるなんてねぇ……」
宮崎に来て3日目。コラボ当日。
協会宮崎支部。ここで何処の迷宮に行くのか連絡する。
どの迷宮に行くのかを伝えるのは探索者の義務だ。そうしないと何か起きた時に所在が解らないとかになると救出に遅れ、大変な事になりかねないという事で、義務化された。これでだいぶ迷宮内での死亡事故は減ったらしい。残念ながら無にはならなかったけど。
尚、初日と2日目は観光に費やした。
初日は県南を観て回った。件の青島神社に始まり、鵜戸神宮、飫肥城、都井岬と南下。青島神社でお参りし(ご利益が恋愛成就って……)、鵜戸神宮では運玉を投げ(入らなかった……)、飫肥城ではお兄ちゃんのお土産(厚焼き玉子と言う名のプリン)を購入、都井岬の岬馬可愛かったなぁ。けど猿は凶暴だった。
2日目は高千穂神社から馬ヶ背、西都原古墳群。意外と遠くて時間がかかった。中村さんが言うには、高千穂は寧ろ熊本からの方が近いとの事。
観る所多いんだけどなぁ……
「おはようございます。中村さんは本日はどの迷宮に?」
「この娘と四家ダンジョンに」
「へぇ……」
受付さんがニヤニヤしてる。ウチと中村さんは受付さんが想像する様な関係じゃないんだけどなぁ……
「下衆な勘繰り止めてもらえます? 親子ほど歳の離れた娘とそういう関係になる訳ないでしょう。恋愛とかもう懲り懲りですし」
「あー……そうですよね。流石に小学生は犯罪ですよね」
「ウチこれでも18歳なんですけど?」
よく間違われるから慣れてるけど、あまりいい気分じゃない。
「あはは、やだなー、冗談に決まってるじゃないですか……ですよねー。探索者なんだから少なくとも15歳超えてますよね」
むすー。
因みに15歳でも中学生は親の許可がいるそうな。
「あの、中村さん。なんで笑ってるんですか?」
「いや……そんな顔膨らませてたら間違われても仕方がないな、と」
ムキー!
***
「おいオッサン」
「ん?」
誰かに呼び止められた。オッサンて中村さんの事かな?
というか中村さんを呼び止めた人、なんか見覚えある様な。
「誰かと思えば江藤君じゃないか」
思い出した。最初の配信で中村さんに難癖つけてきた3人組の1人だ。けど残りの2人がいない。
「オッサン、アイツらをどこにやった!?」
「アイツら?」
「備前と椎名に決まってんだろ!」
ああ、確かそんな名前だった。
「どこにやったって……知りませんよ」
「巫山戯んな! 俺等に恨みあんのオッサンくらいだろ! どこにやったんだよ!」
「……愛想つかされたんじゃ」
「黙れチビ」
むっかぁ!!
「誰がちんちくりんのどチビだー!」
「誰もそこまで言ってねえ!」
「まあまあ2人とも落ち着いて」
ウチと礼儀知らずの江藤との間に入る中村さん。
「江藤君、身体的な事で中傷を言うのはいけません。巴さんも彼の神経を逆撫でしない。まあ自分も同じ気持ちですが」
「んだとゴルァ!」
中村さんに凄んでるけど、全然怖くない。というか中村さんめっちゃ落ち着いてる。
「君達を恨んでるとかないですよ。寧ろ君達でしょ、自分を恨んでるのは。それにどこにやったって言われても知らないです。誘拐紛いなことする気もなければする必要もない」
「てめぇっ……」
彼が中村さんに掴みかかろうとするけど、周囲の目を気にしてか舌打ちをすると。
「クソが! 覚えてろよ!」
と捨て台詞を吐いて出ていった。
何だったんだアレ。
ま、あんな性格だから愛想つかされたんでしょ。
「彼の事気にしても始まらないし、さっさと行きましょうか」
ウチは頷き、協会を出る。中村さんの車に乗せてもらい、今日行く迷宮、四家ダンジョンへと向かうのだった。
協会の職員でも、その為人が良いとは限らない話。尚、例の受付さんは僻地の支部に左遷となりました。
「お前も蝋人形にしてやろうか」(閣下)




